Love or Like?
私はてっきり、5人で夜空を見上げることになると思っていた。
そのことを加奈ちゃんに聞いてみると、真夏ちゃんに頼まれて翔君と二人きりにしたのだそう。しかも、それは雅也君も知っていたみたい。
それなら私にだって言ってくれればいいのに、少し仲間外れにされたようで悲しいな。
「二人は今頃何をしてるのかな」
「春恋、貴女それ本気で言ってるの?」
「「え?」」
「......もしかして雅也君も気づいていないの? 真夏ちゃんはね、翔君のことが好きなのよ。
「「そうなの(か)!?」」
「二人とも鈍いわね、もし真夏ちゃんが帰ってきて落ち込んでいても深く突っ込んじゃダメよ」
そ、そうなんだー......。真夏ちゃんって翔君のこと好きだったんだ~。
私、自分のことでいっぱいで全然気づかなかったよ。加奈ちゃんや雅也君、翔君にも好きな人が居たりするのかな?
私はどうなんだろう......。っていうか『好き』ってなんだろう、友達の好きと何が違うんだろう。とても気になる。そして今、少なくとも私より『好き』を知ってそうな人が一人、ここにいる。
「ごめん!雅也君、ちょっと向こうに行っててくれない? どーーーしても今、加奈ちゃんと二人でお話したいことがあるの!」
「え、まぁいいけどよ。あっちで星観てるから、終わったら呼んでくれよ」
「もちろんだよ、ありがとう!」
周囲が暗いことも手伝って、雅也君がどんどん見えなくなる。完全に見えなくなってから、加奈ちゃんの方を向いて勇気を出して聞いてみる。
「ねぇ、加奈ちゃん。加奈ちゃんは好きな人って居るの?」
「居るわよ、今はまだ片思いだけどね」
「『好き』ってどんな気持ちなの?」
「そうね、他の人はどうか知らないから参考になるか分からないけれど......。私は、ふと気がつくとその人のことを考えてしまうの、今何しているんだろうとか、どんなことを考えてるんだろうとか。私のことを考えてくれてたりするのかな、今日の私は彼の目にどんな風に写っているのかな、変じゃないかな、普通に接しているのかな、なんて考えてしまうの」
「ほぇ~、それにしても加奈ちゃんでも告白できない人がいるんだね」
「その人はね、私じゃない別の好きな女の子が居るみたいなの。だから私はゆっくり時間をかけて彼を振り向かせるのよ」
「すごいなぁ~色々考えてるんだね!」
「えぇ、絶対に振り向かせてみせるわ」
自身を持ってにこりと微笑む加奈ちゃんは、いつも学校で見せるものとは違う雰囲気を醸し出していた。
これが大人の色気というやつなのだろうか。私にはまだまだ『好き』がよくわからないや。
「私もいつか好きな人ができるのかな」
「きっと出来るわ、あなたが選ぶのだからさぞいい男なのでしょうね」
「あはは、ありがとね!悪い人にだけは引っかからないように気をつける!」
「ふふふ、大事なことね。あとは、私みたいに好きな人が出来るなんて手遅れなことにならないようにね」
そうして二人で笑いながら、雅也君を呼び戻した。
どんな気持ちなのか聞いただけじゃイマイチよくわからないや。
加奈ちゃんや真夏ちゃんみたいに、私もはやく『好き』が見つかるといいなぁ。
天体観測終了後のバスの中はとても静かで、みんな顔を逸らしたり、目を閉じたり、逆に一人を見つめていたり。
こういうのをなんて言うんだっけな、加奈ちゃんみたいに頭がよかったらわかるんだろうけどな。
バスから戻ったオレは、何か俺に聞きたいことがあったはずだったが、なんだったか忘れてしまった。真夏の突然の告白ですっかり気が動転してしまい、それまで考えていたことが吹き飛んだのだ。
決して彼女のせいではないのだ、全てメモとかしていなかったオレが悪い、それは間違いない。
ただ、何か大事なことのような気がしてならない。思い出せない自分が歯がゆい、ドキドキしている場合ではなかった。あの時の自分を殴りたい......。
そんな気持ちを抱えたまま最終日を迎えたのだった。
「みんなおはよ~」
「よう、今日は遅かったな春恋」
「雅也君おはよ~、昨日なんでか寝つけなくてね~。あと二人とも朝起こしてくれなくって」
「起こしたわよ、でも春恋が先に行けっていうから置いてきたんじゃない」
「春ちゃん、もしかして覚えてないの?」
「うーーん。言ったような言ってないような」
「ったく、お前は昔から朝弱いよな、いつもなら早く起きて今頃目を覚ましてるのに。そういえば昨日も遅かったよな」
「枕が変わるとダメなのかも......」
「後で顔、ちゃんと洗ってこいよな」
「もー雅也君、おかーさんみたいなこと言って~」
目をこすりながら朝食に現れるた春恋、すこしまだ眠そうにしている。
今日は運動がメインなので、しっかり朝食を摂らねば不注意からケガをしてしまうかもしれない。
たしかこの状態の春恋は......。オレは必死に牛乳を持って女子三人に見えないよう俺にアピールする。
「はい、牛乳。お前朝眠い時はこれ飲んでたろ」
「わー、雅也君覚えてたの~? ありがとね~」
ナイスだ俺! よく気がついた! 傍から見たらオレは相当ヤバイ奴に見えていただろうが知ったことではない、俺の好感度を上げる為ならなんだってしてやる!!
「いや、翔が牛乳持って遊んでるのを見て思い出したんだ」
「そうなんだ~翔君もありがとね~」
バカかこいつは! なんでそんなところだけは素直に言うんだよ! ヤル気あんのかテメェ!
オレはなんとなく、俺が振られた理由の一端を垣間見た気がした。
ちょっと短いですが、キリがいいのでここまで