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『ふふふ。貴方たち親子はよく似てるわよ。私から言えるのはそれだけよ』
母さんが意味ありげにそう言った。
俺と親父が似てる?そんな訳ないだろ。俺は親父みたいに大切にするべき人を疎かにしたりしない。
「何が言いてえのかわかんねーよ」
『そのうちわかる日が来るわよ。それで……悠太はそっちで良い娘見つけた?』
良い娘と言われて咄嗟に俺の隣でソファーに両手をついて、足をパタパタと動かしている麗奈の顔を見た。
麗奈は俺と目が合い、目をぱちくりと数回瞬きさせると不思議そうに首を傾げた。
麗奈の仕草と俺の頬が熱いのはきっと気のせいで、もっと言えば麗奈は家族。恋愛どうのこうのではない……あれ?なんでこんなに焦ってるんだ?
『無反応って事はいるんでしょ!教えなさい!涼夏ちゃん!?涼夏ちゃんなの!?』
うわぁー、めんどくせぇ。何故世の女性は恋愛ごとの話しになると生き生きし始めるのか。うちの母ちゃんはもとい、みんなそうだ。唯一麗奈だけはその手の話題に触れないけど。
「……いねえよ。悪いけど今はまだそういう気にならねえよ」
『悠太はお姉ちゃんが大好きだからね……一体どこで育て方を間違えたのかしら』
別に俺が姉ちゃんと結婚するって言ってたのは幼少期の頃で成長して高校生になった今では姉弟間での結婚は認められてないことなど、とっくに知っている。
「姉ちゃんは関係ないだろ。俺の気持ちの問題だ」
『じゃあ気になってる娘はいるのねー。ふむふむふむちなみにだ』「よーし、じゃあ切るぞーまたな」
通話終了ボタンを押して通話を切った。
これ以上母さんと話していて深堀されてもかなわん。
でも、久しぶりに母さんと話せて少し暖かい気持ちになった、心配かけたよな。今度会うから、その時は母さん孝行をするとしよう。
スマホが再び震え、画面には『春日灯』と、表示されている。母さんか。
サイレントマナーモードにスイッチを切りかえ、テーブルの上に置くと、麗奈に向き直った。
『良いお父さんとお母さんだね(o´艸`)』
「母ちゃんはいい母ちゃんだよ。親父は知らん」
『そう?お父さんも悠太のことよく見てると思うけど……』
麗奈まで母ちゃんみたいな事を言うから、ついトゲのある言い方で返してしまった。
『私は……お父さんとお母さんいないから……お父さんを煩わしいと思ってしまう悠太の気持ちを分かってあげられないけど。悠太のお父さんはちゃんと菜月と悠太のこと見てると思うよ』
「そうだといいけどな」
俺は困った顔をして吐き捨てると口ごもった。
これ以上家庭の事情に口を挟んで欲しくないからだ。麗奈は家族だけど俺の家族であって、親父の娘ではない。
口ごもって口を開かなくなった俺の手を麗奈が握りしめた。
『お姉さんは君の味方だよ』
「わかってる。だけど親父の事は信用出来ない」
『どうして?君が嫌じゃなかったら詳しく聞かせて欲しい。君の事、知りたいな』
俺の事を知りたいと言われるとなんか照れるな。
考えてみれば麗奈に親父と俺達姉弟の確執は聞かせたことがなかった気がする。
いい機会だ、俺の事を知ってもらう為に話してみるのもいいかも知れない。
「今よりもっと幼いガキの頃の話だよ」
そう言って俺は、麗奈に昔話を始めた。
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あれは俺が10歳の頃だった。姉ちゃん達も14歳で中学生、小学校の授業が学校まで姉ちゃん達が迎えに来て、一緒に帰って習い事に一緒に行くのが俺の日常だった。
同級生には「お姉ちゃんと帰ってるのかよー!」なんて揶揄われたりもしたが、学校には涼夏もいたし、小学生特有のからかいなんてどうでもよかった。
習い事も、それ自体は面倒だし、武術の稽古なんてやる意味すら見い出せなかった。まあ、それでもかっこいい葉月姉ちゃんが見れるから好きだったけど。




