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「お姉ちゃん何があったの?」


俺に聞かれて、姉ちゃんは水道から流れる水を見つめながら口を開いた。


「私は、なんで葉月ちゃんみたいに出来ないのかなって……何をやっても葉月ちゃんより下で、私だって頑張ってるのになぁ」

天才肌の姉と比べられ、レッテル貼りをされ、卑屈になっていた菜月姉ちゃんの悲痛な声だった。


「何か言われたの?」


眉間に皺を寄せ、瞳が湿気帯びてきた姉ちゃんがとても心配になった。何もせず放っておくと何処かへ消えてしまうんじゃないかって、俺は心配になった。


「今日怪我をしたのを聞いて、お父さんが、武道をやめろって」

「いいじゃん。お姉ちゃんは優しいから、人と戦いたくないんでしょ?」

「……うん。でも。どうせお前には…………さ、い、しょからき……たいじでながっだ、っで……」


必死に堪えていた涙が溢れ出し、姉ちゃんの頬を伝って、水道の水と混ざり排水溝へと流れていった。


昔から心無い言葉を吐く奴だったけど、この時ばかりは俺も親父に激しい怒りが沸いた。


――――――――――――――――――――


「という訳だ。うちの親父はいつもいつも葉月姉ちゃんを中心にして菜月姉ちゃんを蔑ろにしてたんだ。俺はそんな親父が大っ嫌いだった」


語ろうと思えば、他にも沢山出てくるが思い出すだけで腸が煮えくり返る。

麗奈は俺の顔をじっと見つめていた。スマホを握ろうともせず、ただじっと見つめてくるだけだ。


「それでも姉ちゃんは親父に言われた事を真に受けて涙堪えて下を向いて親父の言葉をじっと聞いてた」


何でだよ。あんなに努力してたのに。

「俺には分かんねーよ。自分の娘に。人に隠れて努力して努力してそれでも少し葉月姉ちゃんより出来なかっただけで……同じ姉妹なのになんであんなを差別をうけなきゃなんねーんだよ!」


怒りに任せ拳で机を力いっぱい叩いた。

少しでも発散させないと、もう一度スマホを手に取って親父に止めどなく出てくる恨み言をぶちまけてしまいそうだった。


俺の独白を聞いても、言葉を発さなかった麗奈は、両手を顔の前に持っていくと、人差し指で口角を押し上げた。


「悪いな……麗奈には関係無いのに」

怒っている俺を和ませようとしてくれたのだろう。

声を荒らげたのだって思い出し怒りの八つ当たりみたいなものだ。


『ううん。聞かせてくれて嬉しい。だから笑顔だよ(o´艸`)やっぱり、悠太のお父さんは悠太と似てるね。素直じゃない』


「……は?」

いつも俺の味方で居てくれた目の前の同居人に苛立ちを感じ始めた。何を訳の分からないことを言ってるんだ。


『怒らないで(;´・ω・)悠太を怒らせようと思ってるわけじゃないの。お姉さんの話を少しだけ聞いてくれる?』


麗奈の言葉にムカついていた俺は口を開かず、黙って頷いた。


『悠太のお父さんもきっと葉月と一緒で天才肌だったんじゃないかな?違う?』


1代で資産を築いたわけだから、そうだよな。親父も道場に通ってたって師範も言ってたけど、師範から聞いた話によると鬼のように強かったらしい。

黙って頷いた。


『出来るから出来ない人の気持ちがわからないんだよ。でも菜月が大事だからどうやって気持ちを伝えたらいいかわからない。それに悠太の家は資産家だから、いざ社会に出た時を考えると強い人に育てないと、と思って厳しい言葉を投げかけたんだと思う』


「だからって姉ちゃんにそんな強く当たる必要は無いだろ」


『そうだね。だから、悠太のお父さんは、教えるのがド下手くそなんだよ。お父さんが葉月を褒めてるところを見たことある?』


そう言われると、葉月姉ちゃんにも、良くやったって言うだけで具体的に何かを褒めてるところも見た事が無いような気がする。


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