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神が居たなら姉ちゃんは死ななかったかもしれないし、女神が存在していたなら、姉ちゃんは……異世界転生は有り得るかもしれない。
あの人なら世界のひとつくらいは余裕で救ってそうだ。
それくらいうちの姉は俺にとって偉大だった。
目の前で崩れ落ちている人と比べると天と地の差程の違いを感じる程にな!
「でも気使いのできる女性はかっこ良いっすよね。ほらこの間の誕生会の後とかかっこよかったっすよ」
「ほら!私はかっこいいんですよ!!」
項垂れ膝をついたままの神田さんの肩をポンと叩き慰めてやると息を吹き返したようで、何故か麗奈に向かって胸を張った。
『悠太、お姉さんと美代子どっちがかっこいいと思う?』
悩む、非常に悩ましい。俺からしたらどっちもどっちなのだ。
麗奈も、お姉さんを自称してるけど、どっちかと言うと駄目な人なんだよな。
約束と言う言葉を使って俺に言う事を聞かせる分尚タチが悪い。
「悠太くん!どっち!?私の方がかっこいいよね!?そうよね」
『お姉さんだよね?(▰╹◡╹▰)』
何故人は競いたがるのか、みんな違ってみんないいじゃだめなのか。
俺も、デリカシーの無さで雪兄よりはマシだと考えてる分同じ穴の狢なのかも知れねえな。
あそこで焼きそば売ってる雪兄もそう思ってんのかな……いや無いな、あの人は真っ直ぐな人間だからそもそも自分にデリカシーが無いとか、そんな事は一切考えてねえ。
「聞いてる?どっちが女性としてかっこいいの?」
神田さんに聞かれ振り返る。
2人の顔が眼前まで迫ってきておりなんなら麗奈と神田さんの頬はくっつきそうなほど近い。
「あー、こういう時に詰め寄らない女性じゃないっすか?ほら、2人とも普段は落ち着き払ってるけど俺に詰め寄る時は大体我を忘れてるよな?」
ある意味で落ち着きのない自分の欲望に着実な2人に言い聞かす。
『美代子は落ち着きが足りないね(*´ω`*)』
「麗奈ちゃんこそ悠太くんのおトイレについて行ったりして本当節操がないわよね」
『あれは介護だから(▰╹◡╹▰)美代子こそ隙あらば悠太を襲おうとしたりしてるよね』
「いーえ、悠太くんが可愛いから抱きしめようとしてるだけよ!あわよくば……」
あわよくば何をしてたんだよ。家に居てふとした時に抱きしめようとフラフラ近ずいてくる場面が何度かあった。
その度に変態危機回避のセンサーが鳴り響くので逃げたりして躱していた。
抱きつく事すら拒否しててよかった……俺の野生の勘が鈍っていたら……と思うとゾッとする。
『この変態が( º言º)手を握っただけでしどろもどろになるくらい初な癖にどうして飛び越えようとするの?』
「ふふ、それが私の性癖だからよ」
そこでカッコつけんな絶対カッコよくねえから、寧ろかっこ悪いまである。
『私は悠太とお風呂に入った事あるけどね(σº∀º)σドヤ』
「私だって覗きに行ったわよ!」
無いとまでは言わないが貧相な胸を張り合う両者に、ため息を吐きながら半歩離れる。
落ち着け俺、今の俺は由奈何だから、悠太じゃないんだ、だから今この2人が話題にしてる可哀想な裕太くんと私は一切関係ない。
「お前らこんなとこで何を言い合ってるんだ?」
待ってました、雪兄、よっ!大統領!さあこの猛獣2人をいつものデリカシーの無い言葉で鎮めてくれ!
両者共に雪兄の顔を、まるでそこら辺に落ちている紙くずでも見るような目でチラ見してまた睨み合いに戻った。
つっかえねえ、雪兄に期待した俺が馬鹿だった。
「私は妄想の中ならもう致してるけどね」
『はあ?私だってまだそんな事した事ないのに!やっぱ美代子と沙織は油断ならない( ๑º言º)』
「ん?俺は悠太と致したことあるぞ?」
その場の空気が一気に氷点下まで落ち込み凍りついた。