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「ん?神田さんどうした?」
「さぁ、腹でも下したんじゃねえか?」
爆走でいなくなった神田さんを不思議に思ったのだろう、雪兄が質問をしてきたので割とデリカシーのない発言で適当に返す。
自分達で傷つけておいてなんだが、あの人自分の仕事がボディーガードだってこと忘れてねえか?
「そ、そうか……腹が痛いのはキツイからな。後でラッパのマークの腹痛薬をやろう」
「いや持ち合わせてんのかよ」
「万全の状態で俺の料理を食ってもらいたいからな!」
キラッキラと顔の周りにエフェクトがかかりそうな程にいい笑顔でラッパのマークの腹痛薬をポケットから取り出して、それを前に突き出した。
万が一を誤魔化す為の準備かと思ってツッコミを入れたがどうやら杞憂だったようだ。
「腹が痛かったらそもそも飯食おうなんて思わねえだろ」
「……それもそうか、じゃあこれは瓶ごと神田さんにあげるか」
多分神田さんも頭の中にはてなを浮かべるけどな。
その後に意味を理解して盛大に取り乱すだろう、歳上女性の取り乱す姿を想像して、くつくつと笑いが溢れる。
「こんにちは。悪い顔してるね」
『静香ちゃんこんにちは(o^^o)』
「お、おう。ちょっと思い出し笑いをな」
「悠太は顔が可愛いから許されるけど、普通の人が外でそれをしてたら気持ち悪いからやめた方がいい」
俺たちが話に花を咲かせすぎて、待ちきれなくなったのか等々屋台から仏頂面の静香が出てきて早速俺に悪態をついた。
大分待たせたもんな……。
悪いとは思ってるが個性の強いやつだらけなんだ、その辺は勘弁してほしい。
「おお、弟子よ……待たせてすまんな」
デリカシーの無い雪兄にしては海に気を使って、いつもは宝井って呼んでんのになんでまた弟子と呼ぶのだろうか。
「こんな時だけ弟子呼ばわりして……それで牽制したつもり?」
静香が大きな目を更に見開き、ギョロッとさせて雪兄を睨みつける。
なるほど、いつも静香に怒られてるから、弟子と呼ぶ事で怒られないようにしたのか、呆れたぞ雪兄……。
「…………」
おい、下向いてねえでなんか言い訳しろよ。
「その手に持ってる正露丸は?」
「~~♪」
更に追求する静香に、知られたら更に怒られると踏んだ雪兄は下手くそな口笛を吹いて誤魔化しにかかった。
これじゃどっちが年上で師匠かわかんねえな。
「雪兄の料理を食いたいけど腹が痛い客の為に持ち歩いてるらしいぜ」
「お、おい!やめろ!」
「はぁ……」
このままでは埒が明かないので俺が変わりに説明してやると、雪兄が切羽詰まった様子で俺に噛み付いた。
それを見て静香は静かに心底呆れた、といった感じにこめかみを親指と人差し指で押さえ、首を軽く横に振った。
「お腹痛いお客さんが正露丸飲んでまでご飯食べたいと思うの?馬鹿なの?」
さっき俺が言ったことに棘をひとつそっと添えて告げた。
おかしいなぁ、出会った時は毒を吐く子じゃなかったのに、何が静香をそうさせたのだろうか。
きっと両親と言う枷から解き放たれて、自由になった今彼女を止める者が無くなったのだろう。
彼女本来の性格がこれだったとして、自分が出せているならこれはこれでいい事だと思う。
ただ、その毒が俺に向かって来る事だけは避けて欲しい。
雪兄みたいなぶっとい神経の持ち主ならまだしも、静香みたいに綺麗で普段は優しい人からこんな言われ方をされたら俺なら泣くまであるからだ。
同級生の知り合い女子の中ではこいつが1番まともだと思っていたが、認識を改める必要があるな。
涼夏、美鈴、唯、静香、どいつも同率1位で変わってる。
「でも、今日は役に立つぞ!神田さんがさっき腹痛で走り去って行ったからな!戻って来たらこれをやろうと思う!」
多分それも、静香に言ったら逆効果だと思うけど……。




