出会うバカ達
ここは、信濃信濃高等学校。国内で最底辺の学校として有名だ。
この学校が出来たのはつい5年前。校舎のキレイで、最新の設備も整っている。だが、最底辺だ。そんな学校に進学する人は多い。実に様々な性格の生徒が入学してくる。
もちろん、皆勉強が出来ない。
そのため、定期テストのレベルはとても低く、普通の学校に行っている人はドン引きするレベルだろう。しかし、この学校にいる人はそんなテストにも50分悩みに悩み問題を解いている。もちろん俺、赤羽慎也赤羽慎也も、悩み抜いた末に問題の全てが3択のテストを書き終えた。
自慢じゃないが、今回のテストはかなり自信がある。なぜならちゃんと"テスト勉強"をしたからだ。家でラノベやらマンガやらを読む時間を割いてまでやったのだから、今回は間違いなく100点だろう。
テストが終わりクラスメイトが帰っていく中、幼馴染の天野梨衣天野梨衣が話しかけてきた。
「慎也テストおつかれー。どうだった?」
「今回は自信あるぞ!これでお前の点数を越してやる!」
天野とはいつもテストの点で競っている。これまでの対戦成績は、5戦全敗。いつも負けている俺だか、今回こそは...!
俺は天野と別れを告げて家に帰って行った。
「このラノベの主人公カッコよすぎかよー!でも、こんなの現実にいたら絶対イタいだろうなー。」
ベットの上でラノベを読みながらそうつぶやく。時刻は夜の10時。そろそろ寝る時間だと思いラノベを閉じ、部屋の電気を消した。
目をつぶると、部屋の外から親の話す声が聞こえた。
「流石に、これ以上赤点を取ったら...就職出来なくなってしまうわ...。」
「ああ、分かっているよ。慎也は勉強だけとにかく出来ないからな。そこで相談なんだが...」
俺はあまりの眠さに耐えられず、寝てしまった。
次の日、学校が終わり帰る時間になった。
「おーい、慎也!今日この後新宿で遊ぶんだけど、お前もどうだ?」
遊びたい気持ちもあるが今日は、昨日読んでいたラノベの続きを読まなければいけない。でもクラスメイトにラノベを読んでいる事がバレる訳にはいかない。
俺はいわゆる陽キャというやつだ。陽キャは、とにかくウェーイと事あるごとに言い、放課後は外で遊び、BBQを毎月行うような生物だ。そのため、マンガ、アニメ、ラノベなどといった物とは無縁の世界に生きているため、陽キャの中にはそういった物に偏見を持っている人もいる。俺はそんな奴が許せないが、場の空気を悪くする訳にはいかないので黙っている。
「ゴメンなー。俺今日用事あるからー。」
適当に誘いを断り家に帰る。俺はいわゆる"隠れオタク"というやつだ。
ベットに寝転がりながらラノベを読んでいると、お母さんが部屋に入って来た。
「慎也、ちょっと話があるのだけどいい?」
「うん。いいよ。」
なんだ?親の迷惑になるような事はしてないはずだけど。それとも今日帰ってきたテストが全て赤点だったのがバレたか?でも大丈夫。ちゃんとテストは隠したしバレていないはずだ。
リビングに行くと、お父さんもいた。なんだ、どうしてこの時期に家族会議が始まるんだ。
お父さんは話を始めた。
「慎也。お前今回のテストも全部赤点だったらしいな?」
なんでバレてんだよ!フラグ回収早すぎだろ!
「梨衣ちゃんが言ってたわよ。」
天野のやつ、誰にも言うなって約束したはずなのに!約束は普通守るだろ!守れないなら約束なんかするな!
「それで、だ。慎也はこれから予備校に通ってもらう。」
「え?予備校?」
予備校ってあれじゃん。勉強する事に命を捧げている人達が集まる所じゃん。そんな魔境に行けって事かよ!親がこんな強行に出るなんて思ってなかった!
「ちょ、ちょっと待ってよ。予備校なんて行ったってついて行けないって。だったらせめて塾とかでいいじゃんか。」
「お父さんの知り合いに紹介されてな。亜里真亜里真アカデミーというところなんだが。」
「亜里真アカデミー?!」
亜里真アカデミーとは、将来を期待された秀才達が集まる予備校だ。噂によると日本を代表する財閥の水沼家の次女様もいるとか。そんな所に赤点しか取れない俺が行った日には、酷いいじめを受けて挙げ句の果には、身も心も叩きのめされるに違いない!
「そんなところ行ったって授業について行けないよ!今からでも考え直して」
「ゴメンな。今日から授業だから。」
今日!!!
「それからもうすぐ授業だから。今から行くぞ」
今から!!!
俺は、お父さんに連れられ亜里真アカデミーの前にいた。俺はいじめられないかとびくついているのに気づいたのか、お父さんが話しかける。
「大丈夫だ。慎也はやればできる子だ。ここの先生にはお父さんの知り合いもいるし、生徒さんも優しい人ばかりだぞ。」
「う、うん。」
お父さんは分かっていない。子供の世界がどれだけ残酷な世界なのかを。どこの集団にも入れずぼっちになってしまった人は異端となって虐げられるのだ。だから皆、自分と気の合う集団を作り一人にならないようにするのだ。って何を考えているんだ。きっと、今日まで読んでいたラノベの主人公の思考が混ざってしまったんだ。こんな事考えてるなんて俺イタすぎ。大丈夫。学校のように自然に振る舞えばいいんだ。
予備校は思っていた以上にキレイだった。流石、秀才達が多く通うだけあって勉強に必要な環境が整っている。と、教室を眺めていると誰かが話しかけてきた。
「赤羽久しぶりだな!奥さんと元気にやってたか?」
「宮崎さん久しぶりだね。妻もよろしくと言っていたよ。」
「そうかそうか!それで君が慎也君かな?これから君のクラスの授業をする宮崎朱音宮崎朱音だ。よろしくな!」
「よろしくお願いします。」
俺はお父さんに別れを告げて案内された部屋に入る。中にいる人は皆がノートを開き授業が始まるのを待っているようだった。宮崎先生に言われた通りに一番後ろの窓際の席に座る。しばらくして宮崎先生が部屋に入り、授業が始まった。
全っ然分かんねー...。
授業開始から5分。俺は既に頭を抱えていた。授業スピードもあの高校とは桁違いに早い。とか思ってたらもう先進んじゃったなー。ノートに写してないや。やっぱり俺にはこの予備校は早かったんだ。そもそも赤点を取るような奴が秀才達と一緒に授業を受けるのが間違っていたんだ。帰ったらお父さんに言って辞めさせてもらおう。
俺が授業についていくのを諦めかけたその時、隣から声が聞こえた。
「これ使って。私もう板書終わったし、こんな授業受ける必要もないから。」
そう言ってノートを渡された。
「あ、ありがと...。」
渡してきた人は黒髪ロングの華奢な人で、まるでラノベやマンガの世界から飛び出してきたかのような容姿だった。
「...何?ジロジロ見て。何か変な物でも付いてる?」
「あ、いや、何もないよ。」
思わず見とれていたなんてイタすぎて言えない。
俺がそう返すと彼女は「そう。ならよかった。書き写したら返してよね。」と言い、授業中なのに立ち上がり、そのままどこかへ行ってしまった。
おかしい。授業中なのに勝手に出てって言い訳無い。なのに周りの生徒や宮崎先生までも何も言わず授業が続いている。不思議に思いながらノートを開くと、そこにはとても綺麗に整理されたノートがあった。
しかもよく見ると、まだ授業でやっていないところまで書かれている。どいういことだ?家で予習してきたのか?
「じゃあ、ここの問題を赤羽!解いてみろ!」
「あっ、はい。」
しまった、ノートに気を取られて全く話を聞いていなかった。どうしようと戸惑っているとノートに前に書かれている問題と板書されている問題が同じ事に気づいた。俺はとっさに書かれた答えを言う。
「よし!正解だ!ここまでは赤羽もついてきているようだな!」
分かっている訳ではないんです。このノートに書かれた通りに答えただけなんです。その後もこのノートのおかけでついていけないと思っていた授業にギリギリついていくことが出来た。このノートを渡してきた人にお礼を言わないと。
その彼女は授業が終わる1分前に教室に戻ってきた。
「あの、ノートありがとう!君すごいね!おかげで助かったよ!」
授業が終わった後、俺は彼女にお礼を言い、ノートを返した。
「ああ、うん。どうも。君、今日初めて来たよね?名前は?」
「俺は赤羽慎也。君は?」
「私は水谷結衣花水谷結衣花よ。お隣同士よろしくね。いつまで隣かわからないけど。」
水谷?水谷?!じゃあこの人が...!
あの水谷家の次女様!!!
「そうよ。赤羽の想像通り、私は水谷家の人間よ。」
やはり水谷家の人だった。まさか、隣の人が水谷家の人だなんて思いもしなかった。動揺したがそんなお嬢様なら尚更気になることがある。
「あの、どうして授業中に抜け出したりなんかしたんですか?普通はそんな事しないと思うんですけど。」
相手の社会的地位が上だと分かった途端につい口調が丁寧になってしまった。当たり前だ。相手は日本を代表する一家だ。ここで下手かませば何をされるか分からないからな。そんな俺の質問にお嬢様は予想外の答えを言う。
「逆に、何故あんなつまらない意味の無い金の事しか考えていない者達のレベルの低い授業を受けなきゃいけないのかしら?」
何言い出してるんだこのお嬢様は!周りの人ドン引きしてるぞ!彼女は捲し立てるかのように言葉を続ける。
「ここは先生のレベルも低ければ生徒のレベルも低いわ。少し頭を使えば誰でも解ける問題に必死になっちゃって。まるで子作り中の雄のようだわ。ここにいる先生だって全員大した学歴も無いのにお金の為に働いて、そんなの阿呆のする事だわ。」
まずい、何かエンジン掛かっちゃったみたいだぞ?!教室中はざわめきが収まらない。彼女の発言に言い返す人、動揺して勉強道具を落とす人、なぜか泣き出す人までいた。どうしてこの教室にいる全員に聞こえる声で話したんだ。とにかく、これ以上騒ぎが大きくなる前に彼女を連れ出さなきゃ!
「それにっ?!んんー!んー!」
俺は、彼女の口を押さえて外に連れ出した。
「どういうつもり?!強引に外に連れ出すなんて!何か私危害を加えるような事やりました?!」
自覚してないのかよ!彼女には常識が無いのか!
「本当に自覚が無いんですか?あんなに人が傷つくような事を言ったんですよ?」
俺がそう言うと、彼女は我に返ったのかだんだんと落ち着きを取り戻してくれた。そして少し悲しそうな顔をしながら話し始めた。
「また私やってしまったのね。昔からパパやママに怒られていたわ。常識のある行動をしろって。」
こんなお嬢様でも親の事をパパママで呼ぶのかといらない事につっかかってしまった。
「私、分からないの。常識のある行動ってどういう行動の事を言うの?それを私は知りたいのに、誰に聞いても「そんなの考えれば分かるだろ」って言われるのよ。」
そりゃそうだ。ああいうのは思っていても心の中で言う物だろう。それに彼女の顔を見ると本当に自覚が無いようで、困惑した顔をしている。
「それでは、話す前にこれを言ったら周りがどう思うかを考えたらいいんじゃないですか?」
「なるほど。話す前に考えるね...。そんな事考えた事無かったわ。赤羽ひょっとして天才なんじゃ?」
こんなの誰でも分かるだろ。
「それと、いい加減口調をどうにかして。同い年なんだから普通に話していいのよ。」
「ご、ごめん。」
「それじゃあ赤羽。貴方に頼みがあるわ。貴方は他の人の言う常識というものが分かるようね。だからこれから私に常識というものが何なのか教えて欲しいの。」
急に強引!そもそもそんなの俺じゃなくてもいいじゃんか!
「別に俺じゃなくても...。」
「あら、貴方今日の授業誰のおかけで乗り切れたのかしら?それに貴方、あの程度の問題で頭を抱えているのだから相当な馬鹿のはずよ。」
この人大分ストレートに心にくる事言ってくる!事実だけど!とりあえずここを辞めるまでは従っていた方がいいだろう
「分かったよ。でも具体的に何をすればいいの?」
「簡単よ。これからも毎日この時間にここに来なさい。そして私に常識というものを教えればいいの。」
「はぁ...。まあいいけど...。」
なんか面倒な事になったなー。ノートを見せてくれるのはとてもありがたいけど、あんな事を平気でペラペラ言う人に常識を教えるなんて...。」
その時、見るからに高級そうな車が走ってきた。その車は俺達の前で止まると自動でドアが開いた。
「それじゃあ、赤羽。明日もこの時間にここに来るのよ。」
彼女はそう言い残すと車に乗り込み走り去ってしまった。
世間の常識をまるで知らないお嬢様に俺が常識を教えるなんて、俺はこれからどうなってしまうのだろうか。
車を運転する召使いの拝島拝島は後部座席で寝っ転がってい私に言う。
「結依花様、あの男をお気に召したか?先程からどこか嬉しそうな顔をしていますよ。」
そんな事か。何を聞いてくるのかと思ったけれどそんなつまらない事か。そう心では思っていながらも何故か口は真逆の事を言う。
「ええ、赤羽はとても面白い人だわ。人と話すのが面白かったのは久しぶりよ。」
「何でも見透かしてしまう結衣花様が言う事なら本当なんでしょう。ホッホッホ。」
眩しいほどに輝く都会の中を私を乗せた車は走って行く。今までは楽しみなんて何も無かったけれど、不思議と、明日を楽しみにしている自分がいる事に気がついた。