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ここまでの事がカマかけだったなんて心底驚きだ。

親父も面食らった様相で目を見開いて麗奈を見つめた。

麗奈は俺の頭を撫で、またスマホに文章を打ち、俺に見せてきた。

『ね?君のお父さんは君の事大事にしてる(o´艸`)』

「……そう、だな」



『次。絶縁宣言したらお姉さんが許さないから(҂˘̀^˘́)ง』

麗奈は親父との会話をそう締めくくり、俺を抱きしめたまま、雪兄達の間を抜け、外に出て行った。

それに対して蓮さん、雪兄、菜月姉ちゃんは何も言わず俺達を見送った。


外へ出ると明るかった空は既に夕日が落ちかけていて、夕暮れ時の太陽が眩しく俺達を照らしている。

麗奈は何も言わず人気の無い方へと足を進める。


3番倉庫を抜け、そこで一旦立ち止まるとキョロキョロと視線を動かして見られていないことを確認する。

また歩き出し、3番倉庫と2番倉庫の間へと俺を誘導すると物陰に入り、足を止めると、途端にしなだれかかってきた。

疲れきった体では麗奈の体重を支えきれず、下に引っ張られるようにしてその場で尻もちをついた。


ブルプルと震える肩。俺の瞳を見つめるオレンジがかった瞳は今にも涙が零れ落ちそうな程、潤んでいる。


俺と親父の中を取り持とう。そう気を張って自分でらしくあろうと気を張っていたんだな。

男性恐怖症。麗奈が患っているトラウマのひとつ、今日はそれを過剰なまでに抉られた。


俺の肩から麗奈の手が離れた。

パーカーのファスナーを腹辺りまで下げると、弄ばれた自分の体を浄化するように俺の手を持ち、自らの胸に押し当てた。


触れた指先からは彼女の柔らかさと体温と心臓が脈打つ感覚がストレートに伝わってくる。


俺も、麗奈も、生きてる。

乱暴されて怖かったよな……俺も、怖かった、殺されるかと思った。

麗奈が暴行されて、もう立ち直れなくなるんじゃねえかって思うと心が痛くて……。


もし麗奈が、居なくなったら……俺は……。


底知れぬ切なさが俺の心で、弾けた。もっと彼女の温もりを感じたい。


「麗……奈っ麗奈っ麗奈!れぃなぁ……!」


泣きながら彼女の名前を何回も呼び、麗奈の背中に手を回すと力いっぱい麗奈を抱きしめた。

「……ゅ、ぁ」

麗奈も俺の名前を呼ぶと抱き返してきた。


お互いの温もりを確かめ合うように力強く、少しでも密着するように。

体と体が触れ合い。頬と頬が触れ合い。零れた涙も頬を伝って入り交じり1つの雫となってこぼれ落ちる。


麗奈の抱えていた恐怖を、俺の抱えていた不安が溶け出すように、2人で涙を流して触れ合った。


ここに言葉や余計な思考はいらない。


――



ひとしきり泣き落ち着いた俺達は場所を変え、防波堤の端に腰を下ろすと隣同士に座った。

どれくらいの時間を密着していたのだろうか。沈んだ夕日と泣き腫らした麗奈の目が時間の長さを物語っている。


倉庫の中では、内藤らの処分について話し合っているのだろうか。俺達を探しに来る人は居ない。


麗奈が俺の肩に頭を乗せ、俺達は静かに海を眺めている。

夏の風が吹き、その度に麗奈の髪が揺れ、磯の匂いと共に麗奈の髪の香りが俺の鼻腔をくすぐる。


「麗奈?」

俺が呼びかけると麗奈は鼻先をこちらに向け、俺の目を見た。

麗奈のオレンジがかった瞳は月の光に照らされ、無表情な麗奈とは対照的に表情を持ったようにユラユラと揺れ、輝きを帯びている。


「1人にしてごめん」


『お姉さんがお出掛けしようって言わなかったらこんな事にはならなかった。だから君は悪くないよ』


「いや。俺がもっと強ければ良かっただけだ。弱いから麗奈を危険な目に合わせちまった」


『でも、助けに来てくれた。かっこよかったよ』

「……ありがと」

そう言って俺達はまた海を眺める。


今回ばかりは失敗と言わざるを得ない。麗奈を助けられたのは不幸中の幸いであってタイミングが噛み合わなければ俺達は離れ離れになってただろう。



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