知らないオレと知ってる彼女
少しずつ意識が覚醒していく。朝の陽ざしがまぶしい。
重い瞼をゆっくりと開ける。
「ここは......」
ぼんやりとした視界にはまず、見慣れない天井。
ハッとして、日付を確認できるものを探す。幸い壁にカレンダーがかけられていた。
2008年3月。本当に過去に?ご丁寧に高校入学前に飛ばしてくれたらしい。
一応、外に出てテレビや近所のコンビニの新聞を見たが、全て2008年3月。
ドッキリでもなんでもないようだ。
「神様っているんだな」
そう結論付けるしかなかった。呆れ半分動揺半分に、身の回りの状況確認が始まった。
まず顔を洗おうとした時、そこには見覚えのない顔があった。
スゥっと、顔の血の気が引いていくのを感じる。
「まさか!」
急いで身の回りの物を確認する。まずは郵便物からだ、オレの名前はどうやら田崎翔と言うらしい(そんな奴は記憶にない)、俺の名前は滝雅也のはずなのだが。
携帯には祖父母と思しき連絡先のみで、入学を前にし不安になり声が聴きたくなったと連絡を取りそれとなく色々探ってみた。
両親は他界、高校入学を機に祖父母の家を出て一人暮らしをし、お金は両親の遺したものから使っているようだ。
入学までに2、3日あったので、家の所在と周辺を散策することにした。
早速気づいたことが一つ。
「ここ、学校からめちゃくちゃ近いんだな」
よくよく考えれば当然だが、一人暮らしをするに当たって家を選ぶときに学校から近い場所に決めていたようで徒歩10分かからないような場所に我が家はあった。
そうして一通り思いついた現状の確認を終えたオレは、問題を一つ抱えていた。
「高校の勉強ってなにしてたっけ」
まぁ、学校が始まれば教材が配られるだろうと腹をくくり、当日に向けて準備していた。
入学式当日
心なしか体が軽いような気がした。制服やローファーの慣れないサイズに戸惑いながらも登校する。
在校生が先に待機し出迎えてくれるため、新入生は在校生より少し遅くに登校しなければならない。そうして教室に一度集合し、全員で体育館へ向かう。
校門に到着して気づいたが、ここで一つ問題がある。クラス分けだ。
恐らくオレは俺の恋をサポートをするのだろうが、少なくとも俺はオレのことを覚えていない。さらに、百歩譲って仮に今年3人とも同じクラスでも来年もそうなるとは限らない。
校門が見えてくると他の新入生もちらほらと確認でき、どこか初々しい。そんな新入生に混じり、およそ他の人とは違うドキドキを味わいながら靴を履き替えた先にある大きな掲示板を確認する。
1-A...............高崎春恋、滝雅也、田崎翔、.....
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1-D..............................................
良かった、取りあえず同じクラスのようだ。
しかも、名前が順になっているから席も近いかもしれない。
「とりあえず教室に向かうか」
「あら、貴方もしかしてA組?」
ふと声をかけられた、振り返ると美少女が居た。
「かっ、」
「?」
「あっ、えっとどうしてA組だって分かったんだ?」
あぶねぇ!名前で呼ぶところだった!
「その前に、初めまして、私は金沢加奈。よろしくね」
ぺこりと礼儀正しく15度の会釈をする。それにあわせて肩より長い綺麗な黒髪がふわりと揺れ、なんとなくいい匂いがする。
「聞こえてなかった?」
「あぁ、悪い。初めまして、俺は田崎翔。改めて、なんでAだって分かったんだ?」
「だって、貴方が感動した眼差しでA組の欄を食い入るように見ていたんですもの」
フフッと上品に笑うその姿はまさに10年前女友達であった加奈だった。
「では、一緒に行きますか?田崎君」
高校時代の女友達の加奈と再会し、無事入学を果たす翔。
ついに『あの日の告白』をやり直すための長いようで短い学園生活がスタートする。
次回、『繰り返す始業式』