11ー4祝福の花火
数日前から新聞は皇帝とクロエの話で持ち切りだった。
とある有力貴族の屋敷。その一室に数名の令嬢が集まっていた。
美しくも目のつり上がった、豪勢なドレスの令嬢。気の強い彼女は、美しい金の髪を巻いてウェーブにし、髪飾りや指輪をふんだんに身につけていた。
クロエの写真を、破らんばかりに憎しみを込めて睨む。
この人間の娘の契約が破棄されるのが後1年遅ければ、貴族や騎士達の意志を統一できたはずだった。
もはや彼女は救えないと、皇帝を説得するはずだったのに。全ての計画が潰れてしまった。
殺気立っている令嬢はディートリンデ・レオナルト。ソファに座って震えている女性たちは、彼女の友人や、父繋がりのご令嬢だ。
ディートリンデが深い溜息を吐くと、令嬢たちは身を固めた。
「ふふふ。まさか。まさか、まさかの大どんでん返しですわね」
ディートリンデはそう言って、アンゼルムの側に控える騎士を父に持つ令嬢を睨んだ。
「あ、あの。父は」
「ええ、判っていますわ。陛下はおひとりであの娘を救いに行ったのでしょう? いつものように邪魔ができなかったのでしょう?」
蛇に睨まれた蛙になったご令嬢は、ただただ怖くて震えていた。
「貴女にもお父上にも非はない。ええ、判っていますわ。私のこの怒りは、ただの幼稚な八つ当たり」
机の上に置いていた黒い扇子を取ると、他のご令嬢もびくんと怯えた。
「皆様にお伝えいたします。あの娘の存在は帝国から排除する。その方針に変わりはございません」
「はい」
「かしこまり、ました」
つまりはあの皇帝にクロエを見限らせ、計画通りディートリンデを『妻』という椅子に据えるよう努力せよ、とのことだ。
アンゼルムに近い者ほどそれは無理だと理解している。だが、彼女はまだやる気満々だ。
これはディートリンデの意地でもあった。皇帝に好意があるわけではなく、尊敬はするが股を開くなんて考えられない。
だが父に誰を蹴落としても王の妻になれと教育されてきた。
たとえクロエの為に開けられた席だと判っていても、有能な者が座るべきだというのが貴族派閥の積年の想いだった。
その役目を降りろと言われてしまえば、ディートリンデのこれまでの生に意味がなくなってしまう。
「まずは彼女自身にこの国を去るよう、お願いに上がりましょう」
「えっ」
令嬢たちは、あらゆる武力を総動員して殺せと言われると身構えていた。
「何を驚いていらっしゃるのです? まずは警告、そして受け入れられなければ実力行使です」
だが彼女はどこまでも気高い令嬢だった。
クロエに恨みなどなく、ただ排除すべき敵なだけ。そんな彼女に逃げる機会を与えないなんて貴族らしからぬ、と考えたのだ。
「あ、はぁ。かしこまりました」
「今まで集まった情報を統合すると、彼女は陛下に一方的に迫られているだけ。悪い龍にさらわれて、高い塔に閉じ込められているのです。しかも助けに来てくれる王子様などおりません」
殺さなくていいと言われているのに、令嬢たちは納得いかない様子だ。
それを察したディートリンデは咳払いをした。
「彼女は帝国に勇者を取り戻してくれました」
令嬢たちはハッとした。彼女のお陰で帝国の戦力や知力は、かつてない程に高まっている。
「確かに、そうですね。あの方のお陰で、帝国はまたよりよくなりますもの」
「私は陛下に見つからない逃走ルートを確保致します」
「逃走先では不自由のない暮らしができるように計らいますわ」
「わかって頂けたようでうれしいですわ」
他の令嬢もそこは評価しているようで、顔を見合わせながら頷いていた。
偉業を成し遂げた者には敬意を。
それをよく思わない者も混ざってはいたが、その場では口を噤んだ。




