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あの日の告白をもう一度  作者: 提灯鮟鱇
第1章 俺とオレ
14/17

ずっと、ずっと待ってます

今まで投稿した分をもう少し丁寧に描写するため22時半過ぎの投稿が多くなるかもしれません。

 宿舎に帰ったら自由時間の後夕食を取り、A組は要山に戻り天体観測をすることになっている。

 みんな歩き疲れていて話す元気はないようだ。春恋も眠いからと窓際の席に移動して目を閉じていた。

 帰りのバスに揺られながらどんなふうにして春恋と(まさや)をくっつけるか考えていた。


「なぁ、加奈。オレに命令するときは事前に言ってくれよな、オレにだって考えていることがあるんだ、邪魔されたり台無しになったらたまんないよ」

「大丈夫よ、きちんと言っておくわ。ところで自由時間になったら話があるから今朝のあの場所まで来ること」

「早速かよ、わかった」


 しぶしぶ答えるがこれを待っていた、もしこれでオレが加奈に連れ回されることになれば少なくとも3人にはできる。真夏もこっそり誘えば2人きりになるだろう。

 あの場所とい,うのは、恐らく女子達が密会していた場所のこと、あの場所を先に抑えておくことで密会をやりにくくする目的もあるかもしれない。加奈ならそこまで考えていてもおかしくはない。

 宿舎に到着し自由時間となり一度解散する。入ってすぐそばにあった給水所で喉を潤しあの場所へ向かう。

 そこには誰もいなかったが、しばらく待っていると人影が現れた。


「よう、遅かったな」

「あなたこそ、これから命令されるというのに随分早い到着じゃない。もしかしてそういう趣味でもあるの? 高校生になりたてなのに罪深いわね」

「違うわ!それで、どんな冗談が言いたくてオレを呼んだんじゃないんだろう?」

「そうね、じゃあ一つお願いをするわ。そんなに難しくない話よ、今夜の天体観測なのだけれど。貴方に春恋と真夏ちゃんを連れて3人で見て欲しいの」

「わかった......は?」

「今分かったと言ったわね、ではよろしく」

「いや、ちょっと待て! お前とオレで行くんじゃないのか!?」

「いつ誰がそんなこと言ったのよ、もしかして貴方私のこと好きなの?」

「いや、だってそれならあの時オレじゃなきゃダメだって」

「それは、貴方から春恋に何かしら思う気持ちを感じるからよ。私が雅也君と、貴方は春恋と真夏ちゃん……。いいじゃない、両手に花で」

「いや、オレは別にあいつの事なんか!」

「本当に? 私にはそうは見えないわね、まだ意識していないだけで本当は好きなのではなくて?」

「オレは、好きじゃねぇよ。......二度と言わせんな」

「ならせめてそこにいる真夏ちゃんを連れて二人でどこかへ行きなさい。私達は最悪三人でもいいわ」


「えぇ!?」


 突然加奈の指を指す方から驚きの声が上がったかと思うと、声がした方向から真夏ちゃんが木陰から出てきた。


「ま、真夏ちゃん! どうしてここに」

「す、すみません。どうしても加奈ちゃんの翔君への命令が気になってしまって」

「ちょうどいいじゃない、二人で見に行くこと。それが命令よ、いいわね」

「なんでそうなるんだ」

「翔君、私とじゃあ、命令でも嫌ですか......?」

「あ、嫌ってわけじゃないが」

「なら成立ね。よろしく頼むわ」


 ここまで計算尽くだったのか、あっという間に話を纏められてしまった。反論しようにも真夏ちゃんの目の前で強く出れない上に向こうから妥協案を提案してきた。完全に手を封じられた上での『命令』の行使だった。

 しぶしぶ部屋に帰ると、(まさや)がいつでも出れる準備をして待機していた。

 そうだ、オレも準備をしなくてはと身支度を整えていると(まさや)から声を掛けてきた。


「なぁ、加奈と何を話してたんだ?」

「あぁ、それなんだがな命令じゃなかったよ。加奈が5人で天体観測なんてうっとおしいから3:2で分かれようって提案してきてさ、オレと真夏ちゃん、加奈春恋と雅也で分かれたいって話だな」

「ふぅん、俺は別に3人でも5人でも変わらねぇ気がするがな、あの加奈がそこまで言うなら5人だとなにか不都合があるんだろうな」

「ま、いくら考えても天才の言う事なんて理解できやしないさ」

「ははっ、間違いねぇ」


 完全に口から出まかせだったが、提案してきたのは加奈という点と内訳については嘘はいってない。不都合はないだろう、なにか設定があるのなら加奈から指示があったはずだしな。

 命令だなんて言って掘り下げられても面倒だろうし。

 時間になり、バスに乗り込み移動する。バスの中では一人一つに天体観測セットを配られ、中には双眼鏡や星座早見表、ライトなどが入っていた。双眼鏡は貸出のもので一つでとんでもない値段がするらしく、とてもしつこく注意された。

 また、簡易的な天体観測の講義も行われ、注意点や今の季節に見て欲しい天体、気になった星座があれば探してみるように勧められた。

 到着して時間内に戻ってくるように言われ解散した。

 昼間に来た時に町の眺めが良かっただけあって、家や町の灯かりで一段とキレイな夜景となっていた。


「うわー! 翔君見て見て! とってもキレイだね」

「あぁ、そうだな」


 降車してすぐに三人とは別れ真夏と二人きりで歩きながらよさそうなポイントを探すが、次第に口数が少なくなってくる。


「やっぱり、私なんかとじゃ嫌だよね......」

「そ、そんなことないぞ!ただ、向こうが気になってただけだ」

「ほんとう?」


 上目遣いで聞いてくる真夏、夜で明かりがライトだけなのでその小動物のような表情がハッキリと見えないのが幸いだった。


「そんなことより、真夏は何か見たい星はあるのか?」

「私は、星はあんまり詳しくないんだけど。月を見て観ようと思ってるの」

「月? 星じゃなくてか?」

「一応月も星の仲間だと思うけど、それは置いておくね。私の苗字って美空じゃない? 美しい空。だから小さい頃から空を見るのが好きだったんだけど、夜に一際大きく光るお月様がなんだかキレイで好きだったの」

「夜なら星もあったんじゃないのか?」

「あはは、そうなんだけどね。私の家空気があんまり綺麗じゃないかったのか、星があんまり見えなくって。ここみたいによく見えてたら違ったのかな」

「違わないさ」

「え?」

「多分だけど、美空ならここみたいに綺麗に星が見える場所で育ったとしてもあのでっかい月が好きになったと思うよ」

「それは、どうして?」

「美空は心の中では自分の気が小さいことを悩んでただろ? 今でこそ一歩ずつ前進しようと頑張っているが、昔はなんとかしようとする気持ちがあるだけだった。だから心のどこかでさ、この広い夜空で大きな存在感を放つ月に憧れのようなものがあったんじゃないかと思う」

「確かに、今翔君に言われてみてそうかもって思っちゃった」

「だろ?」

「でも、今の私には翔君しか見えないよ」

「え?」

「い、いや! 今の無しで! 私今ワケ分かんないこと言っちゃったね! ごめんね」

「真夏......」


 間違いない、彼女はオレに......。このままオレは気づかないフリをして、彼女の好意に甘えてしまってもいいのだろうか。

 ......いや、良いはずがない。オレが求めていたことはそんなことではない。オレだけが(まさや)より先にいい思いをする訳にはいかない。あくまでオレ自身のことは二の次なのだ、オレは(まさや)の為に存在しているのだから。


「すまない、真夏。オレは」

「いいんです! 好きな人が居ても構いません! でも、翔君のことを好きでいさせてください」

「真夏......」

「急にこんなこと言ってすみません、迷惑ですよね。私」

「迷惑だなんて、そんなことはない。あとオレに好きな人は居ないからな、ただ今は少しタイミングが悪いだけだ。オレは今やるべきことがあって、そのやるべきことが終わったらきちんと真夏と向き合おう。約束だ」

「ほ、ほんとうですか?」

「あぁ、だからその時まで待っててくれないか」

「ま、待ちます! いつまでも......ずっと、ずっと待ってます!」


 こうしてまた一つ約束が増え、オレがなんとしても(まさや)と春恋を恋人同士にしなけばならない理由も増えたのだった。

 次回、『love or Like?』


 『好き』を知らない少女が『好き』に興味を持ち始め、物語はゆっくりと歯車を回し始める。

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