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ようやく手が触れようかと言うところで、指先同士が触れ、そして直ぐに離れた。そしてまた触れる。離れるを繰り返している。
「そろそろいいっすか、手。疲れてきたんすけど」
麗奈と手を繋いでいる今の俺はとても強気だ。何も怖いものがない。
まあそもそもトラウマなんぞ抱えていなければこんな目に遭う必要もなかったのだが……。
ごくりとわかりやすく唾を飲み込んで、今度こそ手の平同士が触れ合ったので、逃さまいと神田さんの手をがっしりと握った。
途端に顔が赤くなって目がキョロキョロとあっちこっち視線が落ち着かない。
「神田さんって変態の癖に初心なんですね」
「……………………っ」
言ってやった。
声にならない声をあげて思い切り手を離そうともがいているが、俺も負けじと力を込めて離さないようにしている。
うん、反応が可愛い、弄り甲斐がある。琥珀さんと違って危険も無さそうだ。
「は、離してくだしゃい……ぁぁぁ」
神田さんの顔が少しばかり絶望に染った悲壮感が漂う表情に変わってきた。
神田さんで遊んでいると、麗奈と繋いでいる方の手に少しの圧を感じた。
気になって麗奈の方を振り向くと、うすーく眉間に皺を寄せ、オレンジがかった黄色の瞳が真っ直ぐ俺の目を見ていた。
……お、怒ってる、虐めだと判断されたか?
「これはイジメじゃないぞ、からかっているだけだ!」
いじめっ子のテンプレみたいな事を言っちまった。
麗奈の雰囲気が一切変わることは無く、俺から一旦手を離して巾着袋からスマホを取り出して文字を打ち込んでいく。
死刑宣告じゃないよな……?
『今度は恥ずかしがり屋のお姉さんがいいの?』
父親役を取られるって嫉妬で妬いてるんだな。
「心配しなくても俺は約束を守るぞ?」
麗奈の雰囲気は変わらず。スマホを巾着袋に戻して目をフイと逸らした。
手を差し出すが、握られる事はなく麗奈の手はわざとらしくプラプラと宙を舞っている。
自分から握りに来いと言いたいのだろう。
すっと手を伸ばす。
「……」
避けられた、どう言う事だ?
「嫌なのか?」
と聞くと横に首を振った。
「じゃあ、ほら」
もう一度手を差し出しても首を振られる。
年頃の娘の考える事はわからん、なんて本当の父親みたいな事を思ってみたりして。
もしかしたら第2次イヤイヤ期と言うやつなのかもしれないな。
だとしたら俺はどうしたら良いんだ、イヤイヤ期の娘の扱いなんて聞いた事ないぞ。
「あの……イチャイチャしてないで離して……」
失礼な、どう見たってこれがイチャイチャしてるように見えるんだとしたら貴女の目は節穴だ。
まあいい、そろそろ離してあげないと泣き出しそうだ。
神田さんの手を離すと、代わりに麗奈が手を握ってきた。やはりよくわからん。
「あー、年下の女の子達にみっともなとこ見せちゃった……絶望しかないわね」
3人でしばらく黙ったまま雪兄の店の前の客が捌けるのを眺めていると、がっくり肩を落とした神田さんが溜息混じりに言った。
弄り甲斐があるから特段気にしないんだけどな、ただの変態よりはギャップがあっておもし……可愛い。
「神田さんにカッコいい場面なんてあったか?」
出会いはゲーセンで言い寄ってきて麗奈と唯に撃退されて、2回目も襲いかかってきた末悩みを聞いて大号泣、それ以降……ないな。
「なっ、私ってカッコよくないんですか!?ねえ、麗奈ちゃん!かっこいいよね?」
麗奈も可愛く小首を傾げている。
あ、膝から崩れ落ちた。
「かっこいい大人の女性には私はなれないの……?私に何が足りないというの……?」
ガチめのテンションでそんな事を行ったとしても、この世界には力をくれる神どころか、都合のいい女神だって居ない。
もし神が存在して居たとしたら俺がぶん殴ってる、全力で。