12日目 狩り
レベルアップの為にただただパルを捕獲し続ける日々が続く。
この世界で強くなりたいのならばパルを捕獲する事が一番効率がいいのだ。
「実に人道的な世界だな」と男は頷き、焼きベリーを口にした。男の主食である。
焼きベリーの作り方は簡単だ。
何千粒ものベリーを調理鍋にぶち込み、火を操る事に長けるパルに焼かせるだけ。自分で火に炙ってもいいのだが、そんな時間があるならば他の作業をしたほうが有意義ではある。
男が人道的だなと言ったのは、殺害するより捕獲のほうが遥かに経験値効率が良い事についてである。
「パルワールドのPALは友人という意味。つまり、この世界は優しい世界──……みんな友達」
そんな事を呟きながら、男はサボっているペンギンを抱え上げて製粉所に向かって投げ飛ばした。
べちゃりという音と共に青い光が飛び散り、ペンギンは元気そうに製粉作業を始めた。パルたちは強靭な肉体を持っており、いくら投げ飛ばしても傷一つつかない。犬猫とは生物としての強度が違う。
なおなぜ投げ飛ばしたのかというと、このムーブはパル仕草で「この作業に専念せよ」という意味で、男がパルを虐待しているというわけではない。
ちなみに製粉所だが、ここでは小麦を小麦粉へと製粉している。小麦粉は様々な料理の材料となる重要素材で、これを使って作られた料理は焼きベリーなどより遥かに腹持ちがよく、時にはバフさえも与えてくれる。
◆
男はホークウィンに跨り、高空から拠点を見下ろしていた。
まだまだ小さい拠点だ。様々な施設がとっちからかっており、機能性には改善の余地がある。
「このままここを発展させるのもいいが、第二拠点を考える必要があるな。第二拠点は鉱石採掘場としたい。まあまだいくつか足りない素材がある。それを集めてからまた考えよう」
男は呟き、ホークウィンに指示を与えて西へ飛び去った。
・
・
・
飛行する事暫し。
男はやや標高が高い位置にある大きな湖の上空へと到着した。
ホークウィンから飛び降り、グライダーを展開。
下腹がキュウとなるような浮遊感を覚えつつも、見事な滑空技術で地上へ降り立つ。
着地と同時にスフィアを掲げ、ライゾーを呼び出した。
ライゾーは一言で言えば黄色いクマパンダだ。パンダ自体がクマなので、クマパンダという表記はおかしいようにも思えるが、そんな事はどうでも良い。
このライゾーは見た目こそコミカルな三枚目クマちゃんなのだが、その実態は恐るべきビーストである。
雷を自在に操る雷属性でも上位のパルだ。落雷、放電、更には強力な電撃を纏ったパンチを繰り出し、敵対者を粉砕する。
男がなぜこんなパルを従えているのかというと、とある密猟団のアジトにライゾーが捕えられていた所を救ったからだ。密猟団の面々は弱者で、、交戦開始から1分も立たずに男とクルリスによって皆殺しにされた。
そんな弱者に強者であるライゾーが捕えられていた理由は定かではないが、「多分薬でも使われたんだろう」などと男は思っている。
そしてそんなライゾーだが、スフィアから解放されてすぐに歯をむき出しにし、そのビーストライクな本能を剥き出しにしはじめた。
同時に大気が焦げる独特のにおいが辺りに立ち込める。
次瞬、ライゾーが雷を呼び出して直線状に放つ。
ラインサンダーと呼ばれる電撃系中級パルスキルである。
標的は正面・青い恐竜めいた姿のパル、『ペコドン』だ。
背は青く、腹は白い。
全体的にもっちりしており、見た目だけでいうならデフォルメされた可愛らしい恐竜といった所だが、その実態は悪食の魔獣である。
何でも食うのだ。
パルも、人間も。
男はかつてこことは違う場所で『イビルジョー』という暴食の化身のような怪物と戦った事があるが、性質としてはそのイビルジョーに似ているかもしれない。
タフで、しかも魔法の様な遠距離攻撃まで使ってくる強敵。
しかしそんな強敵をライゾーは鎧袖一触で焼き焦がした。
水属性と雷属性という相性もあるかもしれないが、それにしたって圧倒的である。
男はペコドンの死骸に近づき、戦利品を拾った。
『上質なパルオイル』だ。
要するに体液である。
男はこれが欲しかったのだ。
つまり狩りは成功──……いや、失敗だった。
「ライゾー、殺すなっていつもいってるじゃないか」
男が不満そうに言うと、ライゾーはクマクマと申し訳なさそうに啼き、謝罪した。男はペコドンを抹殺したかったのではなく、捕獲したかったのだ。
だがこの場合、悪いのは男である。
面倒くさがってライゾーを出した男が悪い。
瀕死に追い込むのは他のパルでも良かった筈なのに、戦闘時間の短縮を優先してライゾーを出してしまった男が全面的に悪い。