怪文書
意味は無いです
人を好きになった
彼は私に笑いかけてくれた
それだけで十分だった
たったそれだけの事で私は彼を好きになれた
私みたいなのにも笑顔を向けてくれる彼は優しい
彼を目で追う様になった
テキパキと仕事をこなす姿がとてもカッコイイ
ダラダラと喋りながら適当な仕事しかしないふざけた連中とは比べ物にならないくらい立派だ
彼はそういう奴らに怖いだの真面目すぎだの言われているらしい
意味がわからない
彼の仕事ぶりを誰よりも見ているから
私は、私だけは貴方の事分かってるからね
無表情で口数の少ない貴方は少しだけコミュニケーションを取るのが得意では無いだけで、決して怖い人では無いと私は知っている
仕事とプライベートのオンオフがちゃんと分けられるから仕事中は何事にも真面目なんだ
誰でも真似できる事じゃないよ、偉いね
プライベートではカードゲームが好きなんだね
私はよく分からないけど強いのかな?凄いね
特撮ヒーローも好きなんだ
どのシリーズが1番好きなのかな
探して私も観てみるね
初めて貴方と趣味の話を出来て嬉しい
ソシャゲ?をよくやるんだね
どんな物語のゲームなのかいっぱい話してくれて私幸せ!何を言ってるのか全然分からないけどね、キラキラした目で私を見てる貴方が好きよ
他の誰にも向けないような笑顔を私にだけ向けてくれてる
元気の無い顔をしてる日もあったね
どんな話題を振っても私を見てくれない
どこか虚ろで何も見てない目をしてた
ポツリと呟いた言葉が凄く怖かった
「隕石でも降ってこないかな」
泣きそうになっちゃった
もしかして私何かしたのかな
怖いけどLINEしてみたの
「隕石でも降ってきて欲しい程何か嫌なことがあった?」
どんなに頑張って考えても私が何かしたって思えないから他人事のように聞いてごめんね
もうひとつのバイト先でちょっと嫌なお客さんが居たからなんだね、私じゃなくて安心した
もうひとつのバイト先はお家の近くのコンビニだよね
コンビニって色んな人が来るから大変そうだよ
辞めちゃえばいいのにね
初めてデートに誘っちゃった
もちろんデートだなんて恥ずかしくて言えないからただ友達とカラオケに行くって言う体でね
貴方の歌はとても上手で少し癖のある歌い方をするのね、そんな所も素敵かも
2人で数曲歌ってそれから、貴方はカバンからカードゲームを取り出しちゃった
そのカードゲーム好きなんだね。
私ルールなんか分からないけど対戦したいのね、いいよ
このカードはいつ出せるの?このカードを使ったらどういう効果があるのかな?このコストってなぁに?このカードを置く場所はどこ?このカードじゃダメなの?そっか、そっか。
私の手札を見て教えてくれて嬉しい!
私の引きが強かったんだね、私勝っちゃったんだって!分かんない!
そうしてたらもう時間になっちゃったね。
私フリータイム以外初めて利用したから3時間なんてあっという間だったなぁ
カラオケのお店から出て次はどこに行こうかなぁって思ったの
どこか行きたいところある?って聞いてくれてやっぱり優しいね!
でも初めてお休みの日に会うからどうしたらいいのか分からなくなっちゃったよ
あぁやだよ解散なんて言わないで
そうだ、私スマホケース買いたいの、ちょっとそこまで買いに行こうかなっ、ね?
ほらこのお店とか良いかもね、見てみようかな
うーんこれとか良さそうだなぁ
ねぇねぇこれいいと思わな...
ああそっか他の品物見に行ったのね、お買い物だもん見たいもの見るもんね
うん、これにしよっかな...
さて、買いたかった物も買えたなー
次、どこに行こっか?お腹すいてない?
そっか、お家で食べてから来たんだね。
うん、うん...わかったよ
じゃあまたバイトで会おうね
またねっ
16時に解散ってなんだろう
小学生の門限より早くない?
あーあーあーあーあーー!!!
嫌になってきた
私お腹すいたや
あーなんかムシャクシャする
パチンコかぁ、騒がしいから気が紛れそう
あはは、はは、、2万負けちゃった
意味わかんないよ
なんなの知らないカードゲームさせないでよね
意味わかんない
手札見せてこれ出してあれ出してってそんなの1人でカードゲームやってるのと一緒じゃん、私カード持ってめくってただけなんだけど?スタンドかよ
私せっかくお洒落したのにな
ずっとドキドキしてたのに
あーもうヤダ
やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ
こんな事考えちゃう私が1番嫌だ
違うんだよ、彼は自分の好きなカードゲームを教えてくれたんだから
初めてのデートなんだから短時間の方が丁度いいってネットにも書いてるしさ
お金だってちゃんと割り勘でさ
1円まで割り勘だなんてキチンとしてて素敵じゃない
お金を借りて忘れちゃうクズより全然素敵!
あぁ最高!やっぱり彼が好きだわ
バイト先で私が彼の魅力をあれやこれやって話しちゃうから皆彼を見直したみたい
ちゃんと話せば意外と面白い人だって言ってるの
仕事はしっかりしてるから信頼できるって
私が皆に良い所を沢山話したからだよね
えへへ、私のおかげで彼は認めて貰えたのかな
嬉しいや、嬉しいんだけどさ
なんかヤダな
お前ら最初は怖いだの真面目すぎだの言ってたじゃないかっっ!!!!
なんにも分かってなかった癖にもう分かったフリとかするなよっ!!
私だけ、私だけなんだから
私だけが彼の良さに最初から気付いてたの
私より可愛い子と喋ってるの気に入らないな
取らないでよね
私が1番仲良しなんだよ
もっともっと私が1番彼を分かってるって分からせなきゃ
私彼が好きなんだよ
えへ、言っちゃった
バイト先の人みーーーんなに言っちゃった
もちろん彼にだけナイショだよって
えへへ、みんな私を応援してくれるって
嬉しいなー、みんな優しい!
どこがいいの?って、そんなのずっと言ってるじゃない!
彼は優しいんだよ!私になんでも教えてくれるし仕事に真剣な姿がかっこいいの!
みんな私のお話を聞かせてって言うのよ
私の恋の行方気になるんだって
照れちゃうな
あんまり皆でお話するとバレちゃうじゃない
あのね
今度のクリスマス誘ってみようかな
なーんて、なーんてね!!えへへ
本気だよ
上手く言えるかな
「再来週の水曜日空いてる?」
クリスマスって言えなかった!でもその日!
どうかな、いつも水曜日は彼お休み貰ってるからさ
どうかな、どうかな
「一応空いてますよ」
わ、わ、わーー!!
嬉しい!クリスマスにデートが出来る!!
ああでも、あぁ...恥ずかしくなってきちゃった
うぅ...
「へ、へぇ〜そーなんだね」
ああああー!私何言っちゃってるの!自分から聞いといてそんな興味無さそうに!ばかばかばか!
あぁ、どうしよう、早く誘わなきゃ他に予定が入っちゃうかも!!大変!
バイト終わり彼が帰る間際にまた声掛けれた!
「あの、さ...その、さっき言ってた水曜日...ご飯に行きませんか」
言っちゃった!言えた!でもすっごく恥ずかしい!私とご飯行ってくれるかな!!
「あー、いいですよ」
!!!!!
き、きたー!クリスマス!デート!!
急いでお店を探したんだ
お肉かな?お酒飲めた方が楽しいよね?
うーん、うーん。
ていうか夜のご飯だけかな?!
「水曜日って何時から何時まで空いてるのかな?」
「1日空いてますよ」
きゃーっ!!
丸々一日デートできるの?!嬉しい!私死んじゃうかも!
頑張って一日のスケジュール考えたよ!
ちょっと遠いけど動物園に行ってね、それからイルミネーションを見てね、それでディナーに行くのってどうかなぁ!
あ、でも私やっぱりバス酔っちゃうなぁ...どうしよう...
そっか!近くの水族館ならバスに乗らなくても大丈夫だね!!ナイスアイデア!
えへへ、デートの予定を一緒に考えるのって憧れてたんだよね
嬉しいな、楽しいな、あぁ...幸せだなぁ
私、この日に告白しよっかな...
クリスマスだし何かプレゼントを買いたいな、何にしようかな
彼の好きな趣味の物?いやいや、もう持ってたりそこまで好きじゃないもの選んじゃったらどうするの!
うーんじゃあ...ペン!ペンならあって困る物じゃないよね!
ちょっと良いペンを買ってこなくちゃ!
それからええと...あ、私のお家の近くにあるケーキ屋さんでクッキーも買って渡そうかな...
えへへ、すっごく楽しみだなぁ
「もうすぐ着きます!すみません!」
ちょっと遅れてしまったァァァ
でも私今日の為に髪飾りから靴までぜーんぶ新しく買ったんだから!
それにこの髪型だって毎日練習して可愛く結えるようになったのよ!
お化粧もいつもより丁寧に綺麗になるように頑張ったんだよ...
貴方はいつもバイトに来る時と同じ服だね
ううん、いつも着てる服素敵だなって思ってたから良いのよ
待ち合わせの時見つけやすかったから良いじゃない!
嬉しいな、趣味の話をしながら街を歩いてさ
お昼ご飯にハンバーグ食べて幸せすぎて味わかんないや!
水族館ではクラゲに夢中になる貴方が可愛いなって思ってしまったよ
昔にクラスの女の子と一緒に来たことがあったんだ...
お友達のカップルを尾行ってアニメみたい!面白いね!
その女の子とはまだ連絡取ってるのかな?
なんか少しだけイラッとしちゃった!
でも大きな魚を見て楽しそうにしてる彼が可愛いから全部吹き飛んじゃった!
お土産コーナーで沢山お魚のグッズがあって目移りしちゃうな!
何か買おうか?ってそんな!
ちゃーんと自分でお金は持ってきてるから大丈夫だよ!このチャーム可愛いから買ってくるね!
水族館楽しかったね!
え?これ...なぁに?くれるの!?
う、嬉しい...!えっ、そんな...本当に?!
夢じゃないよね...私...ええっ?!
こんなのってまるで恋人みたいで...
もしかして彼も私のことを...?!
いやそんなまさか、でも、ああああ
幸せすぎてフラフラしてきちゃった
もう涙が出そうだよ...
嬉しいなぁ...幸せだなぁ...こんなに幸せでいいのかなぁ...
ディナーはね、このお店を予約したんだ
肉BAL!ワインを飲んでみたかったのよね!
お肉ってやっぱり間違いないじゃない?
クリスマスだしとびきり美味しいお肉食べちゃおう!
これがワインかぁ...
あ、えっと...
酔った勢いでなんて告白したくないや...
酔う前に言わなきゃ!ちゃんと自分の気持ち!
あのね、あのね...
「私、貴方が好き...です」
言えた...
心臓やかましい...
ワイン一口も飲んでないのに顔が熱い...
下を向いたまま顔が上げられない......
「ごめんなさい」
今の今まで真っ赤に茹で上がっていた顔がスーッと冷めた
え
あ.....
は?
私今....ごめんなさいって言われた?
ちょ、ちょちょっ....え?は?つまり?ん???
振ら.......れた?
本当に?悪い夢でもない?
え、いや....なん...わかんない....
ど、は?いや、え、嘘...
あ、嫌、でも「そ、そっか!そっかぁー!」
嫌だ口が勝手に喋る
そっかじゃなくて違くて、そうじゃないでしょ
貴方も私もそうじゃないでしょ
「ちなみに、なんだけどさ!どこがダメとか聞いても大丈夫かな?」
いやいやいやいや何を喋ってるのこの人間誰私意味わかんない
もう喋れない何も無理聞きたくもない嫌だわかんないわかんないわかんないわかんないわかんないわかんないわかん「いや、どちらかと言うと自分に原因があるのでダメな所とかじゃなくて...」ないわかんないわかんないわかんないわかんないわかんない
は?私が原因じゃない?じゃあ良くない?あれ?なんで?
自分の?うん?いや分かんない。
「あんまりそういう恋愛感情?が誰に対しても湧かなくて」嘘じゃん嘘じゃん嘘じゃん私と楽しく話してたよね私と通話とかしたよね私に仕事を付きっきりで教えてくれたよね嘘じゃん嘘じゃん嘘じゃん嘘じゃん
「だから貴女に原因はなくてって事で...」
私じゃないなら良いじゃない意味わからないこと言わないでよ馬鹿じゃないの馬鹿なんで
「なるほどね!」やめろ「じゃあ仕方ないか」うるさい黙れ「本当に申し訳ない」謝るくらいなら断るな「いやいや、こっちこそごめんごめん!」私悪くないだろなんだお前やめろよ
それからの事はよく覚えてないや
一気にワインを飲み美味しいようなお肉を食べた気がした
顔を真っ赤にしてワインをまたおかわりした
少しふらつく足元をゆらゆらと見ながら彼に言ったの
「私今日の為にこの服も靴も鞄もぜーんぶ買ったんだよ!似合う?可愛い?」
もう振られてしまったのだから恥ずかしいことなんて無かったのかな
酔った勢いでかな
「あ、それ言って良かったのかな?似合ってるなぁって」
きっと1時間ちょっと前の私ならば飛び跳ねたくなる程嬉しい言葉だろうに
目の奥がただただマグマみたいに熱くなった
「そ、れ、は〜!言えっての!私、貴方が大大だ〜い好きなんだよ?嬉しくないわけないじゃない〜!」
まだ泣いちゃダメなんだ
「バスで帰るの?そう!気を付けてね!」
まだこの人の目には私が写ってる
「プレゼント!帰ったら開けてね!大したものじゃないけどさ」
好きな人の前で化粧を崩してたまるか
「本当に申し訳ない、いや、ありがとう。このお返しはいつか必ず」
早く来てくれ
「じゃ〜また明日?バイト入ってるっけ?」
早くこの人を乗せてどこかへ連れて行ってくれ
「入ってますよ、明日もいつもの時間です」
喉の奥から低い唸りが出てきそう
「そっか!あ!バス来たんじゃない?」
やっと
「あぁホントですね、では」
左右に揺れる手がダランと落ちた
彼がバスに乗ったと同時に私の腕は重力に従う
帰ろう
歩きながら家に向かう途中
ずっとずっとずっと我慢していたダムが決壊した
マスカラとアイライナーを含んだ雫がこの日のために新しく買った私に似合う服にボタボタと染みていく
頬に纏うオレンジのチークもニキビの跡を隠したファンデーションも私を艶やかに魅せるフェイスパウダーも全部全部この雫が剥がして服に染みていく
家に帰りついてからなんて無理だった
でも極力声を殺して歩いた
早足で橋を渡り信号を渡り階段を上りドアを開けてベッドに飛んだ
夜だけど私は声を上げて泣いていた
心の整理が全くつかない
ひとしきり泣いた後にメイクをちゃんと落として
カバンの中を見た
水族館の紙袋が2つ
袋から出して気に入ったチャームを眺めていた
ガラスの奥から差し込むLEDが目に痛い
チャームをカバンに付けてもうひとつの紙袋を開ける
アルファベットにイルカのデコレーションをあしらったアンティーク調のチャームだ
私のイニシャルだ
「バッカじゃないの」
中学生の修学旅行かよ
こんなチャームを20歳の男が買って20歳の女に渡すかよ
強く握りしめて大きく振り上げた手を落とす
バカみたい
私も彼もバカ
今まで使っていた財布にそのチャームを付けて違う財布に中身を全て入れ替えた
チャームの付いてない財布をカバンにしまって私はまた
ベッドに埋もれて今度は声を殺してまた泣いた
重い瞼に朝日を浴びて私は今日も好きな人の居るバイト先に向かった
書いていて少し気持ち悪くなりました。