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女に惑わされるバカ

 次の日。学校に向かっていると、後ろから突然背中を叩かれた。

 「よっ!慎也おはよ!」

幼馴染の天野だ。俺達は毎日二人で学校へ登校している。友達からはよく冷やかされるが、小学生の時も中学生の時も二人で登校していたので今更何も感じなくなっていた。もちろん、この状況は普通では無い事は分かっている。でも、なぜかそういった男女の関係に発展しそうな気配は感じないんだ。あまりにも長い時間二人でいたからそれが俺達にとっての普通になったのだ。

 今日も、すっかり馴染んだ道を通り学校へ向かう。たまに同じ学校の生徒とすれ違うとヒソヒソと話し声が聞こえる。 

 「...あの子かわいくね?」

 「アレ彼氏かな?つり合って無いよねー。」

 「冴えない彼氏ってカンジー。」

 ほっとけ。別に俺は天野の事は何も思っていないんだ。何を言われても...。

 「あ、あのさ!慎也に話があるんだ!」

 ...え?どうしよう、急にそんな事言われても困るんですけど。梨衣は顔をほんのり赤く染めて話す。

 「実はね...私...。」

 「ちょっとタンマ!こっちにも心の準備が!」

 これ絶対告白だよ!よく恋愛系のマンガとかラノベにあるやつだ!ま、まあ?俺達は付き合いも長いし?俺だって別に天野の事は嫌いでは無いし?どうしてもお付き合いしたいならいいけど?そう考えていたらなんか照れくさいな...。

 「あっ、ごめんね?そうだよね。急に言われても困るよね。じゃあ、また昼休みに体育館裏に来てね。...忘れないでよ?」

 体育館の裏!!!

 やっぱり間違いない。天野は俺の事が好きみたいだ。ようやく俺も二次元じゃない三次元の彼女ができるんだな!俺の男友達は皆彼女いるからな。俺だけ出会いが無いのがおかしかったんだ。でも、これでようやくあいつらの自慢に悔しい思いをしなくて済むんだ!

俺の隣にいる天野は男子にメチャクチャモテる。明るくていつも元気、おまけに超カワイイ。俺なんかには勿体ない高嶺の花だ。でも、そんな天野が俺と付き合いたいなんて言い出すなんてな!

 その日の午前の授業は全く集中出来なかった。早く時間が過ぎてほしいとこれほど思ったのは初めてだった。女という生物は残酷な生き物だ。こうして男を悶々とした気分にさせておいて、当の本人は普段と変わらない学校生活を送っている。俺だけこんな思いをしてるのずるい。

 そして、ようやく訪れた昼休み。俺は誰かに話しかけられる前に走って教室を出て体育館裏に行った。早く来たからもちろん誰もいなかった。ドキドキしながら天野が来るのを待った。

 

 「ごめんね、来るの遅れちゃって。待ったかな...?」

 「いや、俺も今来たところだから。」

 嘘だ。あれから俺は20分待った。あまりにも来ないからだんだんと天野に騙されたのではと思い始めていた。

 「それで、話って何かな?」

 「それでね...私...」

 ゴクリと生唾を飲む。

 「私!翼君の事が好きなの!」

 ...は?翼?

 翼とは俺の男友達のグループの中心にいる人だ。フルネームは、希島翼希島翼(きじまつばさ)。俺も翼と仲良くしている。

 「あ、あぁ...。そうか。アイツはモテるから敵は多いぞ。多分。俺もきょうりょくスルカラガンバレヨ。」

 「なんかだんだんカタゴトになってない?」



 結局、具体的に何をするかの話は後日するという事になった。それからの事はよく覚えていない。ただ覚えているのは自分が死にたくなる位の恥ずかしい勘違いをしていた事だった。気がつくと、俺の前には翼が話しかけていた。

 「おい、慎也。もう授業終わったぞー。いつまでも死んだような顔してないで早く帰ろーぜ。」

 翼はどこか心配したような表情で話しかけてくる。

 「...あ、おう。つーか、部活は?」

 俺の質問に翼は、

 「今日は休みなんだ。顧問のセンセーが休みなんだとよ。」

 と、答える。

 「そーかそーか。じゃ、帰るかー。」

 俺はロッカーの中の教科書類を集めてリュックサックに詰める。今まで勉強なんてしてこなかった俺がどうしてこんな事をしているのかというと、水谷に約束通り勉強を教えてもらうからだ。こうして詰めると、改めて教科書が重く感じた。

 「あれ?お前が持ち帰るなんて、明日は槍でも降るのか?」

 俺の行動を見てか、翼がそう言う。確かに、今まで勉強とだけは無縁の世界に生きていたのだ。そんな奴が急にそんな事をしているなんてそれは驚くのも分かる。

 「俺、予備校に通い始めたんだよ。そこにあの水谷家の次女がいてな?そいつが勉強を教えてくれるって言うからとりあえず、使ってる教科書を持ち帰ろうと思ってな。」

 俺がそう言うと、翼は驚いたように目を開き話す。

 「あの水谷家の人にか?!そんな人がお前みたいな奴に勉強を教えてくれるのか?!」

 「なんだよ、その馬鹿にした言い方。」

 でも確かに、あんな高貴な人にとって、俺なんかただの一般市民だろう。常識なんか普通に誰でも出来るような事の為なら他にもいいはずなのに、何故?



 帰り道、天野の恋に協力すると言った事を思い出した。正直、そのまま一生忘れていたいと後悔したくなったが、約束は守らなくちゃいけない。 

 「なあ、お前って好きな女子とかいるのか?」

 俺は翼に聞いた。

 「は?どうした急に。お前もそういうのが気になりだしたか?」

 気になりだしたのは俺じゃないけどな。

 「いや、そううい訳では...。」

 流石に急に話を始めたのはまずかったかな?好きな人の話というのは誰が相手でもしずらいと思っている。やっぱりちゃんと計画を立ててから...。

 「いるぞ。一人だけ。」

 んん?今なんて言ったんだ?

 「お前、今なんて...?」

 「いるって言ったんだ。そっちから聞いておいてなんだよ。」

 まさか、こんなにもあっさり言うとは思わなかった。俺を信頼してるから?それともアイドルとか女優とかそういう有名人だから?こんなに簡単に言っていいものなのか?

 予想外の答えが返ってきたことによって何を言えばいいのかわからなくなってしまっまった。俺が言葉を詰まらせていると、翼は続けて言う。

 「でも、誰かはお前にも教えない。もしも付き合えたら、お前にも言ってやるよ。」

 翼は、笑顔で俺にそう言う。その笑顔が夕日に照らされて眩しいくらいに輝いた。その顔を見て思った。翼は、俺の事を心から信頼しているんだと。俺の勝手な考えなのかもしれない。ただ、そう思いたいだけなのかもしれない。なぜそう思ったのかもはっきりと分からない。でも、あの真っ直ぐで、どこにも嘘が見えない顔を見てそう思ってしまった。俺は、俺は...。

 本当に翼を心から信頼しているのだろうか。



 「良かった。ちゃんと来てくれて。来ないんじゃないかと思ったわ。」

 「約束は守るのが俺のポリシーだからな。」

 あの後、翼と別れ俺はそのままの足で予備校に向った。教室は一つ前の時間の授業が行われている。俺と水谷は、建物の奥にある自習室に入った。席に着くと、俺は今までずっと気になっていた事を聞く。

 「それで、具体的に何をすれば良いんだ?」

 そう、まだ何をすればいいのか分からないのだ。当たり前の事を教えるなんて逆に難しいのだ。ましては、誰かにものを教えた事が無い俺に出来るのか分からない。

 俺の質問に水谷は少し笑った顔で話す。

 「そうね。慎也はこの塾の時間の間ずっと私の隣にいてくれればいいわ。私が普通じゃ無い事をしたら教えてくれればいいわ。」

 へ?塾の時間ずっと?水谷の隣?

 「それと、慎也も知ってると思うけど、私の家は日本じゃ結構名が知られてる家みたいだから、慎也が何か私に失礼な事をしたらどうなるか、分かるわね?」

 やっぱりこれ引き受けたくない。このお嬢様の機嫌を損ねる事をした日には何をされるか検討がつかない。少なくとも、日本に住み続ける事は出来ないと考えていいかもしれない。今からでも遅くない。断るんだ。

 「あ...あの...やっぱり俺なんかじゃなくて、もっと適任がいるんじゃないかなーって思ったり...して...。」

 そう話す俺の口が止まる。水谷の顔には先程のような光が無くなっていた。期待が絶望に変わるような表情の変化だった。その目には、涙が浮かんでいる。

 「そんな...じゃあ昨日の話は嘘だったの...?慎也は約束は守るんじゃなかったの...?こんなのあまりにも酷すぎるわ...。」

 「えっ、あっゴメン!そんな泣かせるつもりは...。」

 泣くの早すぎるだろ!大体どうして俺にそこまでこだわるんだ。こんなの俺じゃなくて...。

 そう思っていた俺の頭の中に去年亡くなったじいちゃんの言葉が浮かんだ。

 「慎也。勉強が出来なくてもいい。ただ、人を悲しませるような事をする奴にだけはなるなよ。もしも、そんな奴になったら化けて出てやるからな。」

 勉強が出来ない俺をいつも母さんからかばってくれたじいちゃん。じいちゃんの期待を裏切るような奴にはなりたくない。

 「水谷、ゴメンな。泣かせるつもりはなかったんだ。約束は破らないから!だからもう泣き止んでくれ!」

 そう言った次の瞬間、水谷はパッと顔を上げる。

 「そう言ってくれると思ってましたわ!」

 そうさっきまで泣いていた人とは思えないぐらい明るい顔で言った。水谷は続ける。

 「さっきまで泣いていたんじゃ...?って顔をしてるわね。慎也は泣き落としって知らないのかしら?あまり女の涙は信用するものじゃ無いわよ。」

 はぁー?!

 「水谷、俺の事を騙したのか!嘘つきに付き合ってられるか!やっぱり俺はやらないぞ!」

 そう言った俺を見て水谷はバックから何かを取り出した。それは、ボイスレコーダーだった。水谷は明るい顔のまま、再生ボタンを押す。俺がさっき言った言葉がリピートされる。

 「もしこのまま逃げるようでしたら、これをお父様に渡す事になってしまいますね。それでも慎也君はいいのでしょうか?」

 くそ!突然喋り方が変わった!なんか凄いお嬢様っぽい!てか、これこそ普通じゃないだろ!録音なんてしないだろ! 

 結局、俺はいやいや水谷の隣にいる事になったのであった。これからどうなる事やら...。先の見えない不安に俺は押し潰されそうになっていた。



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