11日目 レベル上げ
「クルリス」
男が首を掻っ切る例のジェスチャーを取ると、クルリスが赤い瞳に流血への渇望を滾らせて風の刃を複数射出した。
勿論刃の向け先は男ではない。
クルリスから放たれた風の刃は、男の足元に倒れている複数の人間たちの体をズタズタに切り裂いた。
瞬間、周囲に噎せ返る程の血臭が広がる。
男は僅かに顔を顰めた。
彼はホラーの類は好きだが、スプラッタは余り好きじゃないのだ。
しかしクルリスはと言えば男とは真逆に、どこか表情を蕩けさせている。
可愛らしく賢いクルリスも、その性根は血に飢えた獣だという事だろうか?
そういえば、と男はクルリスの特性の事を思い出す。
クルリスの特性は【サディスト】【すぐ骨折する】だ。
サディストは攻撃+15% / 防御-15%され、すぐ骨折するは 防御-20%である。正直いってクソの様な組み合わせだが、男はこのクルリスを気に入っていた。
通常、この様なパルは余り良い扱われ方をしないのだが、このクルリスは賢いが故に自身の価値も理解しているようで、だからこそ男に対して非常に媚びてくる。
そんな媚びリスがまるで「私ちゃんと殺れた?」というような目で男を見上げてきた。
男は頷き、死体から戦利品を剥ぎ取る。
と言っても、粗悪な銃弾や小銭、下級のスフィアボールといったしょうもないものばかりだが。
ちなみに男が行きずり強盗をしでかしたとか、そんな非人道的行為に手を染めたわけではない。
死体の正体はレイン密猟団の下っ端たちだ。
ただ、頭目であるゾーイが死んでもなお活動を続けているのはわけがある。
男はふとつい先日の事を思い出した……。
・
・
・
男はクルリスを頭に乗せたまま眼前のパルを睨みつけた。
エレパンダだ。
肩にはゾーイも乗っている。
ゾーイはメスガキめいた目つきで男を見ているが……
「俺の事は覚えていないのか?」
そんな男の問いにゾーイは意地悪く笑ながら「はァ?キモ!いきなり何?あ、もしかして油断を誘う作戦とか?ばーかばーかwwお兄さん顔だけじゃなくて頭も悪いワケ?(>◡<)」などと返した。
3分後、ゾーイは腹に大穴を空けながらヒューヒューと息をしながら血の泥濘に斃れ伏す羽目となった。
クロスボウの太い矢が直撃したのだ。
瀕死のゾーイを見下ろしながら、男は考える。
──「蘇った私は私じゃない私なのよ」か
"あの時のゾーイ" の言葉の意味が何となく分かったような気がした。
「記憶が連続していないのか?」
男はこれまでの事を思い返すが、記憶の連続性に違和感はない。
「俺も何度か死んだが、これまでの事は覚えている。自分の事もだ。俺の名前は〇〇〇〇〇、都内在住のシティボーイ、好きな食べ物はローストポーク……」
誰ともなく男は呟き、手を伸ばして助けを求めるゾーイの脳天にもう一度クロスボウを撃ち込んで止めを刺した。
・
・
・
そんな事を思い出している男は、脚に違和感を感じる。
見れば、クルリスが脚に抱き着いていた。そんなクルリスの頭を撫で、北に向かって歩を進めた。
目下レベルアップ中だ。
見敵必捕のマインドで、手当たり次第にパルを捕獲している。
レイン密漁団の下っ端たちとは捕獲道中で出遭い、そしてそれを一蹴したのだ。
「もう少しレベルをあげて、はやく銃を作れるようになりたいな。連中の銃が奪えればいいけど、個人認証システムのせいでトリガーが引けない……」
弓とクロスボウでは火力に不足を感じる場面もちょいちょい出てきたので、男としてははやく銃火器を作れるようになりたいとの思いがあった。
ただ、火力があればそれで良いというわけでもなく──……
不意に男は走り出し、バットで猫の横面を殴り飛ばした。
猫は怒り、牙を剥いて怒りだす。
「クルリス!手を出すなよ!」
男は叫んで更にバットで猫を殴る、殴る、殴る!
そして猫がぐったりした所でスフィアボールをなげた。
──捕獲確率100%
猫がボールに吸い込まれ、男はボールを荷物入れにしまう。
パルは基本的に半殺しにしなければ捕獲ができないのだ。
しかし火力がある武器だと半殺しどころか全殺しになってしまう。
だから火力が低い武器というのも持っていたほうが良い。