始めての手料理
翌日。
学校では流石にクラスが違うので、甘城さんが僕のクラスに来ることはなかった。
そして放課後。学校にまた田中さんが赤のフェラーリで迎えに来て、甘城家に連れて行ってもらった。
しばらく待っていると、
「天野きゅーん」
と僕に抱きついてきた。
胸がむぎゅっと腕に当たって柔らか……
「痛たたっっ」
どうも彼女は力加減が上手くない。彼女の腕がぎゅっと僕を締め付ける。
「あっ、ごめんなさい。痛かった?」
「う、うん。少し……」
「嬉しいあまりついっ」
「いや、大丈夫だよ」
「今日はお菓子を作ってあげるから」
「え、本当かい?」
(彼女の手料理かぁ)
僕は感激した。彼女が出来て始めての手料理。
手料理なら例え美味しくなくても全部食べるぞ!
「こっちに来て」
「こっち?」
「うちのキッチンよ」
流石、甘城家のダイニングキッチン。広い。
そして彼女はピンクのひらひらしたエプロンを着けた。
(おぉ~。可愛いーっ)
「どうかしら? 似合ってる?」
「似合ってる、似合ってる。可愛いよ」
「ありがとっ!」
そしてクッキーを作ると言って、料理を始めた。
ふんふんと僕は楽しみに待っていると、少ししてから異様な臭いがし始めた。
えっ、と思ってそっちを見ると、黒い煙がたっていた。
(ど、どうしたらそうなるんだ??)
僕は不安に駆られた。そして周りを見ると、心配そうに執事の田中さんや他の給仕さんが見ていた。
「もしかして甘城さん。料理始めてかい?」
「よく分かったわね。そうよ。始めて!」
「そ、そうなんだ……」
「彼氏が出来たの始めてだから、やっと誰かに尽くせれるから嬉しいの」
「そ、そうかい?」
「ちょっと待っててね。もう少しで出来るから」
「う、うん。料理始めてなら、料理本見てるかい?」
「見てるわよ~っ。私、器用だから! 料理なんてちょちょいのちょいよ!」
黒い煙が出てる時点で不安しかなかった。
もう少し待っていると、チーンという音がして僕の居る机に持って来ると黒色のクッキーだった。
「チョコなんだねっ」
「ふふっ、何言ってるの? バニラよ!」
「バニラ……」
バニラではないと断言出来るくらい黒かった。真っ黒焦げと言っていい。
僕は恐る恐るその得たいの知れないクッキーを食べた。
(……苦い)
「どう、美味しい?」
彼女は僕のことじーーっと見ていた。
「お、美味しいよ……」
僕は冷や汗を掻きながら言った。
(こんな不味いものは早く処理せねば)
僕は急いで口の中に入れた。
バリボリバリ。
およそクッキーと呼ぶには少し硬い食べ物だった。
「あらあら、そんなに美味しかったの?」
「う、うん……。大丈夫だったよ」
「もう。食いしん坊さんね。」
「あはは」
「うふふ」
そしてまたキッチンの方からチーンという音が鳴った。
(ま、まさか……)
「まだまだ作るから。沢山食べてねっっ」
次は皿にどかーーっと乗せていた黒い物体が沢山あった。
僕はサーッと血の気が引いた。
「どうぞ。まだまだあるから。召し上がれ」
「う、うん……」
僕はその物体を一つずつ食べた。
バリバリバリ。ボリバリバリ。
(美味しくない……)
「あら? どうしたの天野君。涙を流して? そんなに美味しかった?」
「う、うん……」
僕は一体何を食べて、何と格闘しているんだという気持ちになった。
食べている内になんか周りの音や空間が遠くなっている気がした。
「天野君。天野く……。あま……」
「えん、えん。えん、えん」
誰かが泣いている。子供だった。周りは暗いが、その子の周辺だけ明るかった。緑の芝生の上に彼女は座っていた。そして僕は声をかけた。
「どうしたの?」
「ごめんなさい。お兄ちゃん。ごめんなさいっ」
「どうして謝ってるの?」
「私がいけないの。だから謝ってるの」
「そうか。何をしたの?」
「大切な人にちゃんとしたものを送れなかったの」
「そうか。けど心は込めたんでしょ?」
「うん。心は一杯込めたよ」
「それならその人に気持ちは受け取ったんじゃないかな?」
「そうかな?」
「うん。そうだよ」
「分かった。ありがとう。お兄ちゃん……」
風景が変わり、頬にぽたりとしずくを感じた。
目を覚ますと僕の正面に彼女が心配そうに見ていた。
(そうか。気絶したのか……)
僕は彼女に膝枕をしてもらっていた。
「大丈夫? 天野君?」
「う、うん。大丈夫……」
「馬鹿! 大丈夫じゃないじゃない」
「えっ?」
「気絶して大丈夫じゃないでしょ」
「ごめん」
「謝るのはこっちよ……」
「……」
「まさかあんなに不味かったなんて……。料理は難しいわ」
(臭いで気づいてほしかったな)
とほほ、と思いながら僕は目をうるうるさせている彼女の方を見た。
「けど気持ちは込めたんでしょ?」
「えっ?」
「気持ちは込めたんでしょ?」
「勿論よ!! 気持ちはたっぷりよ」
「気持ちは伝わったよ」
「ありがとう。けどこれだけは約束して」
「何?」
彼女は目を潤しながら言った。
「私の前では嘘をつかないでね……」
「分かった……。約束する」
「天野君……」
「甘城さん……」
僕達は顔を近づけたら、
「ん、んんっ!!!」
はっと僕達はして周りを見ると、彼女の部屋に田中さんと医者が何人もいた。
「そうだったわ。念の為医者を呼んだのよ」
一応僕は検査して貰って異状なかったので、医者達は帰って行った。
そうして僕達は二人になった。
「もうムードぶち壊しね」
「あはは……」
「天野君」
「何?」
「ほっぺにチョコが付いてるわ」
「本当?」
「ふふっ。もう子供ねっ。 食べさせてあげる」
甘城さんは僕のほっぺに付いているものを僕の口に入れた。
ガリッ。
(苦!!)
ぶくぶく……。
「天野くーーん!!!」
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