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話が通じると言った点では、初対面の時の立花先生よりも理事長の方が話は通じる。
この人女子生徒だけやたら贔屓するわ、転入初日の初対面。俺が男だって分かった瞬間毒まで吐きやがったからな、あの時の事は忘れてねえぞ。
「その言葉そのまま理事長に伝えとくよ」
俺が言うと、立花先生は苦虫を噛み潰したような顔で寝癖だらけの髪をくしゃくしゃとかきあげた。
口は災いの元。あわよくば減給でもされてしまえ。その青い顔がより一層青に染ることだろう。その方が面白い。
立花先生を放置して理事長室の方へと歩き出す。
「ま!まってくれ。理事長には黙っておいてくれ、ただでさえ二日酔いで遅刻ばかりなんだ……」
「呆れたぜ、立花先生。生徒に許しを乞うまでに落ちちまうなんてな」
立花先生に背を向けたまま告げる。生殺与奪権は俺が握ってるという事をお忘れなく。
「春日……俺は俺はなんて駄目な先生なんだ」
自覚して、せめて少しでも改善してくれ頼むから。俺も恩師が毎日二日酔いで学校に来て周りの先生から白い目で見られてるのは見るに堪えないんだよ。
「気付いてくれたならいいっすよ。まずは禁酒から始めましょ」
立花先生に振り向いた。立花先生は膝と手のひらを床について、絶望している。
そんな立花先生に俺は手を差し伸べた。俺の後ろに居た麗奈も俺に習いそっと手を差し伸べた。
ここで掴むべきはどちらかわかるだろ?立花先生、そっちは罠だ。麗奈の男性恐怖症は筋金入りだから先生に手を差し伸べる筈がないんだ。
立花先生は迷わず麗奈の手を取ろうと手を伸ばした。麗奈はスっと手を引き、立花先生の手は空を切った。
「折角美少女の手を握れそうだったのにー!!!」
立花先生が叫ぶ。周囲の先生は、なんでこの人まだここにいるの?と言いたげな侮蔑の目を立花先生に向けている。
分かってはいたが救えねえなこの人……どこまでも腐ってやがる。
「残念だよ立花先生。恐らく先生の未来は……減給だ」
「そうね。いくら言っても分からないようだから減給もありね」
背後で年相応の落ち着いた声が聞こえた。
立花先生が徐々に額から汗を流し始め、きょろきょろと動く目からは動揺が伺える。後ろにいる人は見なくても分かる、理事長だろ。
立花先生は息を飲み、表情をキリッとさせると、視線を真っ直ぐ俺の後ろにいる理事長に向けた。
「理事長!!どうかお許しください!!!」
どうやらプライドの欠片も感じさせない見事な土下座を繰り出し、理事長に詫びる立花先生。
理事長を見ると、ゴミを見るような冷たい目で立花先生を見下し、踵を返して背を向けた。
「春日くんこの教師としての自覚の欠けらも無い立花さんみたいな教師不適合者は放っておいて行きましょう」
理事長は敢えて立花先生を、先生と呼ばず『さん』を強調し、内情を感じさせない平坦な声で言って理事長室の方へと歩き出した。
「りじちょおおおおおおおお!!!!!」
立花先生の叫びも虚しく理事長が振り返る事は無かった。
これで、ちったぁ反省してくれると助かるんだけどなぁ……後で酒を控えるように釘をさしておこう、俺に出来ることはそれくらいだ。
理事長室に入ると先ず理事長が溜息をつきつつ、立派な椅子に軽く腰かけた。それから両肘を机に乗せ、頬杖をつくと俺と麗奈に向け、微笑みかけた。
「一緒にお昼食べましょ」
…………は?
「やだー、そんな怖い顔しなくてもいいじゃなーい!」
思っていた事が顔に出ていたのだろう。いや、むしろ出している自覚はある。目の前のいい歳したおば、睨まれた。お姉さんの言っている事が理解できない。
そんな事の為に?わざわざ校内放送を使って?俺を呼び出した?Why?
「たまには良いじゃないのー、私だってお気に入りの娘とお昼食べたいのよー」




