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父と子

 父であり、エリューガル王国国王であるイェルド・ガイランダルは、神を憎んでいる――


 これは、黒竜に守護された国の王と言う立場故に、決して公の場では口に出すことも態度に出すこともないが、イェルドがキリアンの前でだけは度々口にしていることである。

 神を蔑ろにする先王の元に生まれ育ったイェルドは、元々、神に対する畏敬の念は薄かったと言う。ただ先王とは違い、黒竜クルードの守護があるからこそ、自分達がこの国の王家として国を統べることができているのだと言う自覚は持ち合わせ、神に対して一定の敬意は持っていた。勿論、その存在を蔑ろにすることもなかった。むしろ、いずれ王位を継ぐ者として、神の存在は当たり前のものとして受け入れていた。


 それが、何故神を憎むようになっていったのか、詳しい経緯はキリアンも知らない。ただ、少なくとも二十五年前のカルネアーデ卿の事件が切っ掛けの一つであること、そして、今のキリアンとエイナー、そしてイェルドの置かれた状況が、そうさせてしまったのだろうと言うことを理解しているだけだ。


 これまでの不文律を破ってイェルドとエステルとの婚約が成った時には、当事者が揃って異を唱えたにも拘わらず、表向きは双方合意の上と強引に話を進められ、神からはそれについて何の意思も示されなかったと言う。

 もしもあの時、神が二人の婚約に異を唱えてくれていれば、カルネアーデの事件ももう少し違った形で終わっていたかもしれず、キリアンとてクルードの愛し子としてこの世に生を受けることもなかったかもしれない。

 それなのに、神はだんまりを決め込み、事が起こった。だが、その時になって気付いたのだ。神は、いずれイェルドとエステルの婚約が破談になることを知っていたのだと。

 いずれ消えてなくなるものにわざわざ神の意を示すことは、無意味である。故に、何の意思も示さなかったのだ、と。


 そして、イェルドの手で国を乱す者を処断させ、神を蔑ろにする父王をその玉座から引きずり下ろさせた。まるで、神を蔑ろにした父の罪は息子が贖えと言わんばかりに。

 更には、神に敬意を払わぬ者が一掃された途端、待っていましたとばかりに神の意を存分に示してくる。クルードの愛し子と言う、イェルドにとって最悪の形をもって。

 そんなイェルドに追い打ちをかけたのは、娘シアーシャと妻アーシア、二人の死だろう。


 生命の泉の女神リーテは、その名の通り生命を司る。数多の生命は彼女の泉から生まれ、輝きを失った生命は再びリーテの泉へと戻り、新たな生命となって芽吹くまでを眠って過ごすと言われている。

 ただし、生を全うすることなく若くして亡くなった者は、その限りではない。多く言い伝えられるのが、その者の生命の輝きを特に気に入ったリーテが、泉に呼び戻したのだと。また、弱い輝きしか宿せない生命を憐れんで、次こそはより輝けるように呼び戻し、泉で眠りにつかせるのだと。


 つまり、イェルドの愛した娘と妻は、女神リーテがその生命を望んだばかりに死んでしまった――イェルドにしてみれば、クルードだけに留まらず、リーテまでもがイェルドから愛する者を奪ったことになるのだ。

 なんと神は身勝手な存在だろうか。そんな神の振る舞いを目の当たりにしては、イェルドが神を憎むようになるのも無理からぬことだっただろう。

 クルーディオの血族とは言え、何の力も持たないただの人であるイェルドの元には、ただイェルドだけの為の大切な存在は残すことを許されず、それなのに、クルードの愛し子の御代が訪れるまで国を存続させる王としての責任だけが、押しつけられた。


 この国の為にとクルードに望まれて生を受けた、紛うことなき神の子であるキリアンと、死に瀕した妻の願いを聞き届けてその力の片鱗を分け与えた、やはり神の愛をその身に受けたエイナーと。

 愛した者と契った証である筈の息子達が、自分達のそれよりも大きく絶対的な神の愛で守られていることは、イェルドにとってどれほど屈辱だろうか。

 せめてシアーシャが生きていてくれさえしたならば、イェルドもここまで神を、クルードとリーテを憎むことはなかったのだろう。


 それでも、イェルドは自分の元に残された、神の力を宿す息子達を愛してくれている。

 キリアンに対する愛情の表し方には随分と頭を悩まされはするが、それもこれも、イェルドが憎むのは、あくまでキリアンをクルードの愛し子たらしめているクルードの力そのものであって、キリアン自身ではないからだ。

 そうは言っても、内心ではどれだけ複雑な思いを抱いているか知れない。イェルドがその内面を打ち明けることは絶対にないことが分かる為、キリアンもそれは想像するしかないのだが、もしもキリアンがイェルドの立場であったなら、自分は子供を憎まずにいられるだろうか。


 そんなところも、全くキリアンはイェルドに敵わない。

 自分にはまだまだ大きすぎる父。そんな父の為に、果たして今の自分は何ができるだろう――


「……モルム・モゼス」


 ソファに横たわってどれだけ経ったか。額に宛がわれた布の冷たさのお陰でいくらか頭痛と眩暈が解消された頃、キリアンはそろりと瞼を押し上げ、間近で自分を心配そうに見下ろすイェルドに向かって、気付けばそう口にしていた。

 二十五年前にカルネアーデ卿の背後で全てを動かし、イェルドが唯一取り逃がした者の名を。

 キリアンの口から出た名を聞いたイェルドは、体調が回復するまで沈黙していた息子が口を開いたと思ったら、真っ先に出したのがそれかと一瞬呆れた反応を見せたものの、目を細めて窓外へと視線を投げた。


「……まったく、神に連なる者達は私を退屈させてくれなくて困るね」


 イェルドの憶測でも何でもなく、確実にその存在が関わっていると告げる一言は、キリアンに収まった筈の頭痛が痛みを増したような錯覚を与え、眉を寄せさせた。

 キリアン自身にも以前から予感はあったものの、まだ確たる証拠がなかった筈だと言うのに、とうにこの男は確かな情報を掴んでいたのだ。


「……黙ってたな……」

「それは人聞きが悪いな。せめて、敢えて伏せていた、と言ってほしいものだ」


 イェルドはとぼけるが、どう言い繕ったところで、知っていてキリアンに伝えなかったことには変わりない。

 もっとも、話を聞いていたらキリアンはミリアムを祈願祭に出さなかったかと言えば、答えは否だ。危険度が増すことに悩みはしても、最終的にはそれでもキリアン自身の意思で彼女を使っただろう。ただし、常より周囲を警戒してしまい、相手側にその緊張した空気を気取られていた可能性は否めないが。


「……最悪だ……」


 ミリアムに対して、キリアンも父と同じ行動に出てしまっていた――そのことを思い知らされて、キリアンの中にあるミリアムに対する罪悪感が更に増す。同時に、父と同じであることが無性に腹立たしく、そして悔しい。

 同じ手を使うにしても、キリアンは悩みに悩み抜き、何があっても力を持たないミリアムを守らねばと言う覚悟で決断したと言うのに、イェルドはそれが最善手だと思えば迷うことなく決断し、あまつさえ楽しむ余裕さえある。


 そこにあるのは、国を統べる者として、国を守る者として、事を成すからには必ず守り通すと言う、当たり前の覚悟と絶対的な自信。

 自分との圧倒的な差――それが、悔しくてたまらない。追い付きたくても、父のその背はまだ遥か遠い。


「何をそんなに嘆いているのかは知らないが、害獣駆除はまだ始まったばかりだぞ? 泉の乙女と言う極上の餌も手に入ったことだし、これからが楽しいんじゃないか」

「……それが一国の王の言葉か」

「お前の父の言葉だとも」


 キリアンの体調に回復の兆しが見えた途端、いつもの調子を取り戻して、イェルドが嫌味を含んで笑う。ただし、堂々とミリアムを使って相手を誘き寄せると言っているも同然のその内容は、キリアンにしてみればやはり笑えない。


「……どっちにしろ最悪だ」

「私にとっては誉め言葉だがな」

「本当に最低だな、クソ親父」


 吐き捨てて、キリアンはわずかに目を伏せた。軽口の応酬に見せて、その言葉は重い。


 イェルドが敢えて極上の餌と表現した通り、キリアン自身も、どこかでミリアムをまた利用せざるを得ないのだろうと、覚悟はしている。残念ながら、相手が相手だけに彼女を使わない手はないのだ。

 だが、キリアンにとっては、それはあくまで最終手段。できることなら、彼女を危険の真っ只中に放り込むような事態は避けたい。いくら彼女が泉の乙女で、リーテから何らかの加護を受けているとは言え、キリアンのように死なないわけではないのだから。

 それに、やっと虐待を受けていた生活から抜け出して平穏な生活を送ろうとしている彼女には、できる限り危険とは無縁の生活を送ってもらいたいのだ。

 そう思うのは、やはりキリアンの甘さだろうか。それとも、弱さだろうか。


 キリアンは、その体に傷を負うことがない。強烈な打撃には痛覚が反応はしても、自覚する痛みの大きさは常人よりも遥かに軽く、死なないことそのものが、キリアンに、自分以外の人の存在を弱く脆く、守らねばならない弱者と錯覚させる。

 イェルドからはその度に、人はそんなに弱く脆いものではないと呆れられているが、人の受ける痛みを本当の意味で理解できないキリアンは、染みついた思いが咄嗟の行動に現れてしまう。

 それに、人が弱くも脆くもない存在であるならば、何故キリアンはこれほどに丈夫な体をクルードから与えられたのか。弱き者を守る為にこそ、この死なない体は与えられたのではないのか――自分が存在する意義が失われてしまうようで、少し、恐ろしくもなるのだ。


 ともあれ、今は今の自分にできること、やるべきことをやるだけである。最悪の事態に陥っても傷付けることのないように、仮に傷付けたとしてもその傷が浅く済むように。

 額の熱を吸ってすっかり温くなった布が取り替えられ、その気持ちよさに息をついて、キリアンは力の戻った眼差しをイェルドへ向けた。


「エイナーが、会場で見たのは人攫いの男で間違いない、と」


 ミリアムが試合中に感じた強い視線。それの正体。その持ち主。

 ミリアムには視線が向けられたことまでしか分からなかったが、エイナーははっきりとそれを見ていたのだ。エイナーに宿る、クルードの力の片鱗によって。


 エイナーには、他者が彼に向ける視線に宿る感情を「視る」ことができる力が、クルードより授けられている。特に分かりやすいのが、悪意と好意。そして、その力はエイナーが他者に触れていた場合、その他者に向けるものも「視る」ことが可能なのだ。

 通常、視た感情はエイナーにしか分からない。だが、エイナーの触れた他者が愛し子であった場合は、これが少々異なる。神の加護を特別に授かった者同士と言うことなのか、愛し子にもエイナーが「視た」感情が届くのだ。これはキリアンも経験済みのことであり、それによって幾度も、エイナーのみならず王家に悪意を持つ者を排除してきた。


 ただ、今回は視線を向けてきた相手の悪意があまりに強く、また、エイナーとミリアム両者に対してのものだった所為か、ミリアムに必要以上に感情が届き、彼女をとても怖がらせてしまう結果を招いてしまった。エイナーが機転を利かせてくれたとは言え、自分の想定の甘さが嫌になる。


 その、二人が感じた悪意の塊の持ち主と言うのが、あの日荷馬車を繰って二人をいずこかへ運ぼうとしていた人攫い夫婦の片割れだったと言うのだ。

 見たことのない男との二人連れだったと言うから、恐らく、人攫いの男は面通しの為にあの場に連れて来られたのだろう。


「……そうか。では――」

「早晩、死体が上がります」


 面通しが済んだなら、既に誘拐に失敗している男は用済み。特に、適当に攫った娘が実は泉の乙女だったこととそれを連れ去り損ねた事実は、首謀者を怒らせるのに十分だろう。

 そして、これからこの地一帯には雨が降る。増水し、濁って勢いを増した川は、証拠隠滅には最適だ。


「なるべく綺麗な形で拾いたいな」

「兵団長には、既に話は通してあります」


 あちら側としては、こちらに死体が見つかったとしても、どうせ首謀者との関わりを示すものは消している筈で、痛くも痒くもないだろう。だが、首謀者との繋がりこそ出ないとしても、死体が語るものは多い。

 そしてあちら側も、この程度で自分達の優位を気取る可愛さを持ち合わせてはいない。今頃は、自分達がみすみす泉の乙女を手放したと知って歯噛みしつつも、次の一手を考えているに違いない。

 さて、次はどう出るか――


「当面はあちらも動かないだろう。今から、そう頭を悩ませることはないさ」


 キリアンの考えを見透かすように気楽な調子で告げるイェルドに、キリアンは面白くない気分で眉間に皺を刻んだ。分かってはいるが、なんて真面目な息子なんだろうと、幼い子供を褒めるのに似た調子で言われるのは、居心地が悪い。

 イェルドの言う通り、今しばらくは何も起こらない。正確に言えば、今は動きたくとも動けない。

 彼らが動くのは、早くともミリアムがフェルディーン家へ預けられ、その生活が安定した頃だろう。その頃までに、ゆっくりとこちらも策を練ればいい。今は考えるだけ無駄だ。


 イェルドの言わんとするところは理解しているつもりでも、生憎、キリアンにはイェルドのような絶対的な自信も、事態を楽しめる余裕の持ち合わせもないのだ。無駄と言われても、どうしても考えざるを得ない。特に、ただソファに横たわるしかできない今は。

 そうして、情けない自分に対してキリアンがため息を零すのと、イェルドがはたと気付いたように声を上げたのが同時だった。


「……ところで。まさかお前は、今晩はこのままこのソファで過ごす気じゃないだろうな?」


 遠回しに退室を促されて、キリアンは眉を吊り上げた。


「……誰の所為でこうなったと思っているんだ。俺だって、好きでここにいるわけじゃない」


 キリアンの予定では、さっさと必要なことを話して退室する筈だった。自室に戻ってやりたいことも、やらなければならないこともある。それがこうして動けないでいるのは、容赦なく強毒を飲ませたイェルドの所為だと言うのに。

 自分のしたことを棚に上げて邪魔者扱いされるとは、実に理不尽極まりない。それなのに、イェルドは意外そうに目を丸くして、更にとんでもないことをさらりと言ってのけた。


「毒酒を呷ったのはお前なんだが」


 キリアンは一瞬、唖然とした。信じられないと見上げたそこに映るイェルドには、倒れるキリアンを前にして反省していた少し前の姿は既にない。

 誰もそこまでしろとは言っていない、現状を招いたのはお前だとさも迷惑そうに見下ろされて、思わず唇が戦慄く。


「おま……っ! 体調が万全でない息子を、部屋から追い出すのかっ?」

「それだけ喋れるなら、もう自室程度までなら歩けそうなんだがな……」


 ああ言えばこう言う。この父には、なかなか口で勝てたことがない。

 どうしてもキリアンを部屋から出したいらしいイェルドが、何気ない風を装いつつも、一瞬、扉の外を気にするような素振りを見せた。それに目聡く気付いて、キリアンは目を瞬かせる。


「……誰か来るのか?」


 家族以外を自室に招き入れるとは珍しいこともあるものだと、何気なく問いを口にしたキリアンは、次に出たイェルドの言葉に、自分の迂闊さを内心で激しく罵倒した。


「キリアン……お前も野暮な子だね……」


 大袈裟に嘆息されて、キリアンの顔がかっと染まる。不調も忘れて跳ね起き、その衝撃で額から落ちた湿った布を、イェルドの顔面目掛けて投げつけた。


 公にはしていないが、キリアンに思い合う相手がいるように、イェルドにも思い合う女性がいる。

 それは、恐らくこの先たった一人で国を統べるであろう夫を心配した、妻の遺言でもあった。国母として、自分のことより国のこの先を憂いたアーシアは、自分の最も信頼する侍女を必ず後添いに迎えるようにと、イェルドに言い残して逝ったのだ。

 元より、アーシアと共に城に上がったその侍女とは、気心が知れた間柄。初めの内こそ、妻の遺言だからと義務的に接していたものの、エイナーが母のように慕っていたこともあり、イェルド自身、次第にその心境に変化が訪れたのだ。

 今では親子公認で、エイナーなどはすっかり彼女が本当の母になる日を心待ちにしている様子でもある。


 その為、万全の状態であれば、そろそろ夜も更けようかと言うこの時刻にイェルドの元を訪れる者が誰かなど、キリアンには分かった筈だった。

 いや、それは言い訳だろうか。この父を前にしてこの失言とは、我ながら大失態だ。


「さっさと再婚すればいいだろう!」


 投げつけられた布を難なく手で受け止めてせせら笑うイェルドは、これまた駄々を捏ねる子供を前にしたような態度で肩を竦めた。


「私だってそうしたいのはやまやまだが、向こうが首を縦に振ってくれないのだから、どうしようもないだろう。なぁ、キリアン?」

「はぁ?」


 そして告げられた一言に、キリアンは言葉を詰まらせた。


「自分達よりキリアン達の方が先だと、いつもそう言って断られるんだ。私としても迷惑しているんだが……」

「な……っ」


 キリアンの所為で再婚できないとわざとらしく嘆きながら、イェルドが更にキリアンを楽しげに責める。


「お前は、本当にエイナーが成人するまで結婚しないつもりなのか? いくら、その時向こうがそれを了承したと言っても、いつまでも変わらず待ってくれるとは限らないぞ? 彼女はまだ若いんだ。城の男達にも、よく声をかけられているらしいじゃないか」

「そっ――」


 この父は、また嫌なところを突いてくる。

 彼女の心変わりを仄めかされて反射的に言い返しそうになったところを寸前で堪え、キリアンは苦虫を一匹と言わず噛み潰した顔でソファから立ち上がった。

 彼女のキリアンへの気持ちを疑ったことはないが、だからと言ってそれをこの場で勢い任せに口にすれば、目の前のにやついた顔の父に何を言われるか、知れたものではない。


 キリアンは両足の感覚と視界がふらつかないことを確かめると、反射的に拳を握りそうになった右手から、諦めたように力を抜いた。ここで最後にイェルドの腹に一発でも入れられたならと思うものの、それではあまりに子供じみている。

 代わりに、自分でも驚くほど冷静な声で、一言だけ返す。


「……考えておきます」


 エイナーは変わった。変わることができた。最早、エイナーが成人するまで、キリアンがそばにつきっきりでいてやる必要はないだろう。ならば、キリアンも変わっていかねばならない。

 最後に、おやすみなさいませと告げて寄越した視線の先で、キリアンの発言が予想外だったのか、目を丸くしているイェルドの姿に胸のすく思いを感じながら、キリアンは静かに父の自室を後にした。


 *


 その数日後、早朝――

 キリアン達の予想した通り、夜間に激しく降った雨で増水した川から、一人の男の遺体が引き揚げられたとの報告が、キリアンの寝起きに届けられた。


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