繰り返す始業式
各階にある階段付近の見取り図を確認しながら進むと一年の教室は4階にあった。階を登るたびに学年が低くなっていた。若い分頑張れということなのだろうか、かなり疲れる。
「到着したようですね」
「ありがとう、田崎君」
お礼を言われ、加奈を先に教室に通す。
ガララと扉を開けると、影から突然誰かが現れた。
「おはよう!」
「ひゃっ、お、おはようございます!」
「あんた、かわいい声もだせるんだな」
「くっ」
鋭い眼光に睨まれる、しかし今のオレとしてはそれどころではなかった。
「と、ところで挨拶の主がぽかんとしているが?」
「失礼しました、わたしは金沢加奈と申します。改めて、おはようございます」
「ついでにオレは田崎翔。よろしく」
「いいえ!私こそ急に挨拶しちゃってごめんなさい。二人目の女の子だったから嬉しくって」
初対面だというのにフレンドリーに接してくる女子生徒。
彼女が続けて自己紹介をする。
「私は高崎春恋。こっちは幼馴染みのまーくん。よろしくね!」
「ばか、この年でまーくんは無いだろ。やめてくれ」
ばかって言うほうがバカなんだよ!等と言い争いが始まってしまった。
このひと際元気なのが、俺の初恋でありオレがここに存在している理由。
あの日から昨日まで、絶対に交わすことのできなかったあの懐かしいやりとりだったが、今そこの相手はオレじゃない。
「お二人とも仲がよろしいんですね、いつからの付き合いなのですか?」
「ば、ばっか!付き合ってねーよ!」
「保育園からだよー!親同士が仲良くってさ」
しかし、俺ってこんなにアホだったのか?それとも既に春恋を意識していたから春恋が絡むとアホになるのか......?
「そういう二人も息ぴったりだね!そっちも幼馴染みだったり?」
「いや、さっきクラス分けの掲示板の前であったばかりだ」
「えぇ!そうはみえないよ~!」
そりゃそうだ、オレは10年前から知っている。
「ふふふ、私たちいい友人になれそうね」
「とりあえず荷物を置きたい。席はどこで確認できるんだ?」
「黒板みりゃわかるぜ」
親指を立てて黒板を指している。
どうやら教室の右上の席から蛇行するように席順が決められているようでオレ達は丁度3人の班が組めそうだった。
「どうやら私だけ仲間外れのようですね。」
「中学と違って自由に飯食えるからいいんじゃないか?」
「そうだよ!一緒に食べればさみしくないよ!」
「ありがとう、是非ご一緒させていただくわね」
そうこうしているうちにチャイムが鳴りガララとドアが開き担任が現れる。
一通り今日のスケジュールを話したあと、自己紹介は後日するといい体育館へ向かうことになった。
途中までなんとかあくびを噛み殺していたが、校長先生のありがたいお話を聞き、在校生が校歌を斉唱するところまではおぼろげな記憶があるが気がつくと、担任の野太い起立の声と周りのガタっと勢いよく立ちあがった音でギリギリ起きることが出来た。
「最後に、滝と田崎は残るように」
帰りのHR、放課後を前にして担任からのラブコール。やはりというか、流石というか、俺も寝ていたようだ。
担任からのありがたいお言葉を賜り、教室を出ると高崎と金沢が残ってくれていた。
「悪かったな、二人とも」
「もう!入学初日から何やってんの!!」
「お前が起こしてくれないから怒られたんだよ」
「二人とも隣だったからゆすったけど二人とも全然起きないんだもん!」
「「そうなのか?」」
「ふふ、お二人はなんだか似た者同士ですね」
ドキッとした。これからはオレが俺を更生させてやらねばならないんだ。しっかりしなければ。
「昨日はちゃんと寝たの?」
「「ゲームしてた」」
寝られるわけがない。春恋ともう一度、1からやり直せるかもしれない。また春恋と逢えるかもしれない。ほんとうにオレにやり直せるのかなどと考え始めれば寝つける訳もなく、気がついたら朝だったのだ。
俺の方は、たしか高校の制服verの春恋が楽しみで寝れなくて気晴らしにゲームをしていたんだろう。
オレがいうから間違いない。
「ホントに仲良しだね」
「そうね」
二人にクスクス笑われたが、恥ずかしい気持ちより本当にここからやり直せるのだという安堵が勝った。
俺は少し不機嫌になっていたが。
ここは、ようやくスタートラインだ。今日は同じ過ちを繰り返してしまったが、多少の変化はあったはずだ。
ここから如何にして終業式の運命を変えるか。同じ結末になってはいけないと気を引き締め、一緒に笑いながら下校したのだった。
懐かしい幼馴染みの元気な姿を見ることが叶い、気が緩んでしまった翔。
改めて俺を導くために今やれることを地道に模索していくが......。
次回、『バカとテストと神の謎』