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俺と張り合う気でいた麗奈は不思議そうに首を傾げた。
俺が割れ物でも扱うかのように優しく邪魔をしていた麗奈の手を取り、椅子を引いてやると、ストンと腰を下ろした。
『ありがとう悠太( ¯﹀¯ )』
「おお、紳士っぽいですね!」
そうだろ千秋、俺は紳士なんだ。12歳のガキじゃない。
そう心の中で毒づきながら麗奈の膝に座った。
「……かっこ悪いです」
ほっとけ。俺のプライドなんてこいつの前じゃ最初からなかったような物なんだよ。
「負けてやる優しさ。あると思うんだけど」
「女性の膝の上に座りながら言ってもかっこよくないです」
「いいか?ひとつ言っておくぞ。拒否れば飯を食うのが遅くなる。雪兄が開店出来なくなる。こうなると困るのは雪兄。俺は雪兄に気を使って麗奈の膝の上に座っただけだ……つまり俺はかっこいい」
「どちらかと言うと麗奈さんの膝に収まってて可愛いんですけど、ね、麗奈さんっ」
言いながら千秋は俺たちの右側に座った。
『可愛すぎて癖になりそう(/ω\)』
お前機嫌直ってんじゃねえか。ならくっつく必要はどこにあった。悔しいから帰りは少し離れて歩いてやる。
「イチャイチャするのはそれくらいにして何食う?」
満を持して、調理の準備を終えた雪兄の登場。
この2人の相手をしていると精神を削られそうだから丁度いい。
「肉野菜炒め」『お姉さんは天津飯にする(*°∀°)=』「麗奈は天津飯だってよ」
麗奈の注文を厨房にいる雪兄に伝えた。
「お前そればっかりだな。たまには他のも頼んでくれよ」
「好きなんだからいいだろ。俺にとってこれが母親の味みたいなもんなんだから」
帰りが遅い両親の代わりに雪兄がよく作ってくれたのが肉野菜炒めだった。それだけの話だが、今でも雪兄の作る肉野菜炒めは俺の好物だ。
「麗奈さんは声が出せないんですか?」
スマホに書いた文章を見せる麗奈のことが気になったのか、千秋が質問を投げかけた。
『うん。4年前から声が出なくて』
2ヶ月以上続けている声を出す練習も、笑顔の練習も上手くいっていない。
本人は表面上気にしている様子は無いが、時折話に混ざり辛そうにしているところを見掛ける。
寂しいよな。でも大丈夫だ。そんな意味を込めて誰にも見えない角度で、麗奈の手を握った。本人は気にして無さそうだけど。
「何かあったんですか?」
「深掘りするのは良くないぞ」
続けて質問する千秋に軽く釘を刺す。
麗奈だってそう何度も重たい事情を話したくもないだろ。質問されてるのが俺だったら思い出して沈むな。
「あ……ごめんなさい……もしかしたら私と同じかと思って……」
叱られた子供のように肩を竦めて千秋は言った。
「同じ?」
「はい。私も人の死に立ち会った事があるんです」
衝撃の告白だった。雪兄の家に居るのはそれ絡みなのか?
この子の事情は気になるけど今釘を刺したばかりだし、この子の事情に深入りしていいのかもわからない。
ただ1つ言えるのは、困ってる事があったら助けてやりたい気持ちはある。
「夢ってみますか?」
「見る。大抵ろくな夢じゃないけどな」
最近では見ることの少なくなった姉ちゃんの夢の事を思い出している。
夢の中で姉ちゃんに会えるのは嬉しいが、毎回顔が見えるくらいの距離まで行くと悪夢に変わるんだよな。
「信じてもらえるかわかりませんけど……私は人の死を夢に見るんです」
「俺もあるぞ。亡くなった姉ちゃんの夢だ」
「……麗奈さんだけじゃなくて悠太さんもですか。私は少し違うんです」
違う。と言うと何を見るのだろうか。友人が死ぬ夢?または両親?祖父母?小学生ながらに近しい人が死ぬ夢は辛いよな。
「私は…………予知夢って言ったらいいんですかね。人が死ぬ夢を見たら本当にその人が夢のとおりに死んでしまうんです」
千秋の言い出したことは予想の遥か彼方上を行く言葉だった。




