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「ぐっ痛えところを突いてくるな……」

『下賎な人間に対して付け込まれるような弱みを持っているお前が悪い。』


今なら、と言いたいところだが、覚悟を決めたのは昨日の今日だ。舌の根も乾かぬうちに、またトラウマを引き起こすつもりもないが、完全に治ったとも言い難い。


俺は親父に何も言い返せない。ただ、一つ聞くとするなら「アンタは葉月姉ちゃんのこと……どうとも思ってないのかよ」これに尽きる。


親父はあれだけ溺愛して将来を期待していた葉月姉ちゃんの命日、病院で姉ちゃんの遺体を見た時も、姉ちゃんを送り出す告別式の日もその後も一切泣いている姿を見たことは無かった。



その姉ちゃんが俺を庇って亡くなったのだから、親父は俺の事を責めると思っていたが、いつも通り味気ない素振りで仕事に出ていくだけだった。


俺にとって葉月姉ちゃんは大好きなお姉ちゃんで生きる指標だった。だからこそ何にも態度に出さないこの人が許せない。


『お前には関係のない話しだ。もう一度言っておく、俺が行くまでくれぐれも大人しくしておけ。高校生のお前に出来ることなんてたかが知れてる。それじゃ……『悠太!?悠太なの!?』……灯……』


小憎たらしい親父の言葉を聞き流そうとしたところ、電話口から母さんの声が聞こえてきた。

母さんは親父の手からスマホを無理矢理奪い取ったようで、親父が呆れた声で母の名前を呼んだ。


「母さん。久しぶり」


母さんと話しをするのは本当に久しぶりだ。実家に住んでた頃も母さんとだけは話していた。

とは言っても夕方夜に出掛けようとする俺に「出掛けるのはいいけど悪い事はしないのよ」といつも心配そうに声をかけて送り出すだけだった。

自分に声を掛けてくる人間の事を絶賛煩わしく思っていた当時の俺は、優しかった母さんの声を無視して出掛けていくだけで、世間一般的にそれをまともな会話とは言わないだろう。

なので母さんとまともに会話をするのは、実に4年ぶりになる。


「うん。久しぶり、元気してた?菜月はどう?蓮ちゃんのところで頑張ってる?」


母さんにとって俺達は自分が腹を痛めて産んだ子供だから親父と違って、出来が悪くても心配になるのだろう。


「ぼちぼち。姉ちゃんは秘書の仕事頑張ってるよ。毎日帰ってきたらクタクタになってる」


心配してくれている母さんに、素っ気ない言い方でしか返せないこの口が恨めしい。


『元気ならよかったわ、あの天然で甘えん坊だった菜月が一生懸命働いてるだなんて感慨深いわねぇ〜。』


「姉ちゃんは、昔から天然で甘えただったけど、一本スジは通っててしっかりしてたぞ」


『あら、悠太の方がお姉ちゃんの事を知ってる風ね。親として情けないわ』


そんな事はない。仕事ばかりで葉月姉ちゃんには構っても俺達には構ってくれない親父とは違って母さんは資産家という家柄を気にせず、決して差別すること無く俺達姉弟にも分け隔てのない愛情を注いでくれていた。


俺の夜遊びを止めなかったのだって母さんも昔は蓮さんと一緒に荒れていた時期があったから、自分と重ねてしまって止める権利はない。と思っていたに違いない。


本当は出掛ける俺を送り出すのだって心細く、心配でならなかったはずだ。


「そんな事ねえよ。母さんは!俺達をちゃんと愛してくれた」

電話先の恐らくまだ近くにいるであろう親父に聞こえるようワザと強調して言った。


「あら、大和さんだって貴方達の事をちゃんと愛しているわよ」


「母さんには悪いけど。それは信じられねえよ。俺もだけど、菜月姉ちゃんが酷い事言われてるのを聞いたぞ」

俺の事はまだ良い。自分の出来が悪いのは俺自身が1番自覚してるから……でも姉ちゃんの事を言うのだけは許せねえ。


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