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間もなくして、麗奈が階段を上がる音が聞こえると、真っ直ぐ俺の自室へとやってきた。
男が浴衣を着る事自体は、普通にある。だからこれは、女装じゃない……。
「着付けなんて出来ないから着せてくれ」
麗奈に浴衣を押し付けて、服を脱ぎ始める。
……今更恥ずかしくもなんともねえ。
パンイチの状態になると、麗奈の手から浴衣を取って羽織る。
「後は頼んだ」
とだけ告げて腕を広げると、麗奈が帯を巻いてくれるのを待つ。
だが麗奈は帯を巻くどころか、スマホをいじり始めた。
『浴衣は下着を履かないんだよ(//∇//)』
「あー、今からでも普段着に着替えようかなー」
『嘘嘘(゜o゜;;冗談だよ』
どんだけ俺に浴衣を着せたかったんだよ。こいつは。
「なら早くしてくれ」
こくりと頷いてようやく着付けが始まり、慣れた手つきで、帯を巻いてくれた。
『次はお化粧とヘアメイクだね(*´ω`*)』
「そのままでもいいだろ」
『でも、その着付け方、女性用にしてあるから、そのまま行くと変だよ?( ・∇・)』
ギリっと唇を噛む。流石に人が大勢集まる場所で、自分が春日悠太だと、バレる格好では歩きたくない。
クラスメイトにバレた日には、女装して出かけるのが趣味の変態野郎、などとレッテル貼りをされ、俺は晴れて一族の面汚しだ。
「ちくしょう……メイクも頼んだ……」
――――――――――――――
メイクも終わり、家を出ようとしたところで、姉ちゃん達より一足先に、仕事から帰宅した神田さんと鉢合わせをした。
浴衣姿の俺たちに興奮気味の神田さんをそのまま拉致ってパーティに加え、祭りに行くことに。
この人は変態だが身体能力が高いから、ボディーガードとして優秀だ。
バスに揺られ、電車に揺られ、たどり着いたのは、隣町の駅のホーム。
ホームは祭り行きの人でごった返していて、ここから手をつないで歩かないと、すぐに逸れてしまいそうなので、麗奈と手を繋いで歩く。
後ろを歩く神田さんがで、羨ましそうな見ていたが、無視した。
餌を与えると調子に乗るからだ。
駅の改札を抜け、街の方へと歩を進め、広がる街並みを見ると、直ぐに第五十一回七夕祭りと、デカデカ書かれた垂れ幕が垂れ下がっている。
「ふー、移動だけで少し疲れたな」
垂れ幕を前にして、内心を吐露する。
これだけ人が多い場所に来るのは、久しぶりで俺は既に気疲れしてしまっている。
「そうねえ。私もお祭りに来るのは、子供の時以来だから、入る前から気疲れしちゃうかも」
神田さんも同意見のようで、家を出た時のような元気に溢れた表情は、消え去っている。
『でも、きっと楽しいよ(*´꒳`*)まずは腹ごしらえだね!祭りといったら焼きそば!焼きそばを食べようよ!』
焼きそばねえ……そういえば雪兄がこの祭りで焼きそばの屋台を出すって、言ってた気がするな。
祭りのゴムみたいな、焼きそばも嫌いではない。あれはあれで味があってよろしい。
それでも美味いものがあるなら、そっちを選ぶ。どうせなら美味い方を食いたくなるってもんだ。
「雪兄の屋台を探すか」
『この人混みの中で?(゜o゜;;』
麗奈の言う通りだ。人。人。見渡す限りの人、この状況じゃ、例え看板は見えても、立ってる人を確認して回るのは、骨が折れそうだ。
「……そうだ!」
スマホを取り出してラインの画面を開いて雪兄の名前を探し、トーク画面を開く。そして『位置情報を送ってくれ』と送信した。
「位置情報をくれって送ったから、忙しくなかったらすぐに帰ってくるだろ。少しだけ待機だな」
すぐに携帯が震えた。返事が返ってきたみたいだ。
『祭りに来たのか!( ・∇・)ここにいるぞ!』
と言う一文と共に、位置情報のついたメッセージが、画面に表示された。