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俺が何かを言う前に琥珀さんはヒラヒラと後ろ手を振って離れていった。
あの人のイケメン度合いには惚れ惚れするよ。
「……ごぇんぇ」
「いいんだよ。麗奈とずっと一緒にいたい」
「……ぅん」
「約束は守るから、麗奈にだけは信用してほしい」
鼻を啜る音がして麗奈が俺の胸の中で頷いた。俺の背中から片手を離すとスマホに文字を打ち始めた。
『悠太を信用してないわけじゃないの。悠太の事は一番と言っていいくらい信用してる……ただ悠太が居なくなるかもって思ったら、感情的になっちゃった』
ノリが良くて欲望に素直だけど、感情的に俺を叱るなんて事はなかったから麗奈にも感情的になって怒る一面があったなんて驚きだ。
「嬉しいって言ったらおかしいかもしれないけど、俺は麗奈の新しい一面を見れたようで嬉しいぞ」
文章を打つ時、自分の手で見せるまで時間があるから本心が出にくいのだろう。
『悠太は私の事知ると嬉しいの?』
「嬉しくないわけがないだろ、俺たちは家族なんだから」
まだまだミステリアスな一面が多い麗奈の事なら特にだ。
「こちとら性癖とアイスが好きなことくらいしか知らないぞ」
無表情な麗奈が表情筋の硬い口を微かに動かし、尖らせた。
私不機嫌ですと言っているようで可愛らしい。
『私の事いっぱい悠太に教えたつもりなんだけどなぁ』
「約束の大切さとか?」
『それもそうだけど、んんんん、もういいもん』
「拗ねるなよ。そんな反応されると気になるだろ」
少しの間沈黙が続き。落ち着いた頃になって俺のシャツにグリグリと顔を押し付け、涙を拭いた。
そして離れ際に俺の服で鼻をかむというイタズラも……。
「きったねえ!何すんだよ!」
『罰です(o´艸`)』
このやろー……仕返しに両手の人差し指と親指で麗奈の両頬を摘んだ。
「早く表情筋が戻るように俺がトレーニングをしてやろう」
手を動かして、もにゅもにゅと麗奈の顔をもてあそぶ。くくっ変顔にしても目付きが変わらないからおもしれえ。
『お姉さんで遊ぶの楽しい?(//∇//)』
「ああ!面白いぞ、表情筋が弱いだけでマシュマロみたいに柔らかくて手触りも最高だ!」
言ってることが不審者みたいで少し自己嫌悪……。
でも病みつきにやりそうな手触りをしてる麗奈の顔が悪い!
『あまり他人に顔を触られるのは嫌だけど、君ならいいよ(/ω\)』
やっぱりうちの麗奈ちゃんは最高だぜ!!
「お、おい少年。外でそこまでイチャつくのはよろしくないよ」
俺が麗奈の顔を堪能していると、ジュースを買って戻ってきた琥珀さんが引き気味の表情を浮かべながら戻ってきた。
俺と麗奈は互いに顔を見合せた。これは麗奈からしてみれば姉妹の戯れのようなものだ。俺にとっても父娘の遊び。
他人に見られたところでどうと言うことは……あるか。良識はあるからな、もしこれを見られたのが琥珀さん以外の人間だったなら俺は麗奈を連れて走り去っていただろう。
琥珀さんなら……。
「琥珀さん。麗奈の顔柔らかいっすよ。手触り最高だし。琥珀さんもどうすか?」
巻き込んでしまえばいい。
俺は片手を離してどうぞと、琥珀さんのスペースを空けてやる。
「本当か!?わ、私も触っていいか!?」
琥珀さんが興奮気味に麗奈に近づいてきた、地面に買ってきたジュースを置くと迷う事なく麗奈の顔に手を伸ばす。
「…………ゃ」
琥珀さんの手が麗奈の顔に触れようとした時だった、麗奈の手が、琥珀さんの手を払い除けた。
麗奈って親友の琥珀さんに手厳しいところあるよな……いや、多分俺と同じ理由だ、琥珀さんをいじって遊ぶ癖があるんだ、きっとそうだ。
「少年は良くてなぜ私は駄目なんだ!!!」
あー、怒ってる怒ってる。
「……ゃ」
もう一度伸ばした手を払い除ける麗奈、あれ?これ本気で嫌がってない……?




