5頁
「俺たちが先に目をつけ出たんですけどー!そりゃねえぜ」
チャラ男Aが雪兄の肩に手を乗せ、喧嘩を売りに行った。
今の会話の流れから言うと、雪兄が先に約束してたんだから、お前たちは後だろ。
「ん?ああ、こいつらにはうちで売り子してもらう約束だから、他を当たってやってくれか?」
雪兄は肩に置かれたチャラ男Aの手を優しく振り払うと、爽やかな笑顔でやんわり断った。
「舐めてんのかよ!」
何故かキレたチャラ男Aが、雪兄の胸倉を掴んで揺さぶった。
無謀だ、やめておけと忠告をする間も無く雪兄がチャラ男Aの手首を掴んで捻り上げた。
ありゃあ完全にキマってるな、無理矢理抜け出そうとすると脱臼して終わるやつだ。
「いででででで!!!!」
「折角の祭りなんだ……穏便に済ませないか……?」
……穏便にって言ってる本人が一番こえーよ。笑顔作ってるけど目が笑ってねえし。
「離せ!!離せよ!!いてぇんだよ!!」
「そいつを離せぇ!」
チャラ男Bが横から雪兄に殴りかかろうと素人丸出しで腕を大きく振りかぶった。
「させねぇよ」
軽く助走をつけて地面を大きく蹴って大ジャンプをかますと、チャラ男Bは俺の予想外の動きに、目を見開いて拳を止めようとするが、動き出した体を急に止める事はできず、カウンター気味に膝蹴りを顔面に叩き込んだ。
これが筋力も落ちて体重も軽くなっちまった俺に出来る全力の攻撃。
「ぐべぁ!」
チャラ男Bが鼻から血を噴き出しながら仰向けに倒れていく、その上を俺の体が通り過ぎコンパクトに着地した。
視界の端でチャラ男Cが怖気付いた表情で、チャラ男AとCを交互に見ながら足をガクガク震わせている。
これくらいでビビるなら最初から調子に乗んなよ。
「雪兄。離してやってくれ」
未だ掴み上げたまま、チャラ男Aと押し問答を続ける雪兄に手を離すように促した。
「いいのか?お前たちに危害を加えようとしたんだぞ?」
「俺はこいつさえやれればそれでいいよ」
素直な感想を述べた。
俺は俺をロリ扱いしたこいつを許せないだけだ。
「わかった。ほら、もう離してやるから」
雪兄が手を離す。チャラ男Aは涙目で解放された手首を撫でている。
さっさとBを回収して逃げればいいのに。
「祭りで出会いを見つけるのは良い。それもまた一興だと思う、だけどよ……出会いを強要するのは違うよな」
チャラ男Aに目線を合わせ、子供に言い聞かせるように穏やかな顔で優しく言う、それでいて雪兄の周りには圧を感じる雰囲気が漂って感じる。
「……はい。すみませんでした……」
最初の勢いはどこへやら、雪兄の強さと完全に意気消沈したチャラ男Aは倒れた仲間に目を向ける事も出来ずに雪兄に謝罪を述べた後、雪兄から目を逸らせず文字通り固まった。
「ほら、そこに倒れてる奴連れてもういけ。いいか?2度とこんな真似はすんなよ?」
緊張の糸を解くように、俺が言ってやるとピシッと姿勢を正して全力で頭を下げた。
「すみませんでした姐さん!!!!」
こいつも失神するまでしばいてやろうか。
「……あぁ、もういいから……いけ」
仲間を抱き抱えようとしゃがみ込んだチャラ男Aを動き出したくなる気持ちをグッと抑え込み、罵倒したい気持ちに耐えながら握った拳を体の後ろに回して見逃す。
「いやーすみませんした!ほらお前もいくぞ!」
最後にもう一度、頭を下げてチャラ男Aはチャラ男Cを引き連れてそそくさと歩き去っていった。
緊張の糸が解け冷静になった頭で周りを見てみると、また老若男女構わず視線を集めていて、呼吸が浅くなり始めた。男性恐怖症だ……。
すぐに麗奈の後ろに隠れた。
やっぱ少しでも距離が離れると周りの男から感じる視線が怖い。
少し震える手を麗奈に伸ばし、麗奈も無表情のままそれを受け入れてくれた。