氷雪色の神殿騎士
結論から言えば、館の観光は実に拍子抜けするほど、これまでと変わらず楽しく見て回ることができていた。
門を潜った時こそ門衛を務める神殿騎士達に凝視されたけれど、それ以降は、神殿騎士が私達のあとを付いて来るようなこともなければ、途中で神殿関係者に呼び止められることもなく、誰かの視線だけを常に感じると言うこともなかった。お陰で、しばらくすると神殿騎士の姿を目にして緊張と警戒をしていたのが嘘のように、私達はただただ庭園巡りを楽しむようになっていた。
木立に囲まれた道を進み、その先の薔薇園で咲き乱れる種々の薔薇を、その芳香と共に堪能する。人工的に作られた池のぐるりを巡りながら、悠々と泳ぐ魚やのんびりと寛ぐ水鳥、可憐に咲く睡蓮をじっくりと眺める。
蔓性の植物が作るアーチを潜り抜けて現れた館の姿を目にした時には、思わず私とライサで顔を見合わせもした。
染み一つない真っ白な壁に、深い青緑色の屋根。建物の、向かって右奥には小さな尖塔まであり、その姿はさながら森の脇に佇む小さな城と言った様相で、自然と私の足はその場に留まり、館の姿に見入っていた。
また、館の前面に広がる庭は美しく整えられ、色とりどりの花で埋め尽くされており、思わずため息を零した。庭の中央にある噴水からは、清らかな水が心地よい水音と共に涼しさを運び、私達はしばし目を閉じてその音に耳を澄ませもした。
その後、庭を眺められるテラスで改めて休憩をした際には、注文もしていないのにそれぞれの好みに合わせた茶と菓子が提供されると言う、わずかに緊張する出来事が起こったものの、それらも結局美味しさに負けてすっかり味わい、多くの緑に囲まれながら、私達は実に充実した時間を過ごしたのだった。
けれど、わざわざ門前で神殿騎士が姿を見せておいて、全く何事もなく観光ができる筈もなく。次は森の散策へ行こうと私達が足を向けた先で、とうとうこちらに声を掛ける人物が現れる。
「久しいな、イーリス・レリオール」
森の入口。その木陰で私達を待ち構えていたのは、一人の若い神殿騎士だった。腰に達するほどの氷雪色の髪を後ろで一つに束ねた、オーレンの数倍は気障な雰囲気の漂う男性である。
途端にイーリスが嫌そうに顔を引き攣らせ、私を庇うように数歩前へ出た。その表情はイーリスには珍しく明確な嫌悪が露わになっており、神殿騎士と言葉を交わすことに対する嫌悪と言うよりは、目の前の人物と会ったことそのものへの嫌悪のように見受けられた。
「……何であんたがここにいるのよ、ヒューゴ」
案の定イーリスの口からは、あからさまに不機嫌な声が出る。言葉遣いの荒さから考えても、イーリスにとってヒューゴと言う名の神殿騎士との対面は、全く望まないものであることが伝わってきた。
けれど、ヒューゴはイーリスの棘のある言葉を気にする様子もなく、それどころか自分の優位を確信した態度で口元に微笑を湛えていた。
「相変わらず、随分な挨拶だな。せっかくの美しい装いが台無しだぞ、イーリス」
芝居がかった動きで嘆くヒューゴは、自分の容姿に大層な自信があるのか、やたらと格好をつけた仕草で長い前髪を掻き上げ、陽光に煌めかせながら木陰から進み出てくる。その様子だけでもどうにも肌が粟立ったと言うのに、イーリスの前で足を止める寸前、ヒューゴの鮮緑色の瞳が私の姿を捉えて吐息に混じった笑みと共に流し目が送られ、私はとうとう勢いよく視線を逸らしてしまった。
全身に走った悪寒に一斉に鳥肌が立ち、どうしようもない震えが足下から這い上がって頭上へと駆け抜ける。
私の隣にいたライサも、顔を引き攣らせながらぶるりと体を震わせているところを見るに、どうやらヒューゴに対して私と同じ感想を抱いたらしい。
「何あいつ、超気色悪いんだけど……っ」
おまけに、ライサはこんな時でも迷わず素直に思ったことを口にする。勿論、その声量は極小さなもので、ヒューゴには聞こえていないだろう。けれど、私がライサの言葉に同意を示すように体を寄せた瞬間、ヒューゴはその眉を嫌悪に歪めてライサを睨み付けていた。
その視線には、私に向けたものとは絶対的な温度差がある。
何をそんなに厭ったのかと私が不思議に思っていると、後ろに立っていたテレシアが、こっそりとヒューゴのことを教えてくれた。
神殿騎士ヒューゴ・フォシュベリ。イーリスと同郷で、シーナンの兵団では同期。年齢も近く実力も拮抗していたことから、二人は周囲から二人一組で見られたり、いい意味で比較されたり、二人の仲を揶揄されたりしていたそうだ。
けれど、フォシュベリ家が聖域の民との婚姻によって始まっていること、己の容姿がその名残の表れであることに大変な誇りを持つヒューゴは、他者を血筋や生まれによって判断、差別する面を持つ為、実は当初からイーリスとは馬が合わなかったのだと言う。
加えて、ヒューゴは救国の乙女に心酔しており、アレクシアに憧憬の念を抱くイーリスとは頻繁に意見が対立して反発し合い、決して周囲が揶揄するような良好な関係ではなかったのだとか。
それなのに、事ある毎にヒューゴがイーリスに絡もうとするものだから、イーリスのヒューゴに対する心象は最悪。ただ、そのことがより一層鍛錬へ身を入れさせることに繋がり、その結果としてイーリスの夢であった近衛騎士団への入団が叶ったのは、皮肉なことだろう。
ともあれ、同時期にヒューゴは聖都騎士団への入団が決まり、これで疎遠になるとイーリスは清々していた。ところが、そう時を置かずにイーリスがキリアンと言う唯一の主を得てしまった為に、せっかく疎遠になれたのも束の間、ヒューゴと度々聖都で顔を合わせるようになってしまったのだとか。
そして、顔を合わせればヒューゴがイーリスに絡み、それをイーリスが嫌悪感丸出しの強い言葉で突っぱね、その反応を全く気にせず更にヒューゴが絡み、最後はキリアンによって双方が諫められると言う光景が繰り返されているのだそうだ。
「……うげぇ。あたし、あいつ嫌い」
ライサが思い切り顔を顰め、テレシアがそれを聞いて苦笑する。私もおおむねライサと同じ気持ちで、今一度イーリスの肩越しにヒューゴを窺い見た。
「ここから先は、この私、ヒューゴ・フォシュベリがリーテの愛し子様をご案内差し上げる。お前達は下がっていろ。邪魔だ」
まるで犬を追い払うかのように手を振って、ヒューゴはイーリスにその場を退くよう指示を出す。けれど、当然そんな言い方をされてイーリスが素直に従う筈もない。
ただでさえ不機嫌に寄っていた眉が角度を増し、その表情に更なる苛立ちが現れたのが、横顔からだけでもはっきりと分かった。
「あんたの案内なんて結構よ」
「あのお方のご指示だ。お二人の神聖な対面の場に、不埒者を同席させるわけにはいかない」
「……は? 誰が不埒ですって?」
イーリスの声が怒りに一段と低まる。けれど、ヒューゴは相変わらずそのことをまるで気にかけない様子で、大袈裟に手を額に当てて首を振った。
「分からないとは嘆かわしいぞ、イーリス。そこにいるだろうが、西海の猿が。お前ともあろう者が、何故そんな汚らわしい者と行動を共にするのか……」
理解に苦しむ、と呟くように続いた言葉に動いたのは、私とライサどちらが早かっただろう。
「ヒューゴ! 言っていいことと悪いことがあるわよ!」
イーリスが怒鳴る中、気付いた時には、私の手は日傘を構えて身を低めたライサの腕を掴んでいた。
ただ、あまりに強い怒りが眩暈を引き起こし、行動に伴う言葉が出てこない。私は顔を俯けて目を瞑り、荒くなりそうになる呼吸を落ち着けながら、何とか眩暈をやり過ごす。
その間にも、行動を止められたライサからは、苛立ちを纏った声が私に向けられていた。
「ミリアム、離して」
その内、ライサが強い口調と共に私の手を振り払う動きを見せる。けれど、私は無言で抵抗し、ライサの腕を掴む手に力を込めた。それだけは絶対にできないと言う、強い意思と共に。
今私が手を離せば、確実にライサはヒューゴへ向かうだろう。そんなことを許せば、相手の思う壺だ。ライサの怒りはもっともだし、私自身も今にも腸が煮えくり返って叫び出したいくらいの強い怒りを感じているけれど、この場で神殿側に有利になるような言動は、決してしてはいけない。
それが分かっているから、イーリスはヒューゴを一言怒鳴っただけで、手を出すことはしていない。ライサも、頭ではきっと分かっている筈なのだ。それでも怒りが収まらないのは、ヒューゴに彼女自身を蔑まれたからではなく、彼女を騎士にと望むエイナーを間接的に侮辱されたから。
けれど、だからこそ、ここで軽率な行動を取ってはいけないのだ。
私は顔を俯けたまま、ライサにだけ聞こえる声音で、堪えてと口にする。次に顔を上げ、ヒューゴを睨むイーリスへと声を掛けた。
「イーリスさん。……私に、あの方とお話をさせてください」
テレシアから教えてもらったヒューゴの人となり、話し振りから考えて、今この場で彼にはっきりと私達の意思を示し、彼に届く言葉を突き付けられるのは、恐らく私だけだ。
イーリスはわずかに逡巡するように目を伏せたけれど、私が大丈夫との気持ちを込めて頷けば、その体をずらしてヒューゴの姿を私の前にはっきりと晒してくれた。
私は踏み出す前に一度、ライサを見る。ライサは不満そうに眉根を寄せていたけれど、彼女自身もようやく冷静さを取り戻して怒りを抑えられたのか、構えていた日傘を下ろした。その際、ライサの視線がほんのわずか申し訳なさそうに私を見る。
だから私は気にしていないと言う気持ちを込めて笑みを灯し、そっと手を離した。それから一呼吸を置いて、一人ヒューゴの前へと歩み出る。
「……流石はリーテの愛し子様。ご理解が早くて助かります」
言葉の端々に滲むイーリス達への侮蔑の感情には目を瞑り、私は久々に気持ちを貴族令嬢へと切り替えて、まずは完璧な礼をしてみせた。
「わざわざの出迎え、感謝します」
「滅相もございません。私の方こそ、こうしてあなた様にお会いすることができ、大変光栄に存じます、リーテの愛し子様。私のことはどうぞ、ヒューゴとお呼びくださいませ」
ヒューゴも胸に手を当て、私に向かって深々と腰を折る。その様は、神殿騎士であることに誇りを持っていることがよく分かる、非の打ちどころのないものだった。
ここだけを見れば、ヒューゴをただ礼儀正しく有能な騎士と見たかもしれない。けれど、どれだけ完璧な振る舞いを見せられても、直前の彼の言葉から受けた最悪の心証を改善させる助けにはならなかった。
私は努めて無表情のまま、これまで幾度となく繰り返してきたお決まりの挨拶を返す。ただし、謙りすぎないように。私は彼より立場が上のリーテの愛し子なのだと、自分に言い聞かせながら。
「では、私のこともミリアムと」
「ミリアム様……。なんと麗しい響きをお持ちの名でしょうか……」
ヒューゴは陶然とした様子で私の名を噛み締めるように呟き、それから私へと手を差し出した。
「では参りましょう、ミリアム様。あなた様との対面を望む者が、この先でお待ちでございます」
ヒューゴの恭しい笑みが私を見る。彼は、差し出した手を私が取ることを全く疑っていない様子だった。それどころか、そのことを隠しもしない期待に満ちた瞳の輝きは、私の手を取って案内する栄誉に与る瞬間を、今か今かと待っているようですらある。
子供のように純粋にその時を待つヒューゴに欠片ばかりの申し訳なさを感じながらも、私は毅然とした態度で顔を上げ、強くヒューゴを見据えた。
「ヒューゴさん。大変ありがたい申し出ですが、遠慮させていただきます」
その瞬間のヒューゴの表情は、まるで笑顔の石膏像に罅が入ったかのようだった。私に取られることのない手が虚しく宙に留まったまま、ヒューゴはたっぷり三呼吸ほど経ってから、それは、と恐る恐る口を開く。
「……どう言うことでしょうか、ミリアム様」
「どうもこうもありません。今告げた通りです。あなたの案内は必要ありません」
私の後ろで、イーリスがほんの小さく噴き出す音が耳を掠めた。その途端、ヒューゴの色白の肌が羞恥と怒りに赤く染まる。ただし、その瞳が私を睨み付けることはなかった。代わりにヒューゴの視線が捉えたのは、イーリスだ。
「イーリス、貴様! ミリアム様に何を吹き込んだ!」
「は? 自分の案内を断られたからって、言い掛かりはよしてくれる? 私は何も吹き込んでなんてないわよ、失礼な奴ね」
「ならば何故、リーテの愛し子であられるミリアム様が、この私の手を拒絶なさるのだ!」
「さあ? 本人が目の前にいるんだから、本人に聞きなさいよ」
不機嫌そうな声ではあったけれど、イーリスがその実楽しんでいることが、私には振り向かなくとも分かった。私が堂々とした態度でヒューゴを突っぱねたことが、さぞ痛快だったのだろう。もしかしたら、その口元には笑みが浮かんでいるかもしれない。
他方、イーリスに悉く言い返された上にもっともなことを言われたヒューゴの顔は、実に激しく歪んでいた。イーリスの言葉に従うことは癪だけれど、私から真意は聞きたい……そんな気持ちが激しくせめぎ合っているのだろうか。しばらく屈辱に耐えるように歯を食い縛りながら逡巡していたヒューゴは、最終的には決心したように「理由をお聞かせいただけませんか」との一言を唸るように吐き出した。
そんなヒューゴの様子に、私は一瞬だけ、素直に理由を口にすることを躊躇する。ヒューゴは選民意識の強い人ではあるけれど、それさえ除けば、とても真面目で素直な人だと感じたからだ。
それでも私がここで対応を誤れば、きっとヒューゴに私達の怒りは伝わらない。
「あなたが、私の大切な友人達を侮辱したからです。そんな方の手を取り案内されることを、私は決して望みません」
敢えて声を低め、私の怒りが伝わるよう祈りながらはっきりと返せば、ヒューゴは目を瞬いて呆け――それからゆるりと顔を俯けると、くっと喉奥で笑った。
それは私が望んだ反応でも予想した反応でもなく、イーリスも、勿論ライサやテレシアも、全員が怪訝そうにしたのが気配で分かった。
その中で、ヒューゴの声だけが明瞭に聞こえる。
「……ああ、騙されるところだった。よりによって、下賤な西海の者が友だと? しかも、この私がそれを侮辱した? ――馬鹿な」
きっと顔が上がり、ヒューゴの瞳が今度ははっきりと私を睨み付けた。
「そのような浅ましい思考の持ち主が、我らが尊きリーテの愛し子様である筈がないだろうが! よくも謀ってくれたな、この偽者めが!」
私に向かって目にも止まらぬ速さでヒューゴの手が閃き、咄嗟に目を瞑った瞬間、乾いた音が響き渡る。
けれど、私を襲う痛みはない。代わりに聞こえてきたのは、苛立ちを爆発させたイーリスの一吠えだった。
「ああもう、本当に! 馬鹿の相手は疲れるっ!!」
言葉尻に何かを蹴り付ける鈍い音が重なり、ヒューゴのものと思しき呻き声が私の耳を掠めた。恐る恐る目を開けば、苦悶の表情を浮かべ、腹部を両手で押さえて地面に蹲るヒューゴの姿が飛び込んでくる。脇に仁王立つイーリスは腕を組み、ヒューゴを遥か頭上から冷え冷えとした瞳で睨み付けていた。
この状況、恐らくヒューゴの手を止めたイーリスの膝か足先が、彼の鳩尾を強打したのだろう。私もアルグライスで屋敷の主人に似たような暴行を何度も受けたことがあるから、その痛みはよく分かる。何度、胃の内容物が逆流して床を汚し、更なる暴行を受けたことか。
うっかりその時のことを思い出して私が帽子の鍔の奥で顔を顰めていると、ヒューゴの鮮緑色の瞳が鋭さを増してイーリスを睨み上げた。
「……イー、リスっ、貴様っ! 私にこんなことをして……ただで済むと、思うなよ……っ!」
「ああ、そう。……で? 忘れてるようだから言っておいてやるけど、私の主はクルードの愛し子よ? そして、私はそのクルードの愛し子からリーテの愛し子のことを任されてるの。あんたがどうただで済まさないつもりか知らないけど、少しは立場を考えて物を言ったら?」
たかが神殿の一騎士の分際で勘違いしてんじゃないわよ、と最後に吐き捨てるイーリスは、私がこれまでに見たこともないほどの怒りを発していた。
美人は怒ると怖いとは言うけれど、イーリスの凄味のある睨みは、怒りを向けられていない筈の私まで気圧されるほどだ。そしてそれは、どうやらかなり稀なことでもあるらしい。私の背後で、私よりもイーリスとの付き合いの長いテレシアとライサですら、揃って震え上がっていたのだ。
それほどまでに、ヒューゴの独善的な言動はイーリスを怒らせてしまったことになる。
私はイーリスの怒りを宥めるように隣へとゆっくり歩み寄り、深々と被っていた帽子を取り去った。ついでにテレシアに綺麗に結ってもらった髪も解き、リーテの愛し子である証の鮮やかに艶めく緑の髪を陽光の元に晒す。
そうすれば、ヒューゴの瞳が零れんばかりに見開かれ、口元が戦慄いた。
「……エ……エステル、様……」
信じられないとばかりのヒューゴへ、私は少しだけ申し訳なくなって苦笑を浮かべた。
彼が母の名を口にするのも、無理もないことだから。
ヒューゴの年齢では母の姿を直に目にしていても鮮明な記憶にはなく、救国の乙女を描いた絵画でしかはっきりと見たことがなかったとしても、正真正銘、母そのものの姿をした私は、どんな絵画よりも「エステル様」だろう。
こんなところで、母の似姿であることが役に立つとは思わなかった。
「……ヒューゴさん。あなたはこれでもまだ、私を偽者と罵りますか?」
途端に、ヒューゴが恐れたようにひゅっと息をのんだ。今しがたの己の過ちに、一瞬にして顔色が蒼白に転じる。意味もなく開閉する口からは、ただ息だけが無駄に漏れて、私の姿がヒューゴへ与えた衝撃の大きさを物語っていた。
その様子を見て、私はイーリスへと帽子を手渡した。
「イーリスさん、ここをお願いできますか?」
「それはいいけれど……まさか、一人で行く気じゃないでしょうね?」
私が無茶をしがちであることを知るイーリスの当然とも言える問いに、私は笑って首を振った。すぐさま踵を返してライサの手を取り、イーリスに示す。
「ライサと一緒に行ってきます」
「それなら安心だわ。……ライサ、冷静にね」
「うん。次はちゃんと堪えるし、ミリアムのことも守るよ」
ライサが誓うように頷くのを待って、私はライサと共に森へと入って行った。