8日目 リベンジ②
ネムラム×4による闇属性魔法の一斉射、クルリス・リコイルによるサブマシンガン、そして男の三連弓乱れうち──……凄まじい火力がエレパンダに叩きつけられ、エレパンダはたちまちの内に1万、2万と体力を削られていく。
ゾーイは常のメスガキフェイスを崩し、般若の様な形相で男を睨みつけるがそれは男を喜ばせるだけだ。
人の不幸は蜜の味、では人の怒りは?
──さとうきびの優しい甘さ。いつまでも眺めて居られる
不幸は甘いが過剰摂取すれば胃もたれするし胸焼けもしてしまう。それに男は人の不幸は蜜の味とはいっても、不可逆的な不幸は逆に大嫌いなのだ。事故だの事件だの、死んだだの大怪我だのと、そんなものは全く面白くもなんともない。
あくまで男の感覚ではあるが、ちょっとした不幸が良いと思っている。
──例えばSNSで過激な発言をし、それが原因で謝罪文を書かねばならなくなったとか
──例えばSNSで過激な発言をし、それが原因で家族や恋人、友人らに冷たい目で見られてしまったとか
しかし、そういったちょっとした不幸でさえも積み重なれば胸焼けしてしまう。
それに比べて怒りは見てて楽しい、男は心底そう思っているのだ。
無論、怒りの感情は見てて面白いとはいっても、本気の本気、ガチのマジな怒りは流石に男としてもノーセンキューだ。そういった怒りは他者の悲劇に繋がる恐れもある。
しかしエレパンダ&ゾーイの様に "相手を舐め腐ってたせいで痛打を喰らい、そのミスを自分の至らなさにではなく相手に対してぶつける" というような他責気味の怒りは見てて最高に面白いと男は考えている。
そういった者を虚仮にし腐って、血圧を急上昇させてやるのが男の趣味であった。
「エレパンダは強い。恐るべきパルだ。しかし数は力、それが戦の習いよ。メスガキ、お前はランチェスターの第一法則を知ってるか?俺は良く分からないが」
◆
男もそれなりに被弾するが、最終的に火力で押し切った。
最後、男の放った矢がエレパンダの左の眼球を射貫き決着。
エレパンダを喪ったゾーイに男がゆっくりと近づく。
ゾーイは全身を闇魔法で痛打され、動く事も出来ないようだ。
衣服も破れ、あられもない姿のゾーイに男は冷たい視線を向ける。
「ね、ねえ待って!殺さないで!」
ゾーイの命乞いを聞いた男は首を傾げた。
「死んでもいいだろ?俺たちに本当の意味での死は訪れない。ここで俺に殺されたとしてもお前はすぐに蘇る筈だ」
しかしゾーイは首を大きく振った。
「違うの!違うのよ!それは私じゃない!今の私は死んじゃうの!蘇った私は私じゃない私なのよ!あなただって元はここの人間じゃないんでしょ!?私もそうよ、でもこの島で一度死に、もうここの人間になってしまった!今度の私は私のままで居たい……っ!もう入れ替わりたくないの!」
ゾーイの言葉には真が籠っている。
両の瞳には涙が溜まり、ぽろぽろと零れ落ちている。
それを見た男は……
──ああ、そういう設定なのね
と心の中でトリガーを引いた。
サポートスキル発動のトリガーだ。
クルリス・リコイル。
ぱっ、ぱっ、ぱっ、と。
赤い花が幾つも咲いた。