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人の死を予知する夢、何とも寝覚めが悪い夢だな。
「今まで何人の夢を見た?」
「去年の夏から8人くらいです。最初はただの悪い夢だと思ってたんです……テレビのニュースで見るくらいだったので」
千秋は口を閉ざして言いづらそうにしている。
段々と近くなってきた。と言ったところか。もう直視してる可能性もある。
人が亡くなった場面に小学生が居合わせて平気なわけねえよな。
「その続きは言わなくても大丈夫だ。大体分かった」
千秋の頭にポンと手を乗せて言った。
俺たちがこの子の為に出来ることは恐らくない。でも小学生の千秋が夢に悩まされたままじゃ寝覚めが悪い、何か出来ることは無いものか。
「続きがあるんです。2ヶ月前におばあちゃんの亡くなる夢を見てしまって、お母さんにその事を相談したんです」
「お母さんはなんて?」
「脳梗塞で亡くなる夢だったんですけど。お母さんは、おばあちゃんは元気なんだから死ぬ訳ないでしょ。気持ち悪いこと言わないで、って私を叱ってきました」
そしてそのままおばあちゃんは脳梗塞で亡くなった、か。
「両親は信じてくれなくて。おばあちゃんは夢の通り亡くなりました……お母さん達は私を気味悪がって家から追い出して来ました……」
人と違う物を持ってる人間は怖い。
言わばこいつの予知夢を信じてやれば人を助ける事だってできるんじゃないのか?それを信じないどころか、実際に事が起きたら追い出す。
こんな小さな子供を家から追い出す親の神経を疑うぜ。
「公園で膝を抱えて泣いてるのを見かけてな。取り敢えず俺が連れて帰ってきたんだ。はいお待ち。肉野菜炒めと天津飯とチャーハン。熱いから気をつけて食えよ」
「ありがとう雪兄」
雪兄が肉野菜炒めを乗せたお盆を目の前に置いた。湯気立つ肉野菜炒めは美味そうだが、無責任な親に少し食欲が失せて憤りすら感じてる。
……こんなんじゃダメだ。
麗奈も千秋も同じようで俯いて料理に手を付けないでいる。
「なあ千秋」
「なんですか?」
こちらに向けた大きな瞳には光が薄い。
ガキの癖に絶望しきったような目をしやがって気に入らねえ。
「どうせもうすぐ夏休みなんだろ?なら俺んちにも遊びに来いよ」
「同情ならやめてください。雪人さんに拾って貰っただけでも幸せなので」
本当に可愛くねえガキだ。俺が小さい頃はもう少し素直だったぞ。
「同情?俺がお前と遊びたいから誘ってるだけだ。俺たちもう友達だろ?」
「……悠太さん」
千秋は俺の名前をポツリと呟いて、肩を震わせた。
そうだ、子供は子供らしく泣け喚け、よく食べてよく遊べ。じゃないとお前の心まで壊れちまう。
「悠太さんってロリコンなんですか?」
千秋は微笑みを俺に向けて言った。
唖然として言葉もでねえ。俺多分良いこと言ったよね。
そこは感動に顔を泣きぬらしながらありがとうございます。って言う所じゃねえの?
椅子が揺れてる。麗奈が俺の下で笑ってるからだ。雪兄も厨房で洗い物をしながら笑ってる。
「ふふふ。ありがとうございますっ悠太さん!」
千秋は年相応の満面の笑みを浮かべて笑った。
やっぱ飯を食う時はこうじゃなきゃ、しんみりしてると美味い飯も不味くなる。
俺たちは雪兄が作った料理を美味しく頂いた。
――――
家に帰ってきた。
リビングのソファーでまったりとした時間を過ごしながら、帰り際に雪兄が言っていた事を思い出す。
「今日、菜月と大和さんが高校に行ってるけど、菜月から何か聞いてるか?」
なんでも内藤に買収された校長と生活指導の首を取りにうちの親父が動いているらしい。
姉ちゃんからそんなことは一言も聞かされてない。
言うまでもないってことか?それにしては、その話から遠ざけられている感が否めない。




