13頁
唯の溢れでる母性では牙を剥き出しの猛獣涼夏を抑え込む事は出来ないというのか。
続く一進一退の攻防。続けて唯は頭を撫でる。
「離せよぅ!」と口では言いながらも体は既に抵抗する事をやめて、なんなら胸に頬ずりをかましている。
Good百合。1つ願いを言っても許されるならば……涼夏も抱き返せよ。
「涼夏も抱き返せよ」
あ、言ってしまった。百合の邪魔をするなんて馬に蹴られて死ぬべきなんだ。俺は……。
「命令してきたと思ったらなんで膝から崩れ落ちてるの……?」
アホなの?って付け足してくれて構わねえぞ……。
「混ざりたいんじゃないかしら?」
「なるほどねっ、ほら悠くんもおいで」
「やめてくれ……俺は百合に混ざる資格なんてないんだよ」
タブーを犯した俺にはな……自己嫌悪だ。
「百合に混ざることに資格なんてあるのかしらね」
唯は言った。その表情は優しさと慈愛に満ち溢れた聖母のよう。
「そうだよ。悠くんも混ざりなよ」
涼夏は言った。その表情は禁断の果実を食べろとアダムを唆した蛇に表情があったならこんな顔をしてたんだろうなって思わせる。
「恥も外聞も捨てたその先には何があるって言うんだ」
俺は2人に教えを仰いだ。さあ、無知な俺を導いてくれ。
「素晴らしき桃源郷……かしら?」
「悠くんも禁断の果実を一緒に味わおうよ」
涼夏が唯の胸に手を添え持ち上げると、指が沈み込みながらも持ち上げられる胸に俺は固唾を飲んだ。
これに飛び込んだらセクハラで捕まったりするんじゃねえか?これは明らかな罠だよな。
そもそも男の俺が女性の胸に飛び込むだなんて業の深い事を教室という学び舎でやっていいはずがない。
己の私利私欲に踊らされるものはいずれ身を焼かれ殺される。姉ちゃんも言ってた。
それでも……それでも俺は。
今眼前で繰り広げられている百合という尊きものに我慢の限界を迎えつつある。
寧ろ百合が俺を誘っているんだ。俺から手を伸ばしているんじゃない、向こうから歩み寄ってくれているのに、その手を掴んであげないのは逆に百合に失礼なんじゃないか?
「悠くん。欲望の解放のさせ方が下手っぴさ……さぁ飛び込んでおいでよ」
「俺は……そんな意思の弱い人間じゃねえ」
危なかった。体が百合を求めるが故に安易に飛び込むところだった。
「前はすぐに折れたのに……今回は手強いね」
あの時の俺は意思の弱い俺だ。あれから俺も精神的にも肉体的にも成長したんだ。
「健全な肉体には健全な精神が宿る……俺だっていつまでもあの頃の俺じゃない」
「の割には身長も伸びてなければ、二の腕も相変わらず柔らかそうなのだけど」
「……うぐっ」
痛い所を突かれた。
「後で触らせてくれないかしら」
「……嫌に決まってんだろ」
俺のガラスのハートを打ち砕いてくるような奴に誰が体を許すか。
「まあまあ、その話は後にするとして、どうするの?混ざるの?混ざらないの?私的には今すぐ混ざってくれると嬉しいかな?なんて……えへへ」
その時、俺のハートは別の意味で撃ち抜かれた。
「よし。俺も混ぜてくれ!」
健全な肉体?精神?恥?外聞?タブー?クソ喰らえ。そんなものは犬にでも食わせておけばいい。不健全上等。俺は百合に混ぜてもらうんだ。
俺はめくるめく百合の世界に足を踏み入れようと足を1歩踏み出した。
――キーンコーンカーンコーン。
「あら、昼休みも終わりね」
「うん」
終焉を告げる鐘の音が響き渡り、パッと2人の体は惜しげも無く離れた。
何とも形容し難い感情が俺の心を襲う。
「じゃあまた次の休み時間ね」
唯は俺達に小さく手を振って席へと戻って行った。
涼夏もさっさと自分の席に着くと、俺に声をかけた。
「悠くん、早く座らないと先生来ちゃうよ」
欲しいと思った時。直ぐに行動を開始しなさいって姉ちゃんも言ってたな……。
先程とは真逆の姉ちゃんの教えを思い浮かべながら、俺も泣く泣く席に着くのだった。ちくしょう。




