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そして最後の仕上げだとばかりに、琥珀さんは奴の体から離れ、近くにあった細めの木を指さし一言「見ていろ」と奴に言うと、風を切って走り出した。
足の筋肉をフル稼働させて思い切り跳躍し、勢いに任せ空中で体を一回転させた後、恐らく渾身であろう蹴りを放った。
綺麗な胴回し回転蹴りだ。
蹴りが木を襲う、ミシミシと木が軋む音を立てるが琥珀さんは構わず振り抜き、地面にタン!としなやかに着地した。
その後ろを木が葉っぱを散らしながら倒れた。
「マジかよ……木を折りやがった」
思わず感嘆の声を上げてしまった。だってそうだろ?蹴りで木を折るなんて芸当……いくら細めの木と言えど武術の達人でもないと出来やしない。
ヒラヒラと葉っぱが宙を舞う、琥珀さんは上半身だけ後ろを振り向くと、歯を見せ獰猛的な笑みを浮かべた。
「さて、お話の時間だ」
話し合いと言うのは双方対等な立場で行われると思うのが普通だけど、圧倒的な戦力差を見せつけられた今、クソ野郎は心底怯えきったようすで、ガクガクと首を縦に振ることしか出来ない。
「ストーカーは犯罪だって知らないのか?」
「お、お、俺がすすすストーカー!?」
ストーカーしてる奴は自分の事をストーカーだと認識していないと言う、まさにこの事だ。
「何日か前から麗奈の事をつけていたんだろ?立派なストーカー行為だ」「俺はストーカーなんてしていない!!!たまたま見かけただけだ!それで!そいつが秋山さんに無理やりキスを迫ったから助けようと……っ」
クソ野郎が早口で言い訳を並べ立てている最中に琥珀さんがクソ野郎の方へ距離を縮めると、上半身を浮かせたクソ野郎の眼前に蹴りを放った。
「下手な言い訳をこれ以上続けるようなら次は当てる、見ただろ?私の蹴りを……本当は正拳突きの方が得意なんだけどね、手は出さないって約束したから仕方ない」
たまげたなあ……絶対この人には逆らわないようにしよう。敵に回したら顔が木っ端微塵になること間違いなし。
ここまでやればクソ野郎の敵意も折られた事だろう。
「琥珀さん、これ以上いじめたらそいつ喋れなくなっちゃうよ」
クソ野郎と琥珀さんの間に立ち、クソ野郎に手を差し伸べた。クソ野郎は少し困惑気味の表情を浮かべた後、ホッと息を吐き出して俺の手を取った。
「いだだだだだだ!!!!!」
正確には少し手をズラして指だけ握り、無理やり立ち上がらせた。
これだけのことをされたんだ、少しやり返してもいいだろ?
「少年、手は出しちゃダメだって……」
琥珀さんが俺を訝しげに見ている。
「俺は手を出さないって約束はしてないっすからね。危ない事はしないとしか言ってない」
こいつの攻撃を待ち受けていた時点で危ない事をしてるけど、それはご愛嬌。
「少年、それは屁理屈だ!」
「貴女も人のこと言えないでしょ……おい、クソ野郎。お前の処遇はお前に決めさせてやる。」
すぅっと息をひとつ吸う。
「1つ目はここで警察を呼んでそのままバイバイ……殺人未遂だから逮捕は免れねえな、まあ保護観察か少年院行きで退学。2つ目は琥珀さんにボッコボコにしてもらった上で親切なヤクザさんの元で更生……多分ベーリング海行きだな。3つ目は、俺達に全面協力しろ、協力すれば今回だけは見逃してやる、もし裏切ったら俺にボコられた上で警察に通報して出てきたらベーリング海……どれにする?」
ぶっちゃけどれを選んでも地獄、その上で3つ目に希望を残してやった。もちろん2つ目は琥珀さんにリスクがあるので有り得ない選択肢にした。




