3日目 殺日
男は現状の拠点に当座の満足感を得た。
まずは木造三階建てのマイホーム。
男の寝床は一階部分に作り、そこで寝起きをしている。
このゲームは夜になると手元すら見えない程暗くなるため、男は夜間は寝る様にしている。
寝なくても生命維持には何ら支障はないのだが、闇に包まれたこの世界を松明一本で探索するとなると目が非常に疲れるのだ。
ちなみに二階部分と三階部分はすっからかんだ。
寝床もなければチェスト……物入れもない。
いずれスペースを必要とすることなどもあるだろうと考え、とりあえず作っただけだ。
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マイホームの向かいにはベリー畑が広がっている。
これはパルの食糧を生産する重要な施設だ。
男はそこにペンギンと溶けた切り株の様なパルを配置していた。
彼らはそれぞれ水撒きと種やりを得意としており、配置しておけば勝手にベリーを植えて水をやってくれる。運搬は運搬で適正があるのだが、これはペンギンがやってくれるので問題はない。
まあ戦いに敗北した以上パルたちを生かすも殺すも男の裁量次第であり、捕えたパルたちに食事をくれてやる義務はない──……しかし彼らは種まきだの水撒きだの伐採だの採掘だの、そういった拠点を維持していく上で必要な活動を担ってくれている。
そういった義理があるため、男は「自分達で食糧を生産するなら」という条件で毎日パルたちにベリーを与えているのだ。
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そしてベリー畑から向かって左、伐採場と採掘場がそれぞれ建設されている。
ここはその名の通り、木材と石を産出するための施設である。
男は伐採場にクルリスと言う名の緑色の可愛いリス、採掘場に猫を配置していた。
ちなみに猫は胃潰瘍になった猫ではなく、別の猫だ。
クルリスは器用なパルで、種まきから伐採、手作業や運搬など様々な仕事をこなすことができる。
通常こういったキャラクターは戦闘には向かない事も多いのだが、クルリスは「クルリス・リコイル」という必殺技を使う事が出来るため一匹は探索に連れていきたいところだ。
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ところでこのクルリス・リコイル。
これは恐るべき技で、発動するとクルリスが男の頭に乗り、サブマシンガンで敵を射撃するのである。
見た目は優し気で可愛らしいクルリスだが、ガイドブックにはこうある。
「5歳児から7歳児程度の知能がある。パートナー向きだが、武器の扱いを教わった個体が主人を殺害した記録も、それなりにある」
ここで甘で柔な者ならば芋をひいてクルリスを放逐するか、もしくは放逐しないまでも隔意を抱くかもしれない。
しかし男はそんな殺伐とした説明文も意に介さず、ニヒルなウルフめいたオーラを漂わせながら呟いた。
──殺すんだ、殺されもするさ
それに、と男は思う。
──クルリス・リコイルの破壊的かつ破滅的な火力を以てすれば、フィールドボスらしき怪物パルも抹殺できるのではないか?
男の視線の先には巨躯が見えた。
レベル36『グランモス』
象から草が生えたような外見の怪物だ。
拠点の近くをうろついている。
幸いにもあちらから積極的に攻撃してくるといった敵対的なパルではない。
男は手元の古びた弓を見て思う。
──要するに近づかなければいいのだ
弓と矢、クルリス・リコイルで遠間から攻撃する。
グランモスも遠距離攻撃はしてくるかもしれないが、それとて距離があればかわせるだろう。
男の前世はマスターランク999のハンターである。
一人で古龍をぶち殺す事など日常茶飯事であった。
ハンターだった頃の血が騒ぐ!
思い立ったが殺日、男はクルリスを連れてグランモスに向けて歩を進める。