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在りし日、既視感

 見下ろす視界には、整備された道に沿って木立が続く。その先を辿れば、明るい街並み。少しばかり汗ばむ陽気の中を吹く風が、騒めきを乗せて街の活気をアレクシアに伝えていた。

 ここは、エリューガルの南方。遥か昔、大国アルヴァースとの戦争で敗れた国が、時代と共に分離独立して成立した国が互いに国境を接する一帯にある、ブルキエル大公国。その、大公弟の住まう屋敷の一室だ。


「随分と賑わっているねぇ。祭りでもやっているのかい?」


 窓外から室内へ視線を戻し、歩み寄って来た部屋の主を窺う。


「イェルドとアーシア様の婚礼を祝っているんだそうよ」


 緩く首を振り、果実水をアレクシアへと手渡してくれたのは、外の緑に負けず劣らず鮮やかな頭髪を持つアレクシアの親友、エステルだ。

 自国のことでもないのにね、と肩を竦めてアレクシアの隣に並んだエステルは、まるでその婚礼を機に切ってしまったと言わんばかりの短い髪を、吹く風に遊ばせる。そうしながら白銅色の瞳を細めて、その口をわずかに尖らせた。


「イェルドの前婚約者がここに滞在中だって言うのに、何の嫌味なのかしら」

「はっきり迷惑だと言わないだけ、まだ紳士的じゃないさ」

「あら。言っておきますけど、私だって好きでここにいるわけじゃないのよ? 私がこの屋敷から出て行けないのは、今あなた達が祝っているイェルドの所為なんですけど!」


 腰に手を当て、まるで子供のように窓の外に向かって、いーっと歯を剥く。

 エステルとイェルドとの間で、国を出て行く、出て行かれては困ると散々平行線の言い合い……基、話し合いを続け、最終的にエステルの身柄を、ブルキエル大公国の大公弟に嫁いだイェルドの叔母の元に預ける、と言うことで話がまとまったのは、二年と少し前のこと。

 以来、エステルは大公弟の屋敷で、表向きは何不自由なく暮らしている、と言うことになっている。その実態はと言えば軟禁に近いもので、外出一つエステルの自由にはならない。今も、上手く隠れているようだが、アレクシアの目には、見下ろす庭のあちらこちらに監視の為の兵が配置されているのが分かった。

 彼らは、名目上は屋敷の警備と言うことだが、いつエステルがこの屋敷を抜け出して行方を眩ますかと、警戒していることは明らかだ。この部屋の外にも兵が一人立っていることを思えば、その警戒の強さが知れる。


「お前は、相変わらずあいつが嫌いだねぇ」

「別に、嫌いってわけじゃないわ。好きでもないけど。彼とは、利害が一致したから手を組んでいただけだもの。……ここでの暮らしには、そりゃあ、文句の一つや二つや三つはあるけど、だからって嫌う理由にはならないわよ」


 つんと顎を上げて窓に背を向けると、エステルはそのままソファへと歩いて行ってしまった。そこには、つい先ほどまで庭をよちよちと駆けていたアレクシアの息子、レナートが疲れて眠っている。クッションを枕に、金の巻き毛を時折風にそよがせながらすよすよと気持ちよさそうに眠る息子の姿は、それだけでアレクシアの頬を緩ませた。 

 そのレナートの隣にそっと腰掛けて、エステルがふにふにの頬をそっと突く。


「それにしても、婚礼が済んだばかりだって言うのに、騎士団長様を子連れで寄越すなんてね。イェルドったら結婚に浮かれすぎて、頭に花でも咲いたの?」


 本当は嫌っているのではと言いたくなるようなエステルの辛辣な言い方に苦笑して、アレクシアは首を振った。頭に花が咲くような男であればどんなにかいいだろうと、頭の片隅で思いながら。


「頭に花が咲くどころか、相も変わらずせっせと企みに励んでいるよ。私だって、いいように駒にされているだけさ」


 アレクシアは目立ち始めた腹をそっと撫でて、果実水を喉に流し込んだ。

 レナートを妊娠中に、サロモンに泣き付かれるまでカルネアーデの件の事後処理に日々忙しく動き、その無茶が祟って一時体調を崩したことが影響しているのか、第三子の妊娠が判明してからと言うもの、アレクシアはことごとく仕事を取り上げられているのだ。

 副団長以下騎士団員全員が、これまで以上に一致団結してアレクシアを休ませようとするものだから、暇を持て余しすぎて、今ではすっかり屋敷で母親として過ごす羽目に陥っている。


 そんなアレクシアに、久々に友人の顔でも見てきたらどうだろう、などともっともらしい理由を付けてエステルの元を訪問するよう言ってきたのは、イェルドだ。気分転換などと耳障りのいいことを言うが、どうせ、アレクシアを使ってエステルを牽制するのが目的だ。

 エステルが現状をよく思っていないことを、イェルドはよく知っている。


「この屋敷から出て行こうなんて、考えるなって?」

「そう言うことだね」

「……馬鹿にされたものね」


 口を尖らせ頬杖を付き、目を眇めて何事かを考えているようだったエステルは、やがて、何かを振り払うように息を吐いた。そして、アレクシアへと顔を向ける。

 その瞳は真剣味を帯びて、アレクシアは足音を殺してエステルへと歩み寄った。レナートを二人して覗き込んでいるように装いながら顔を寄せれば、どこか寂しげな笑みがエステルを彩る。


「あなたはいい母親なのね、アレックス」

「どうだろうねぇ。イレーネはお転婆が過ぎるし、レナートも起きている時は一時もじっとしないもんだから、皆困っているよ」

「それだけ子供が伸び伸びとできているってことは、いい母親でしょう」

「三人目は、サロモンを見習って少しは大人しい子供であってくれると助かるんだけどねぇ……」

「あら。泣く子も黙る紅の獅子様が弱音?」

「我が家の平穏の為だよ」


 何気ない会話をしながら、アレクシアとエステルは、眠るレナートを起こさないよう配慮しているように見せて、徐々に声量を落としていく。


「アレックス。……私は、きっとろくな母親にならないわ」

「そんなことはないだろう?」


 囁くように出された一言に、アレクシアは目を瞬いた。

 最も母親と言う存在から縁遠いと思われていたアレクシアですら、それなりに母としてやっていけている。時折奔放な言動を見せるものの、基本的には他者に対して愛情深いエステルがそんなアレクシアに劣るとは、随分と突拍子もないことを言うものだ。

 アレクシアが驚いたことが嬉しかったのか、エステルがふわりと笑った。そして、決して口を開いてくれるなと言わんばかりに、アレクシアの口に人差し指を差し向ける。


「そんなことがあるのよ。……あのね、アレックス。私はこの先、誰とも結婚するつもりはないの。でも、私はこの腕に、私そっくりな赤ん坊を抱くのよ」


 聞きようによっては、思い描く未来をただ語ったように聞こえる、何気ない言葉。

 だが、エステルはリーテの愛し子、泉の乙女だ。それがただの願望として紡がれた言葉でないことに、アレクシアはすぐに気が付いた。


「エステル、お前」


 言いかけたアレクシアの唇に、エステルの指が微かに触れる。寂しげな、けれど、瞳に強い決意の色を湛えた瞳が、アレクシアを覗き込んでいた。

 エステルはこれまで誰にも、己に発現した力について語ったことはない。神殿から派遣された神官達を前にしても、イェルドに訝しがられても、アレクシアにすら、それについては頑なに口を閉ざし続けていた。

 それを今、この場で。唐突にアレクシアに明かそうとしていることに、ひゅっ、と鋭く息を吸ってしまう。


「内緒よ? 私はね――」


 身を乗り出したエステルの吐息が、アレクシアの耳に触れる。

 それだけの近距離にも拘らず、開け放った窓から聞こえる梢のざわめきが、エステルの言葉を掻き消すようだった。それは、アレクシアに不意に湧いた、聞いてはいけないとの危機感がそうさせたのか、エステルのこの先を思って焦燥感が募ったのか。

 呼吸すら止めて聞き入っていたアレクシアは、いつの間にか正面に捉えているエステルの顔に気付いて、反射的に手を伸ばした。


「どうして――っ」

「お願いね、アレックス。私の大好きな人」


 *


 控えめに扉を叩く音に、アレクシアはふ、と息を吐く。

 開いていた小箱の蓋を閉じ、どうぞと答えれば、おずおずと開いた扉から親友の言葉通り、彼女に非常によく似た少女が顔を覗かせた。


「アレックスさん、馬車の用意ができたそうです」

「そうかい。わざわざ知らせに来てくれるなんて、優しい子だねぇ、ミリアム」


 アレクシアが礼を言えば、ミリアムははにかんで首を横に振る。さっぱりとした態度でいたエステルとは、似ても似つかない仕草。それでも、そこには「ろくでもない母親」に育てられたとは思えない素直さと愛らしさがある。

 失踪直前に大公弟の屋敷から、失踪後数年経って旅の商人から、それぞれ届けられたアレクシア宛のエステルの手紙。それが入った小箱をそっと鏡台の引き出しにしまって、アレクシアは立ち上がった。

 いつか遠くない内に、アレクシアはこの手紙をミリアムに見せることになるだろう。

 だが、今はまだ、その時ではない。


『娘のことを、愛してあげてほしいの』


 自分は最後まで、ろくな愛し方をしてやることはできないからと告げた、親友の言葉を思い出す。


「……お前の願いは、ちゃんと叶えてやるさ」


 アレクシアが立ち上がったのを確認して、先に行っていますねと言い置いて去って行くミリアムの背中に、アレクシアはそっと呟いた。



 ◇



 エリューガル王国王都スヴェイン。

 都市の名は、この地に遷都することを決め、けれど新たな王城の完成を待たずに亡くなった王である、クルードの愛し子の名から取られているのだと言う。

 フェルディーン家の屋敷は、そんな王都スヴェインの西に位置する王城とは反対側、平地に広がる中心街からなだらかな坂を上ったところにある、住宅街の一角に構えられている。

 ただし、住宅街とは言ってもその地一帯は元貴族街と言うこともあって、平地の家々とは一線を画す豪奢な屋敷が点在する地である。

 その中でも、元々この地一帯を治めていた領主だったと言うフェルディーン家は別格だ。侯爵位を持つこともあってか所有する土地は広大で、敷地内には一家の住む本邸の他に別邸が二棟、私兵団の為の宿舎に修練場、立派な厩舎と広い馬場、畑に庭園に温室と、アルグライスの高位貴族が領地に持つ屋敷に引けを取らない規模を誇っている。

 フェルディーン家へ到着した時に目にした屋敷の偉容は、リンドナー家の屋敷の規模を遥かに超えていて、私は思わずぽかんと口を開けてしまったものだ。


 そんなフェルディーン家での生活の初日を屋敷の案内、歓迎の晩餐、私の為に用意された部屋でのアレクシアの添い寝で終えた私は、その翌日――つまり今日、早速馬車に揺られて王都の街中へと出掛けていた。案内のアレクシア、付き添い兼荷物持ちのレナートと共に。

 普段、騎士服でいるところしか見たことのないレナートの、わずかに着崩した私服姿に新鮮さを覚えつつ、窓外の景色にも目を奪われながら街中を馬車で進むこと、少し。

 速度を緩めた馬車が止まったのは、一軒の仕立屋と思しき店の前だった。通りに面した大きなガラス窓に飾られた色鮮やかな女性物の服の数々に、思わず私の目が吸い寄せられる。


「ここは?」

「知り合いの店だよ。街の案内も大事だが、この先ミリアムが過ごすのに入用なものも、揃えなくちゃならないだろう?」


 本来、王家から私に贈られる筈だった数々の品を辞退した今の私の持ち物は、少ない。服も、これまで着ていたものこそ数着あるけれど、この先の季節に合わせたものとなると、限られる。

 貰うことを遠慮した結果が、別の手間を発生させることに繋がるのだと今になって気付いた私は、王都観光だと浮足立っていた気持ちが萎んでいくのを感じた。


「すみません。私が、いただくことを断ってしまった所為で……」

「何を言っているんだい。ミリアムが断ってくれたお陰で、私達がこうして一緒に買い物ができる楽しみができたんじゃないか。賢明な判断だよ」


 手間に思うどころか、至極上機嫌なアレクシアに被っていた帽子を整えられ、私は促されるままに馬車を降りた。途端に街の賑わいが直接耳朶に触れ、久々に感じる雑踏の雰囲気に、私の気分が再び高揚を始める。

 レナートが開けてくれた店の扉を潜れば、からころと可愛らしい鈴の音が来店を告げ、奥で作業をしていた店員がくるりと振り返り――


「時間ぴったりね! いらっしゃい、アレックス。待ってたわよ!」


 女性にしてはやけに()()()()で、私達を歓迎した。


「悪いね、ジェニス。休みの日だってのに店を開けさせちまって」

「いいのよ! あなたのところには世話になってるんだもの、気にしないで。それに、商会長の奥方直々の頼みごとなんて、断る方が損ってもんでしょ!」

「そう言ってもらえると助かるよ」


 扉が閉まり騒めきが遠のいた店内で、アレクシアよりもずっと体格のいい人物が、両腕を広げてアレクシアと抱擁を交わす。その様に、私は目を瞬いていた。

 長身のレナートとさほど変わらない背丈、逞しい二の腕、広い肩幅に、およそ女性らしい丸みのない体。

 口調こそ女性のようではあったけれど、どこからどう見ても、誰が見ても、私の目の前でアレクシアと抱き合っているのは男性である。ただし、着ているのは女性物の服。スカートの裾を颯爽とはためかせて大股でやって来たのを、私ははっきりこの目に見た。


「……え?」


 咄嗟に店内を見回して、ここが間違いなく女性の服を扱う店であることを確かめた私は、アレクシアと親しげに会話を続ける男性を、もう一度見上げる。

 褐色の肌に短く刈った橙黄色。一際目を引くのは、鮮やかな空色の瞳。誰かを思い起こさせる色彩は、私の視線を自然とレナートへ向けさせていた。

 この人はもしかして、と。

 案の定、レナートは目を丸くする私をおかしそうに笑うばかりで、その意味するところはずばり、知っていて黙っていた、である。


(また……!)


 これで、何度目だろうか。数えるのも馬鹿らしいほど、私の周りの人は私を驚かせることが好きらしい。

 抗議の意思を込めてレナートを軽く睨み、私が口を開きかけた時、それより先に、アレクシアがジェニスと呼び掛けた男性が口を開いた。


「それで? アレックスがわざわざ休みの日に店を開けさせるくらい大事なお客様ってのは、そちらの小さなお嬢様のこと?」


 ジェニスの瞳が私を捉えると同時、アレクシアに両肩を抱かれて彼の前に押し出され、私は思わず体が跳ねる。心の準備が、まだできていない。


「うちで保護することになった娘だよ。やっと昨日家に連れて帰れたから、入用なものを揃えようと思ってねぇ」


 よく顔を見せておやり、と囁かれて、私は目深に被っていた帽子をそっと取り去り、ジェニスとはっきり視線を合わせた。

 途端、空色の瞳が驚きに見開かれる。その顔は、やはり私の知っている少女にどこか似ていた。


「まあ! ちょっと! その緑の髪! あなた、祈願祭の泉の乙女じゃない!?」


 アレクシアが私の肩を抱いたままでなければ、恐らくジェニスに両肩を掴まれていただろう。それくらいの勢いでジェニスの顔が間近に迫り、私はその勢いに体を硬直させてしまった。ただし、ジェニスの言葉に小さく頷くことは忘れない。

 けれどそれがいけなかったのか、たちまちジェニスの顔が喜色に彩られ、「んまぁあああ!」と野太い歓声が店内に響き渡った。そんなところも、どうしても私に一人の少女を思い出させて仕方がない。と言うより、ほんの数日前に似たような状況を体験した気がする。

 私が唖然とする中、アレクシアへと勢いの矛先を変えたジェニスが、アレクシアの肩をがしりと掴んだ。


「何てことなの、アレックス! あなた最高だわ! あたし、祈願祭で見た時から泉の乙女に会ってみたいとずっと思ってたのよ! でも、祝宴はちょっと参加し辛くて行かずじまいだったし、娘が言うには城に滞在中だって言うじゃない? あたしみたいな一般人が泉の乙女にお目にかかれるのは、また来年の祈願祭なのかしらって諦めてたところだったのよー!」

「何だい、祈願祭でのこの子はそんなに目立っていたのかい?」

「馬鹿ね! 目立つなんてもんじゃないわよ! これまでにないくらい、燦然と輝く存在だったんだから! ……あぁ、別にミュルダール夫人が目立たないって言ってるわけじゃないのよ? あの方はあの方で、それはもうお美しくて目を引く方だから。でもね! そうじゃないの! 女神だったのよ、女神!」


 ジェニスの手がいつの間にかアレクシアの手を取り、私のことをそっちのけできゃっきゃと喜ぶ様は、まるで十代の少女のようだった。抑えきれない興奮で飛び跳ね瞳を輝かせ、果てには頬を染めて、ジェニスはもう一度アレクシアに抱き着く。

 そのあまりの勢いは私を尻込みさせるには十分で、気付いた時には私の足は数歩下がり、ぴたりとレナートへと体を寄せてしまっていた。


「あの時の興奮は今でも忘れられないわ! うちの娘も祈願祭に出てたから、あたしは関係者席からその姿を見られたんだけど、それはもうびっくりするくらい可憐な女神様だったんだから! そんな子があたしの店に来てくれるなんて! アレックス、本当にありがとう!」


 最後にアレクシアの頬に口付けたジェニスは、そこではっとしたように動きを止め、視線だけがぎこちない動きで私を捉えた。当然、顔を引きつらせながらジェニスを見上げていた私と、その目が合う。

 一瞬、店内に奇妙な沈黙が降りた。

 私のこれまでの人生において、芸人や芝居と言う枠でなら、ジェニスのような出で立ちをした男性を目にしたことはある。だからこそ、ジェニスの姿に驚きはしたものの、そこに嫌悪はない。物珍しさと言う点では、少しばかり奇異の目で見てしまったかもしれないけれど。

 ただ、初対面から眼前に迫られて大声で騒ぎ立てられるのは、どうにもライサとのことを思い出させて、あまりいい気分にはならなかったのは事実だ。

 そんな私の思いが、顔に滲み出てしまっていたのだろう。アレクシアから手を離したジェニスが、今度は泡を食ったように慌て出した。


「ああああっ! ごめんなさい! 本当にごめんなさいね、お嬢さん! 待って! お願いだから引かないで! こんな格好してるけど、あたしは変態じゃないの! これには事情が……って、そうでもなくて! その、ね、つまり……あまりに突然願いが叶ったものだから、つい興奮が抑えきれなくて……」


 顔を青くしたり赤くしたり、両手をばたばたと振りながら忙しない様子で私に向かって必死に弁明するジェニスは、最終的に恥ずかしそうに頬を掻き、こほん、と咳払い。

 そうして、姿勢を正して私へと綺麗に向き直った。


「……改めて。あたしはこの洋服店の店主をやってるジェニス・エルムット。祈願祭に出ていた騎士、ライサ・エルムットの父兼母よ! よろしくね、お嬢さん」


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