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あの日の告白をもう一度  作者: 提灯鮟鱇
第1章 俺とオレ
12/17

不安と焦燥

 宿泊研修も2日目がやってきた。

 朝の6時に起床し、朝食が7時半からなのでまだ時間はたっぷりある、少し散歩に外へ出ることにしよう。

 やはり朝は冷たい風が心地よく空気もおいしかった。ちなみに(まさや)はまだ寝ている、一応起こそうとしたが全く起きる気配がなかったために置いておいてきた。


「おはよう、翔君は朝早いんだね」


 後ろから声を掛けられ振り向くと加奈がいた。


「あぁ、なんだか目が覚めちまってな。加奈こそ朝早いじゃないか」

「私は昨日寝つけなくてね。雅也君は一緒じゃないの?」

「あいつはまだ眠いらしい」

「じゃあ二人きりね」


 うふふと冗談めかして軽く微笑む彼女を見ていると目が覚めてくるようだった。


「加奈も散歩か?」

「散歩......なのかしら」

「なんだよそれ」

「いいじゃない、それより一緒に行きましょう。二人で遊ぶのはあまりないからね」

「確かにそうだな、誰か少なくとも3人はいつも一緒だったよな」

「じゃあ、エスコートしていただけますか。翔君」


 それは入学式で初めて出会った時を彷彿とさせるセリフだった。

 ただあの時と違ったのは、加奈が手を引けと言わんばかりに差し出していることだ。


「ああ、任せろ。お嬢様」


 つい、そんなことを口走ってしまい手を取り歩き出す。すこし恥ずかしかったが、きっと加奈は何とも思っていないのだろう。

 勢いで手を握ってしまったが、特段この施設に詳しいというわけでもない。なんせ十数年前に一度行ったきりなのだから。

 とりあえず敷地をぐるりと回ることにするかと思い敷地の周りを散策していた。

 すると、宿舎の裏手から女子の話声が聞こえてきた。驚いた拍子に手を放してしまう。


「......あいつマジでムカつくんですけど」

「それな、チョーシ乗ってるよね。ちょっとシメる?」

「いやー流石にまずいっしょ、あいつ......名前忘れたけどなんかヤバそうな女いたし」

「まー確かにねー。でもやりようはあると思うんだよ」


 具体的な内容は分からないが、あまり楽しそうな会話ではないのは分かる。

 じっと聞きこんでいると、加奈を握っていた手がするりとほどかれる。


「貴方達、そこで何をしているの!」

「げっ」

「噂をすれば......」


 加奈に言われて走り去っていく彼女ら。噂をすればと言っていたが、やはりそういうことなのか。


「おい、加奈。あいつらのこと知ってるか」

「いえ、知らないわ。ただ、B組の生徒で見覚えがあるかもしれないわね」


 本当に凄い奴だ、よく見ている。

 (まさや)なんて3年通っていたのに名前はおろか、どのクラスかさえ分からなかった。流石に興味も交流もない生徒となるとそんなものなのだろう。


「なにやら穏やかじゃない会話だったな、これからはちょっと警戒したほうがいいかもしれないな」


 宿舎に戻ると春恋達がオレ達を探しまわっていた。どこかに行ってしまったのではないかと心配になったらしい。三人に謝りつつ部屋に戻り朝食の時間を待った。


「ねえ、さっきは聞きそびれちゃったんだけど、朝二人でなにしてたの?」

「えぇっとだな......」


 予想はしていたし回答も用意していたが、手を繋いでいたという後ろめたさから二人(しかも片方は好きだった人)に問い詰められ答えに窮する。


「お散歩をしていたのよ、偶然外で会ってね貴方達と雅也君が寝ていたからお互い暇を持て余してしまったのよ」

「ふーん、いいなぁ。私も散歩したい!」

「春ちゃん!?」

「みんなで!」


 だよねと、ほっとする真夏。一体なんだと思ったのかは聞いてやるまい。

 そうして手を繋いだ件とあの女子二人の会話を伏せたまま話題は移っていき、朝食を終える。

 今日は(かなめ)山という少し標高の低い山でウォークラリーをするとのことなので外でバスに乗り、目的の場所へ向かう。ちなみに先生達は早朝から山へ行き、準備をしてきたらしい。

 現地では班ごとに行動し、指定されたポイントでクイズに参加し時間内にスタンプを集める。そのスタンプをクラスごとに集計し、一番ポイントの大きかったクラスは褒賞があるらしい。

 ちなみにオレは何か知っているが、言うわけにいかないので黙っておく。

 目的地に到着すると、みんなの気持ちを代弁するかのように春恋が口を開く。


「今回も加奈ちゃんがいれば楽勝だよねー!期待してるよ!」

「でも私がやるとみんながつまらないじゃない、本当に答えに詰まったら助けてあげるわ」

「そんなぁ~、加奈ちゃぁ~ん」


 元気溌剌(はつらつ)な声が一転、泣きそうな声になる。つられて真夏が不安そうな顔になる。

 そこで(まさや)が意外なことを言う。


「加奈が積極的じゃないのは残念だけどさ、いつも加奈におんぶに抱っこじゃいけないと思わないか? 俺達でもなんとかやれるってところを加奈にも見せてやろうぜ!」

「どうした、朝はあんなに眠そうだったのに、いつになくやる気だな」

「たまにはオレだって何か力になりたくてよ、最近なんとなくだけどこのままじゃいけないって思うようになったんだ。特にお前を見てると......な」

「そうか、いい心がけじゃないか」

「うっせぇ」


 顔を逸らしながら小さく毒づく(まさや)だが、恥ずかしさの裏返しであることはオレの目には明らかだった。

 (まさや)も何かこのままではマズイということが深層心理では気づいているようで変わり始めたのかもしれない。良い兆候なんじゃないだろうか。


 ということで、実質4人での協力プレイとなりウォークラリーがスタートした。

 スタート前に各班に配られた封筒の中にあるコース図に従ってチェックポイントを回っていくのだが、クイズが分からなそうであればスルーしてしまうのもアリだ。

 コースの最初には水のマークがしてあった、なにか水に関係する場所なのだろうか?

 開始して10分程度歩いたところでようやく進展があった。


「最初のチェックポイントはあれか?」


 オレが指を指してみる。どうやらそうらしい。教員と思しき人が立っており、給水所もあった。


「みなさん、まずはお疲れ様です。しっかり水分を補給してくださいね」

「はい、ありがとうございます。ところでクイズを聞きたいんですけど」

「わかりました、水分を摂りながらで結構ですので聞いてくださいね、給水所にちなんだ問題です。日本のマラソン大会では、基本的に給水所は5キロ間隔に設置されているのが一般的ですが。給水所に水分以外の飲食物を持ち込んでもよい。マルかバツか!ちなみに間違えたらペナルティとして10分の休憩をしてもらうよ」

「誰か知ってる~?」


 春恋が聞いてみるが知っていれば加奈以外は回答しているはずなので返事はない。

 先生、ヒントはありますか?と真夏が聞いてみる。


「あれ、封筒の中にヒントカードが三枚なかったかい?それを担当の人、今回はボクに渡してヒントをもらう事ができるんだ」

「あ、じゃあ......」

「ま、待て真夏!」

「え?」

「このクイズは二択だ、安易に貴重なヒントを貰ってはいけない。最悪10分経てば必ず進めるんだからここは適当にでもどちらかを答えた方がいいと思う」

「な、なるほど......やっぱり翔君って頭良いんだね」

「何言ってんだ、こないだのテスト悪かったの知ってるだろ」

「そういう意味じゃないよ」

「おふたりさん、お邪魔するのは心苦しいけどそろそろ答えを聞かせてもらっていいかな」

「じゃあ、正解は......」


 なんとなくだが、マルのような気がしたので答えると無事に正解したようだった。

 ほぼ同時に(まさや)もマルだと答え理由はなんとなくとのこと、やっぱり(まさや)もオレなんだなと改めて実感させられる。


「よーし、この後もこの調子でどんどんクリアしていくぞ~!」

「「「お~!」」」


 こうしてオレ達のウォークラリーが本格スタートしたのだった。

 真夏ちゃん逃げて!超逃げて!って言っても誰かに相談しようものなら確実に病院送りだった翔君に相談できそうな相手ができましたね。

 しかも加奈ちゃんは頭も切れるし運動神経も抜群らしいので頼りになりますね!勝ったなガハハ!


 次回、『代償と対価と得る未来』

 

 代償ってまさか、神様のアレのことではないよね......?

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