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夏休み前日。今日は終業式の日だ。
教室は騒がしく、明日から夏休みに入るとあって周囲の人間も浮き足立っているのがよく分かる。
そんな周囲の人間とは違って俺の気は重い。明日から補講が始まるからだ。
めんどくさい。ああめんどくさい。めんどくさい。
土日しか休みがないから平日と変わらねえし、登校するのは俺と麗奈だけ。たったの15分休憩だと言うのに周りの喧騒少し煩わしい。
頬杖を着き、喧騒の中を、不機嫌面を貼り付けながら鎮座している俺を、隣の席に座る幼馴染の麻波涼夏が不思議そうに見ている。
「悠くん今日は一段と不機嫌そうだね!何かあったの?」
涼夏が声を掛けてきた。
こいつは明日から休みなんだよな……敵め。
「明日から遊び回るお前に話すことは無い」
「なんでぇ!?」
「俺はな……明日から補講なんだよ。お前はいいよな。明日から休みだもんな」
「うえー……八つ当たりじゃーん。かっこよくないよー?」
かっこよくないって言われた。普段なら傷つく所だが
「かっこよくなくてけっこー。今日1日だけでもお前らを不幸のどん底に貶めてやる」
こうなったらとことんだ。ヤケになった俺は胸を張って言った。
さあ、かかってこい。今からお前に恐怖を教えてやろう。
そう意気込んだ俺とは真逆に、涼夏は頬を染めて俯き、両手の人差し指を胸の前でツンツン突き合わせている。
「それで、悠くんの気が済むなら……私はいいよ。いくらでも当たり散らして」
どうして汐らしくなるんだそこで。いつものお前なら
「望むところだよ!みんなの夏休みは私が守る!」とか言ってのってくれると思ってたのに。
幼さの残る可愛い幼馴染に言われれば嗜虐心がそそられない事もないが、これで当たり散らしたらDV旦那みたいで嫌だな。
もう一つ、涼夏を揶揄えない理由がある。遠くで美鈴が俺に睨みを効かせている。
俺達の会話が聞こえていたのだろう。涼夏に手を出したら殺す。そう目が物語っている。
心配しなくてもやらねえよ。俺だって命は惜しい。体力も惜しい。夏休みを毎日登校し続けるモチベも。
「冗談に決まってるだろ、俺に女の子いじめて喜ぶような趣味はねえよ」
ただし、神田さんと琥珀さんは別。あの二人は揶揄うと面白い。
「んー。昔は良くイタズラされた気がするんだけど」
「昔と同じだと思ってもらっちゃ困るぜ。俺だって進化してるんだぜ?」
「その割に身長は……」「それ以上は言わない約束だよな?」
「すまないねえ。つい口がすべっちゃったよ」
こつんと自分で頭を叩き舌を出しててへぺろ。涼夏の可愛さアピールだ、ムカつくけど可愛い。
「んー。私も悠くんと遊びに行きたかったー!なのになんで補講なんか受けるのさー!」
俺の肩をバシバシ叩きながら言った。
「俺だって補講なんか受けたかねえよ。でも進学がかかってるんだから仕方ねえだろ……」
親父のお陰で俺の留年は免れた。
姉ちゃんから聞かされた話にはなるが。内藤から金を受け取った証拠を持って高校へと乗り込んだ親父は、大問題にはせず2人を辞職に追い込んだらしい。
大事にはしない代わりに、俺と麗奈の出席日数をリセットする事を理事長に要求した。
元々蓮さんと繋がりのある理事長だ。これは理事長から直接聞いた話だが、親父とも繋がりがあったようで……と言うか親父も蓮さんも、ここの卒業生だったらしい。
理事長の二つ返事で親父の要求は通った。
夏休みの補講は体裁を保つ為で仕方なくと言ったところだ。
大人の事情で補講を受けるのはめんどくさいけど留年するよりは遥かにマシだ。
ちなみに麗奈は出席日数のリセットを断った。意地でも俺と同じ学年になるつもりなのだろう。
「そだねーー。でも残念だなぁ、うぅ……土日は付き合ってくれる……?」




