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黒竜住まう国の聖女~呪われ令嬢の終わりと始まり~  作者: 奏ミヤト
第五章 絡み合う思惑の果て
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歓迎の水浴場

 全員がどこかそぞろな態度で、何かを企んでいそうなわざとらしく朗らかな笑みを浮かべた姿は、私に相手の言葉を素直な形では信じさせなかった。

 大方、砦の案内は事実ではあるものの、ヤーヴァルからそれを頼まれたのは、もてなしの準備をしていたと言うタァニだろう。けれど、私が女性であることから、どうせなら同じ女性が案内した方がいいとでも言って、案内役をタァニと代わったのだ。

 予想できるこのあとの流れとしては、案内と称して私を人目のない場所に連れて行き、彼女達が私を認める為の――もしくは、絶対に認めない為の――無理難題を吹っ掛けられる、と言ったところだろうか。


 この展開の何より嫌なところは、たとえ私が彼女達の出す難題をこなせても、相手が一度で私を認めるとは限らないと言うところだろう。こう言うことは、男性よりも女性の方がより陰湿であることを、私は幾多の人生の経験で知っている。

 一縷の望みを込めてちらりと女性兵士達の後ろを窺ってみたけれど、いつの間に解散してしまったのか、あれだけいた多くの人だかりは消え、そこにイーリスの姿を見つけることもできなかった。勿論、トーラの姿もどこにもない。


「ああ、イーリスならミュルダール夫人や殿下に連絡するとか言って、タァニと一緒に行っちまったよ」

「そうですか……」


 元より、こうして待ち構えられていた時点で、私に逃げ場はなかったのだろう。

 私は誰にも助けを求められず、ろくな断りの文句も言えないまま、女性兵士達にまんまと連れられることになってしまった。

 この時、これからこの身に降り掛かるだろう嫌な予感にすっかり支配されていた私は、自分が案内を受け入れたことに対して彼女達が安堵していたことに、残念ながら気付くことができなかった。


 そうして私が案内されたのは、砦の裏門を出たすぐそばの小川。こちらは被害に遭った川とは水源が違うのか、清らかな水が止めどなく流れて心地よい水音が耳を楽しませていた。

 その川の一角には、何枚もの大判の布が目隠しをするように張られており、中から複数の女性の声が聞こえてくる。どうやら、目的地はここのようだ。


「ここはあたしらの水浴場なんだ。大将の無茶に付き合わされた上、崖登りをやらされて汗をかいただろう? あたしらも汗をかいてしまっているから、お嬢さんの案内をする前に、まずはすっきりしようと思ってね」

「水浴び……」


 私の浮かべた微笑が、勝手に引き攣る。どうやら親切と見せかけて、彼女達は女性ならではの方向から私に嫌がらせをするつもりらしい。少し前にシシシュに散々に言われたことが思い出されて、入口の布を捲って中へ通されながらも、私は次第に足が重くなるのを感じていた。

 ただでさえ、折檻による無数の傷跡があって無闇に肌を晒したくないのに、輪をかけて誰より貧相なこの体を人目に晒せば、嘲笑の的になるのは分かり切っている。私だって好きでこんな体型ではないと言うのに、それを嗤われるのはあまりに理不尽だ。

 行きたくない。肌を晒したくはない。けれど、私がここで逃げてしまえば、彼女達にはきっと絶対に認めてはもらえないのだろう。それは私としても困るし、レナートやキリアン、何よりアレクシアに迷惑が掛かってしまう。それは絶対に駄目だ。


「ようやく来たか!」

「いやぁ、悪い。このお嬢さんがシシシュと仲よしでね。ちょいと遅くなっちまった」

「客人を案内するのにこんなに緊張したのは久々だよ」

「話に聞いてたより、ずっとずっとお嬢様なんだもん」

「それよ。いい匂いはするし綺麗だし小さくて可愛いし、がさつな私達なんかとは住む世界が違うお人過ぎて」

「それに、英雄のお気に入りって聞くとねぇ……」


 気心が知れた者同士、何やら楽しげに会話をしながら、私をここへ連れてきた兵士達は私が逡巡している間に次々に服を脱ぎ捨て、肌着姿になって川の中へと飛び込むように入って行く。

 不規則に揺れる水面はきらきらと太陽の光を反射して綺麗なのに、こんなにも心が踊らない川の景色も珍しい。


「ほら、お嬢さんも入んな!」

「遠慮することなんてないんだからね」

「それとも、育ちのいいお嬢様は川で水浴びなんて、経験がない?」

「おや、それは勿体ない。こんなに気持ちのいいこともないってのに」

「余分な仕切り布ならあるけど、使うかい?」


 十人を超す人の視線が、私に一斉に注がれる。

 その誰も彼もが、鍛えられ引き締まった体ではあるものの、しっかりと女性らしさも兼ね備えていた。はっきりとした肌の色が余計にそう見せるのか、健康的で、かつ、どこか官能的でもある。

 一番若く私と近しい年齢と見える兵士も、肌着の上からでも私よりよほど女性的な体つきであることが見て取れて、無意識に私は胸元で手を握り締めてしまった。

 そうしながら、駄目元で入りたくない理由をやんわりと告げてみる。


「その……急なことだったので、着替えを持っていなくて」

「何だ、そんなこと! うちらのを貸してやるよ! チビの奴なら着られるだろ?」

「いやいや、来客用の綺麗なのがどっかに置いてあったろ。昨日、用意してたの見たぞ」


 さあ、どう出るか。そんなことを思う間もなくあっさりと問題は解決されて、私の逃げ場が本当になくなってしまう。

 こうなれば、もう自棄である。自分が一時恥ずかしい思いをするくらい、この先アレクシア達にずっと迷惑をかけ続けることに比べれば安いものだ。

 そう腹を括って、私は借り物の服のボタンに手を掛けた。

 自然と手元に視線を落とした形になった体が川面へ向かって傾いたのは、その直後。

 とん、と軽い調子で誰かにぶつかられた感覚と、「あっ」と驚く声が上がったのが同時で、次の瞬間には、私の体は受け身も取れずに川の中へと落ちていた。

 どぱん、と派手な音と水飛沫が上がり、私の全身はたちまち冷たい水に包まれる。


「ちょいと! 大丈夫かい、お嬢さん!」

「何やってんのさ、馬鹿! ちゃんと前見て歩きな!」

「えぇ! これ、あたしの所為なん!? 入口にぼーっと突っ立ってる方が悪くない!?」


 思ったよりも冷たい水に驚きながら、何故か甲斐甲斐しく私を助け起こしてくれる複数の手によって水面に顔を出した私は、小さく咳き込んでから自分の体を見下ろした。

 ものの見事に川の中に落ちて川底に座り込む私は、文字通り全身ずぶ濡れだ。胸元辺りまで水に浸かる自分の姿が、揺れる水面に間抜けに映り込んでいる。その様をわずかに呆けて見つめ、私は不意にこの状況がおかしくなって吹き出してしまった。

 今日は予想外なことが立て続けに起こり、衝撃と驚き、それに発見が絶えない。こんな日々は、フェルディーン家で暮らし始めた直後以来だろうか。

 それに、どうやら私はまたもや勝手に酷い勘違いをしていたらしい。


「お嬢さん、平気かい!」

「怪我はしてないっ?」

「えーっと、ごめんな、お客さん! あたし、早く水浴びしたくてちょーっと急いどって……」


 私を心配そうに見つめるいくつもの視線には、私のことを陥れようとする影などどこにも見当たらない。純粋に私を気遣ってくれていると分かる彼女達は、とても親切だ。

 先入観と緊張の所為でろくに聞いていなかったけれど、ここへ到着した時の彼女達の会話にも、嫌味な雰囲気はなかった気がする。シシシュが言うような、私が十分に気を付けなければならない要素はどこにも見当たらない。

 もしかして、シシシュは何気に私に力で服従させられたのを根に持っていて、その意趣返しに意味深なことを告げて私を動揺させようとしたのだろうか。あのシシシュが、私を相手にそんな低俗な嫌がらせをするとも思えないけれど。

 そんなことをつらつらと考えかけて、私は思考を切り替えるように頭を振った。今はそちらに思考を割くよりも、目の前のことだ。

 私は心配そうに周りに集まる女性達に笑顔を向けて、大丈夫だと、まずは告げる。


「少し水を飲んでしまいましたけど、怪我もありません」


 そうすれば誰もがその顔をぱっと明るく変化させ、胸を撫で下ろした。


「それならよかった!」

「焦ったよ、本当に。お嬢さんってばあんまり華奢なもんだからさ、何かあったらすぐ折れちまいそうで……」

「さっきの崖登りだって、男達は馬鹿みたいに騒いで喜んでたけど、こっちは気が気じゃなかったんだからね。お嬢さんが登れたからいいものの、普通、あんな無茶やらせる?」

「あんな馬鹿共にお嬢さんをこれ以上任せちゃいられなくて、わざわざこっちに連れて来たってのに……反省しろよ、お前は!」

「えぇー。やっぱ、あたしの所為なん? それは酷くない?」


 私を囲んで飛び交う言葉に、少しずつ彼女達が私をどう捉えているのかを理解して、私は改めて勘違いをしていた自分を恥じた。

 同時に、これはあとでシシシュに大いに抗議しようとも心に決める。シシシュには、私を心配する彼女達の喜ぶことのない態度が私を認めていないと映ったのかもしれないけれど、彼の言葉さえなければ、私が余計なことを考えて彼女達に対して身構えることなんてなかったのだから。


「皆さん、私のことを心配してくださっていたんですね」

「心配するさ。私達は、大将の奥方から事前にお嬢さんのことをそれなりに聞いていたからね。だから、お嬢さんを試す必要なんてないって反対したのに」

「全部、隊長が悪いよな。面白そうなもんにはすーぐ飛びつくんだから、あの人」

「まったくだよ。……ああもう、すっかりずぶ濡れになっちまって」


 私に最初に声を掛けてくれた女性に差し出された手を借りて立ち上がり、私は手近な石に腰掛けた。それから、濡れて肌に張り付く服を脱ぐ。ついでに辺りを見回し、石に引っかかって浮かぶ木の枝を見つけて拾い上げた。ぐっと力を入れても折れない程度の強度があったのは幸運だ。

 一体その枝をどうするのだ、と言う複数の興味深げな視線ににこりと返して、私は濡れた髪をさっとまとめて捩じり、そこに拾った木の枝を上から差した。それから木の枝を回転させて毛束を掬いながら起こし、ぐっと髪の中へと差し込むと、たったそれだけで簡単に髪がまとまる。


 これは、いつかの人生で異国からの商人に教わったものだ。確か、簪と言う装身具の売り込みで実演してくれたのだ。残念ながら、簪は教えてもらった人生以外ではお目にかかっていない為、それ以降は簪を真似て細長い棒状のもので代用してきたけれど、たった棒一本で十分に髪をまとめられるので、密かに重宝しているものだ。

 最近ではそうそう髪をまとめるのに困る事態に遭遇しない為に久々だったけれど、やり方を手がしっかり覚えていたのか、上手くいってよかった。

 心中で私が密かに出来に満足していると、私の背後から、誤って私にぶつかってしまった女性の呆然とした声が聞こえてきた。


「……え。何、この傷……」


 てっきり私は、あれだけ興味津々で木の枝を見ていたのだから、その枝一本で髪をまとめた技に感心してくれただろうと思っていた。それなのに予想とは違う反応を寄越されて、わずかに戸惑う。

 けれど、よく考えなくとも髪をまとめてしまった私の背中は肌着以外に覆うものはなく、その肌着も水に濡れた所為で薄っすらと肌が透けて見えてしまっている。当然、そこに無数に残る傷跡も見えてしまっているわけで。

 彼女達にとっては、どうやら私が髪をまとめた技よりも、その髪の下から現れた無数の傷跡が与えた衝撃の方が、私が思うよりもよほど大きかったらしい。お陰で、せっかく和やかだった雰囲気がたちまち微妙な空気に包まれていた。


 その空気に触れて、はっとする。

 皆が好意的に接してくれているから、私は深く考えずに肌を晒したけれど、彼女達は私のことを、お嬢様だとか華奢で折れそうだとか言っていたのではなかったか。加えて、随分と高貴な存在と思われている節もある。それならば、そんな私の体に醜い傷跡があるなど考えないに違いない。

 私は自分の浅慮な行動に反省しながらも、肌着姿になればどのみち皆に知られることだったのだからと切り替えて、相手に気を遣わせないように、柔らかな表情を作って後ろを振り返った。


「もしかして、肩の傷のことですか?」

「あー……うん」


 私にぶつかった彼女は歯切れ悪く答えて、そのまま視線が明後日の方向へ向けられる。

 彼女自身は、私が水浴を渋っていたことまでは知らない筈だ。けれど、体に付いた傷を好んで晒さないのは、恐らくキスタス人女性であっても同じと言うことなのだろう。私と歳が近く見えるその顔は、どこかばつが悪そうだ。

 その様子に、私は気にすることはないとの気持ちを込めて微笑み、こちらを気にしている周囲へと体を捻って背中を見せ、やはり何と言うこともないと次の言葉を口にする。


「この傷、鉈で斬り付けられたものなんです」

「鉈ぁ!?」

「ちなみに、足にもありまして……」


 肌着の裾をたくし上げて腿にもある傷跡を見せれば、案の定、水浴場にいる全員がぎょっとした。そして、たちまち戦士らしく憤る声と共に詰め寄られてしまう。


「どうして、そんなもんでお嬢さんが斬り付けられなきゃなんないのさ!」

「どこのどいつだ、んなことした屑野郎は!」

「私ら相手ならともかく、こんなか弱い子に斬りかかるとか、信じらんないんだけど!」

「私達が鉄槌を下してやろうか!」

「よく無事だったね、お前さん」


 最後にそっと手を握られて、私はその温かさに笑みを綻ばせた。


「私も、よく無事だったなと思います。流石に、これは助からないだろうなと思っていたので」


 多くの人の尽力のお陰でこうして私は今も生きているとは言え、あの時、レナートが襲い掛かってくる人攫いを止めてくれていなければ、そもそも私もエイナーも今こうして生きていないだろう。

 久々にその時の光景を思い出して、私は目を細めた。


「でも、レナートさんが助けてくださって。レナートさんは、私の命の恩人なんです」


 意識も朦朧とし始めていた中の出来事にも拘らず、今でも迷いなく剣を振ったレナートの姿は鮮明に思い出せる。ずっと胸の中にあった物語の登場人物が現実に現れたその瞬間は、正に夢のようだった。もう思い残すことなどないと思うくらいに、幸せを感じた瞬間でもあった。

 それがまさか、一瞬の出会いだけでは終わらず、その後同じ屋敷で暮らすことになるなんて思いもしなかったけれど。今生は本当に色々と予想外のことがありすぎて、これまでになく濃密な人生を歩んでいると思う。


 そう言えば、今頃レナートはどうしているだろうか。今朝見送ったばかりなのに、もう随分と前のことのように感じるその背を思い出しつつそちらに意識を傾けかけて、私は周りから何とも生温かな視線を注がれていることに気付いて、我に返った。

 うっかり思い耽ってしまった私の所為で、中途半端に会話が途切れてしまっているではないか。


「す、すみません、私……」

「いやあ? 謝ることなんてないさ」

「うーん。こりゃあ、ヴィシュヴァが保護したのも頷けるよ」

「あたし達に勝ち目もなさそうだ」

「何言ってんのよ。最初からないでしょ」

「このお嬢さんなら、納得だよ」


 今の話のどの辺りが、私がアレクシアに保護されるに相応しい人間だと納得する要素になったのか。私にはいまいち理解できなかったものの、誰も会話が途切れてしまったことを不快に思っている様子がないことに、私は内心ほっとした。

 けれど、それも束の間。気を取り直して、濡れてしまったのならば本来の目的である水浴を楽しもうと腰を浮かせたところで、私は隣から「ねえ」と呼び止められた。


「はい。何でしょう?」

「いや、言い辛かったら別にいいんだけど……その、見えちゃったからさ。こっちの傷も気になって」


 こっち、と言って私の背中に軽く指先が触れる。

 その場所に、私は恐らく見られているであろう傷跡の形と折檻の一つを思い出して「あぁ……」とため息にも似た声が漏れた。この傷跡――と言うより、鉈で斬り付けられたもの以外の傷跡には、全くもっていい思い出がない。

 いや、勿論、鉈で斬り付けられたこと自体も、断じていい思い出なんかではないのだけれど。


「それは……火かき棒を押し当てられた時のもの、ですね」


 鉈でやられたもの以外で最も目立つ背中の傷跡は、その時のものだろう。ろくな手当てもできないまま放置し、自然に治るに任せた所為で、蚯蚓腫れのように肌がそこだけ盛り上がってしまっているのだ。

 触れても痛みはないものの、触れるとはっきり分かる感触は、今でも時折私の気持ちを沈ませるものとなっていた。


「押し当てられた……? 火かき棒を?」

「はい。わざわざ火の中に入れて、熱くなったものを」


 私が淡々と答えた瞬間、再びその場は騒然となる。

 それからの時間は、水浴びそっちのけで私の体にある数々の傷跡について追及されることになってしまった。

 彼女達は、私が質問に答える度に受けた仕打ちに驚き、傷の程度に顔を顰め、相手に憤り、それでも私が何とか生き延びたことに感激した。更には、私のことを見た目によらない戦士だと褒め称え、改めて私を歓迎する意思を示してくれた。

 そうして、いつからか傷跡以外のことについてにも話題が広がった私への質問攻めの時間は、時折熱くなるあまりに話が脱線しつつも、私が体を冷やしてくしゃみをしてしまうまで続いたのだった。


 *


 その後。

 風邪を引いては大変と、慌てた皆によって私は川から引き揚げられ、冷えた体を布でぐるぐる巻きにされてしまった。

 更にそこに、砦を案内されている筈の私の姿がどこにも見当たらないとイーリスが血相を変えてやって来て、水浴場が今日一番の騒々しさに包まれる。

 イーリスが布に埋もれた私の姿に安堵を見せたのは、一瞬。すぐさま彼女によってその場の全員が説教を受ける羽目になったのは、言うまでもない。イーリスは、明らかに彼女よりも年上の兵士だろうと遠慮の欠片もなく叱り飛ばし、そのあまりの剣幕に、全員が肌着姿で縮こまってしまった。


 そのイーリスからの説教が終わると、私は来客用に用意されていた服をありがたく借りて、イーリスと共に今度こそ砦を案内される。

 途中、空腹に耐えかねた胃の訴えに遅い昼食をいただいたり、砦内を歩く私達を発見した多くの人と会話を交わしたりと思いの外楽しい時間を過ごし、夕刻にはタァニの案内で見晴らしのいい場所へと赴いて、王都とはまた違う美しい夕景に感動を覚えもした。

 そんな一日の最後には、豪華な晩餐と言う盛大なもてなしが私を待っていて。


「あぁ……明日が怖いわ……」


 そうひっそりと呟いたイーリスの声は、誰の耳にも届かず賑やかな晩餐の場に溶けて消えた。


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