最終話:民主主義の光
深くは聞かないでください
ふと男は天を見上げた。
空から囁き声が聴こえてくる気がしたのだ。
男は耳を澄ます。
すると、「ヘルダイバーヘルダイバーヘルダイバーヘルダイバーヘルダイバーヘルダイバーヘルダイバー絶対面白いぞ、ヘルダイバーを買え。お前好みの作品に間違いない。やりたいんだろう?買え!!!」という謎の声が聴こえてくる。
──ヘルダイバー?
男は首を傾げたが、突然凄まじい頭痛でその場に崩れ落ちる。
視界の隅から闇にも似た何かが滲み、その暗黒領域は瞬く間に拡大していった。
その間もヘルダイバー、ヘルダイバーという声は響き渡り、男は遂に失神してしまった。
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目覚めた男はふと周囲を見回す。
そこは戦場であった。
「なにっ」
男はすぐにパルを呼び出そうとスフィアボールを取り出すが、あるはずのそれがない。
それどころか──……
「まて、スフィアボールとは一体なんだ?」
あれほど可愛がったクルリスの事も、ひいてはパルワールドの事も、男の記憶からなくなっていた。
代わりに男が感じたのは燃え盛るほどの使命感だ。
──民主主義!!!
そう、男は自分が民主主義の守護者、ヘルダイバーであることを思い出したのだ。
不幸なことに気味の悪いムシ、ターミニッドが銀河系全域に広がってしまった。このまま放置してしまえば民主主義のマインドが銀河系から失われてしまう!!!
民主主義エリート軍団「スーパーアース」がヘルダイバーを招集し、薄汚い虫けら共を地獄の底に追い返す事を決定した。
男はそのヘルダイバーの一員だ。
民主主義を愛し、民主主義なら大量虐殺をも厭わない戦士である。
戦士には家族は要らない。恋人もいらない、パルもいらなければ拠点も不要だ。
必要なのは同じヘルダイバーである同志だけ。
民主主義を守るという高潔な理想に燃えた同志だけである。
男はふと横をみた。
フルフェイスのヘルメット、なんだかイカしたスーツ、そしてマント。両手には必殺の気配が漂うデカい銃。
仲間だ。
男と同じヘルダイバーである。
そして、そのヘルダイバーは男に向かって頷いた。
言葉はない。
しかし男には彼が何をいったのか理解できた。
真に通じ合ってさえいれば、本当に必要な事は所作からでも伝わるのだ。
男も頷き返す。
男と男の意思は不可視のレーザー光線となり、互いから放射され、ぶつかりあい、混じりあった。
そして理解する。
自分達は同じ理想を追い求めていると。
「行こう。民主主義を護るために」
男が敢えて言葉に出していうと、やはり同じように声がかえってきた。
「殺そう、民主主義を守るために」
二人は頷き、銃を構えて走り出す。
──……彼らの名前はヘルダイバー、民主主義の守護者
(了)