32頁
――――――――――
「俺の上履き麗奈のとこにあるからちょっと待っててくれ」
「うん!私も履き替えたらそっち行くね!」
朝から元気な涼夏に1分程の別れを告げて、麗奈と2年の靴箱の方へと歩いて行く。
新しい靴は何故歩きにくいのか、爪先はスカスカだし、踵が擦れて痛くなるわ、正直ろくな事がない。
全ては俺が悪いんだけど。今まで履いていた靴が帰り道に破れたと主張する俺に、疑いの眼差しを向けながらも姉ちゃんが買いに行ってくれることになった。
そこで靴のサイズを聞かれたので23cmだと姉ちゃんに告げると、姉ちゃんは虫も殺さぬ優しい笑顔で「中学生の頃と変わってないね」と俺の心にぶっ刺さる一言を言い放った。
だから俺は「いやー忘れてた、そう言えば25cmだった」
と取ってつけたように見栄を張ると、25cmの靴を姉ちゃんが買ってきてくれた。
たった2cm大きさを盛っただけでこんなに痛いしっぺ返しを食らうとは思ってなかった……。
人間、見栄は張るもんじゃないなと後悔している。ただでさえ皮膚が弱いのに……元を正せばあのクソ野郎のせいだ。
麗奈が靴箱を開けてくれたので、中から上履きを取り出して履き替えた。
「ん?上履きもぶかぶかだ」
上履きに関しては昨日脱いだ物を直に麗奈の靴箱に閉まったので、上履きのサイズまで大きくなるはずは無い。考えられる答えは1つ。
「……ぁ」
麗奈が小さくか細い声を上げた。
『それ私の……足おっきいのコンプレックスなの、内緒にしてね(/ω\)』
可愛いけどなんか負けた気分で、屈辱だ。
でも麗奈のサイズに合うなら、この靴を無駄にしなくて済む。
帰りに自分にあったサイズの靴を買いに行こう、それでこの靴は麗奈にあげればいい。幸い靴のデザインはシンプルで麗奈にも似合いそうだ。
「麗奈、今日の帰り靴屋に寄って帰っていいか?」
『いいよ、大きいんでしょそれ』
「少しな、す、こ、し。」
『23cmの靴、買いに行こうね(ゝ。∂)』
「分かってて聞いたな?意地が悪いぞ」
そう言って不貞腐れ気味に教室に向かって歩き始めた。
後ろを軽やかな足取りで着いてくる麗奈はきっと表情に合わず、ルンルン気分だ、ちくしょう。
「涼夏。俺の靴箱の前で何してんの?」
麗奈と話し込んでいた俺が言うのは違う気もするが、靴を履き替えるだけにしては時間がかかっていた涼夏に声を掛けた。
目を見開き、唇をかみ締め、靴箱の扉へとかけた手をわなわなと震わせ、もう片方の手にはクシャクシャに握り潰された紙が握られている。
「…………」
無言で隣のクラスの靴箱の方へ歩き出すと、靴箱の前に書かれた名前を一つ一つ確認していき、ある名前の前で立ち止まると、怒りのままに前蹴りを連発した。
けたたましい打撃音とともに、鉄製の扉に凹みができ形を変えて行く。
「お、おい。やめろって」
今の時間帯は普通に登校してきてる生徒もいるんだぞ……ほら、周りは静まり帰ってドン引きしている。
涼夏の凶行を止めるために羽交い締めにした。
力が強すぎだ。引っ張った分引き戻され、容赦なく扉を蹴りつけた。
ボコボコに凹みまくってる……もう二度と開かないんだろうな、多分。中田くん、ドンマイ。誰か知らんけど。
「落ち着け。何があったんだよ」
心置き無く破壊を尽くし、興奮冷めやらぬ様子で肩で息をしている涼夏に聞く。
「許せない、殺してやる」
天真爛漫で笑顔の可愛い幼なじみに似合わない一言に耳を疑った。
「だから何がだよ。主語がねえぞ」
「悠くんは知らなくていい。もう落ち着いたから。教室行こ」
それだけ言うと、涼夏は俺達を置いて教室へと向かっていった。
一体なんなんだってんだ……。
麗奈と顔を見合わせる。麗奈の瞳には豹変した涼夏に対する動揺の色が見えていた。




