やっぱり馬鹿な人達
「慎也...鎌倉幕府の成立は1185年よ?これくらい小学生でも分かるわよ?歴史は出来るんじゃなかったの?」
授業が始まるまでの間、俺は水谷の授業を受けていた。
「おい、勘違いするなよ。俺は興味があるって言ったんだ。出来るなんて一言も言ってないぞ。」
勉強が嫌いな俺に出来る教科なんて1つもない。小学校から今まで勉強にだけは触れてこなかったんだ。そんな俺にいきなり年号を当てる事なんて出来るわけない。
「慎也がここまで勉強が出来ないだなんて思っていなかったわ。これは小学生レベルから始めた方がいいかもしれないわね。」
水谷は呆れたように言う。なんか申し訳なくなってきた。こんな馬鹿の為に時間を割くなんて間違っている。水谷に迷惑はかけられない。
「なぁ、やっぱり勉強教えなくていいよ。水谷も大変だと思うし、それに迷惑はかけたくないんだ。」
俺の気持ちを伝えると、水谷は優しく言った。
「私、約束は守るタイプなの。
「えっ、」
水谷は続ける。
「それに、迷惑だなんて思ってないわ。私は慎也を頼ってるから貴方も私を頼って?」
そうか、この人も、本気で人を信頼しているんだ。凄い人だ。まだ会って2日なのに人を信頼出来るんだ。それに比べて俺は...。
その時、水谷が言った。
「それじゃあ、気分転換にどこかへ食べに行かない?私が奢るわよ。」
俺は今の状況を冷静に考えていた。顔もいい、頭もいい、家柄もいい完璧な美少女と二人でファミレスに来ている。これってデートなんじゃないか?こんな展開ラブコメだけだと思っていたが、これが現実だ。俺は夢を見ているのかもしれない。それとも明日死ぬのかもしれない。そのくらい俺とは不釣り合いな人だ。
「慎也もしかして私みたいな美少女とご飯に行けて興奮してる?確かに貴方、交際経験とか無さそうな顔してるし、図星だった?」
「ず、図星じゃねーし!彼女位いた事あるし!」
俺は見栄を張っていると店員さんがやって来た。
「ご注文を伺いします。」
おぉ、この人もかなり美人だなー。って何を考えているんだ、俺は。とりあえず、適当にドリンクバーとマルゲリータピザを頼んだ。そういえば水谷は何を食べるのだろうか?そもそも、こんな庶民的なご飯食べるのだろうか?俺がそう考えていると水谷は意味の分からない事を言い出した。
「それじゃあ、貴方がこの私に相応しいと思う物を持ってきなさい。」
「は...はぁ...。」
なるほど。常識が無いというのはこういう事か。と、いうかこれは...。
まだ何か言いたげな水谷の口を塞ぎ俺は言った。
「コイツは俺と同じので大丈夫です。」
「かしこまりました。」
店員さんが去った後、俺は水谷に言う。
「水谷、馬鹿だろ。」
俺がそう言うと水谷は顔を真っ赤にして言う。
「慎也に言われたく無いっ!私が何かしたって言うの?!」
なるほど、やっぱりコイツも俺と同じくらい馬鹿なんだ。
「つまり、店員さんに何を食べたいか聞かれたら自分が食べたい料理の名前を言うんだ。そして、店員さんを困らせるような事は言わないんだ。分かったか?」
俺が水谷にそう言うとどこか不満そうに言う。
「困らせるような事って具体的には何?」
「もう水谷は食べたい物以外に何も言うな。」
俺は早速、水谷に普通の注文の仕方を教えていた。自分が言うのもおかしな話だが、水谷はただ周りとズレているなんてレベルの話じゃ無いんだと知った。一人じゃ人間生活が出来ないレベルだった。
「逆に、今までどうやって生きてきたんだ?」
俺の質問に水谷は俺の質問に答える。
「私には召使いがいるの。身の回りのことは全部その人がやってくれるの。」
つまり生まれてきてからここまで何でも人にやらせてるからこうなったのか。お嬢様も大変なんだな。
しばらくして、俺達のもとに二つのピザが運ばれてきた。水谷は手慣れた手付きでフォークを使いピザを食べた。一切無駄のない動きに俺は思わず関心していた。
「常識は無いのに、ピザはフォークで食べれるんだな。俺なんか手で食べるよ。」
水谷は不思議そうに答える。
「こんなの物心が付いた時には出来てたわ。手で食べる人は育ちの悪い人間だけよ。」
店内のピザを手で食べている人が一斉にこちらを睨みつけた。視線が痛い。ここで話すとキリが無いので後で教える事にした。
「俺飲み物取ってくるから。」
席を立ち、ジュースを取りに向かう。ジュースをコップに注ぎ込む。席に戻ろうとした時、知らない人影が見えた。しかも数人。よく見ると、それはチンピラヤンキーだった。何でこんな時間に外にいるんだよ。なりきってるだけか?そのなりきりヤンキーはご立腹の様だ。
「おいテメェ?今何て言ったんだ?もう一回言ってみろ?」
「貴方達の様な皆が守れるルールを守らない非行少年が何の様なの?と言ったのよ。」
よくお前が言えたな、と今までファミレスにいたすべての人が思った事だろう。特大のブーメランが水谷に刺さった瞬間だった。
「テメェ舐めてんじゃねーぞ!」
突然、なりきりヤンキーの先頭の一人が水谷に殴りかかった!
「あっ危ない!」
俺の叫びも水谷には届かなかった。このままじゃ水谷が!...あ?
俺の前に人が倒れた。それは今まさに殴りかかろうとしていたヤンキーだった。そいつは唸り声を上げたまま動かない。とても苦しんでいる様に見える。
「あら?この程度で殴りかかって来るなんてやっぱり貴方達馬鹿だわ。」
どういう事だ?あの水谷がヤンキーと戦えるとはとても...
「クソ!お前ズルいぞ!男の急所を何の躊躇も無く蹴るなんて!」
そういう事でしたか。お気の毒に。
「お、覚えてろよー!」
ヤンキーは倒れた人を抱えて逃げていった。静かになる店内。少しして歓声が上がった。
「よくやった!」
「あんなにカワイイ子がヤンキーを追い払うなんて!」
「これにこりてもうアイツ等もこの店には来ないだろ!」
あちらこちらで水谷を褒め称える声で溢れた。本人はやってやったと言わんばかりの顔をしている。すると、さっき注文を聞きに来た店員さんがやって来た。
「本当にありがとうございます!あの人達、最近店に来ては悪さばかりして困ってたんです。でもあなたのおかけでしばらくは来なくなると思います!」
「いえいえ、人として当たり前の事をしただけですよ。」
人として生活出来るようになってからそういう事を言ってくれ。
その後、水谷は今日1日食べ放題と言われたので、食べまくってお腹がいっぱいになるまで食べていた。帰るときも称賛の声は止まなかった。
ファミレスからの帰り道。水谷はお腹いっぱい食べれて満足した顔をしていた。ただの常識無しだと思っていたけど、意外にカッコいいところがあると知った。その気持ちが思わず声に出てしまった。
「水谷って、カッコいいところあるんだな。」
水谷は驚いてこちらを見た。その顔はほんのりと赤く染まっている。
「普通ヤンキーに喧嘩売るような事やらないけど、相手が誰でも怯まずに立ち向かう姿がカッコよかった...って何言ってるんだろうな。ゴメンな。気にしないでくれ。」
ついつい恥ずかしい事まで言ってしまった。こんなキモい事言って嫌われてないだろうか?でも、俺の想像とは違った答えが来た。
「嬉しい...。ありがとう。誰かに褒められたの慎也が初めてだわ。」
「あっ、ああ...」
思わず動揺してしまった。水谷の少し恥じらう顔が、少し可愛かったから...。
「あっ。」
突然水谷が声を上げる。
「どうした?急にそんな声出して?」
「授業の時間もう終わってる。」
「はあぁぁぁぁ?!」
その後、俺と水谷は宮崎先生にこっぴどく叱られた。
次の日学校に行く通学路。いつもみたいに天野と一緒に学校に行ってると、天野が例の話を始めた。
「それでさ、慎也。例の翼君の事何だけど...。」
「あぁ...それで?何をすればいいんだ?」
昨日の思い出したくない黒歴史を引きずってる身としては早く話を終わらせたい。天野の要求はシンプルだった。
「私と翼君の仲を取り持って欲しいんだ!」
そんなものでいいのかと思ったが、早く話を終わらせたいので了承した。この話を続けると古傷が痛むので話を変えた。
そんなこんなで学校に付いた時、前から一人の見覚えのある人が歩いてきた。
「ようっ、慎也に梨衣。ちょうどお前たちに聞きたい事があったんだよ。」
ん?珍しいな。あいつから俺達に聞きたいことなんてなかなかないからな。疑問に思っている俺をよそに翼は衝撃の質問をぶつけてきた。
「お前ら二人って付き合ってるのか?」
「は?!」
隣の天野が明らかに動揺しているのがよく分かった。
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