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自分の手汗でジトっとした手で麗奈の手に触れるのは申し訳なさがあるが、落ち着く。
出来るならこないだみたいに抱きしめて欲しい。ここが外だってのが忌々しい。
「取り敢えず落ち着けるところに行こう。悠太平気か?」
雪兄を安心させようと声を絞り出そうとして口を開くも出てくれないから代わりに頷いて答える。
「そうね。悠太くん、私が後ろを歩くから大丈夫よ」
神田さんも元気づけてくれ、雪兄を先頭に場所を移す事にした。
某ファンタジーゲームのように一列になり極力人混みに触れないように道の端を歩いて進んでいく。
遠くもない距離を歩いていくと、ある一つの屋台に尋常じゃない行列が出来ているのが見えてきた。
この屋台、10人以上は並んでるんじゃねえか?
「マジか、少し目を離した隙にとんでもない事になってるな。静香1人で回せる人数じゃないな……」
どうやら雪兄が店を出している屋台らしい……それならこの行列も納得がいく、いつも店で出しているレベルの焼きそばをここでも作ってるからな。
幸い俺は癒しのマイナスイオンを放つ麗奈が傍にいる事によって徐々に落ち着きを取り戻し始めている。
ならここは雪兄を行かせてやるのが先決だ。
「雪兄。もう大丈夫だから静香のところ行ってやれよ。普段あんなに落ち着いてる静香があんなにてんやわんわしてるんだからほっといたらかわいそうだろ」
口数多く言ったから言い訳みたいに聞こえちまったか?雪兄が疑いの眼差しで俺を見ている。
「本当か?兄として俺はお前の事が心配で仕方ないぞ」
ぎゅっと麗奈と繋いだ手に力を入れると、思いが伝わったみたいで、麗奈がスマホに文字を打って雪兄に見せた。
「なるほどな……じゃあ少し待っててくれな、客がはけたらお前達にも焼きそばをご馳走するよ」
そう言って雪兄は人混みの隙間を縫って屋台へと帰っていった。
「やけに素直に引き下がっていったな、なんで言ったんだ?」
『悠太は私の手に夢中だから平気。寧ろ今は雪人さんはお邪魔虫だよ( ´ ▽ ` )』
既成事実を勝手に作るな。安心して気を許せる相手がお前しかこの場にいないだけだ。と強がりも言ってられない。
この手が離れて仕舞えば俺は立ち所に動けなくなってしまうだろう。
「……はぁ」
本日4回目の溜息を小さくつき唇を尖らせて、納得いっていない事だけを示した。俺の強みであり弱みである麗奈に俺が出来る小さな抵抗だ、抵抗する意味はあまりない。
「この人混みの中じゃ落ち着く場所を探すのが大変ね……どうする?」
神田さんがモノホンのボディーガードのように辺りを警戒しながら問いかけてきた。
どうせこの人混みの中じゃ落ち着く場所なんてあるはずが無い。
「神田さん俺本当にもう大丈夫っすよ。もうピンピンしてるから」
「本当に?」
神田さんの黄緑色の瞳が俺の嘘が無いか探るように真っ直ぐ俺の目を見ている。
こんなとこで強がったって仕方ない、寧ろほんとにダメだったら即帰るまである。
その点麗奈は凄い、俺の気持ちを完璧に理解してくれてるのか、俺の手をニギニギして遊んでいる。
手か?手なのか?
「大丈夫っす。だからまあ、良いっすか?」
物は試しだ、神田さんに握手を求めて手を差し出した。
「本当に!?握って良いの!?ふっふふふふ」
怖いんだけど。やっぱやめようかな。
「そんな引きつった顔しないでよ!わ、私女の子と手を繋いだ事がないのよ!!」
男の人と手を繋いだ事が無いと主張するなら頷けるんだけど、なんか最近この人に慣れてきたんだろうか、童貞臭さを感じる。
「いいっすよ。約束ですから」
俺が肯定すると、恐る恐る神田さんの手が近づいてくるけどそれがまた面白い。
ど緊張してるのが見て取れるほどガチガチに肩が固まっていて、手がプルプルと震えている。