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大河の出自


「――どういうこと?」


 六華の唇がわななく。


 彼の持つ金剛はいったいどこからやってきたのだ。

 無から生じたようにしか見えない。

 物理法則はどうなっている?

 今確かに自分の目で見たはずなのに、常識が邪魔をして状況が理解できない。

 すると大河はそのまますらりと、金剛を鞘から抜いて六華に見せる。


「手品でも何でもない。これは本物の金剛だ」


 障子紙を通して差し込む暖かい太陽の光を受けて、金剛は美しく輝いた。

 だがその美しさも素直に受け止められない。死んだ竜だと聞いた今は複雑だった。


「あの……それ……もしかして私にもできたりしますか?」


 鍛えればその域に達することができるのだろうか。

 春に入隊してからそんなことができる先輩は誰ひとり見たことがなかったが、自分が知らないだけで警備隊の上層部は知っていることなのだろうか。


(そう言ってくれたら私……これ以上不安な気持ちにならなくて済むのに)


 だが大河は少し申し訳なさそうに、「いいや」と首を横に振った。


「いくら鍛えても、お前には無理だ」

「じゃあ……どうして?」


 もう答えは六華の目の前に迫っている。わかっているが問わずにはいられない。


「俺の中に流れる血が、金剛を呼び寄せることができる。どこにいても、どんな状況でも」


 大河は金剛を慣れた手つきで鞘におさめると、左手を上から下に振り下ろす。

 彼の手に握られていたはずの金剛が、まるで手品のようにふっと消えて、六華はまた目を丸くした。


「消えた……!」


 出すも戻すも自由自在らしい。


(久我さんに流れる血が……こんなことを可能にする)


 六華はぎゅっと唇をかむ。


 死んだ竜から生まれた金剛を、呼び寄せることができるということは――。


「久我さん……あなたは……もしかして」

「ここまで言えば、もうわかるだろう」


 大河はどこか悲しそうにうなずいた。


「俺には竜の血が流れている」

「っ……」


 六華は息をのむ。


「で、では、竜の角がないのはなぜですか!」


 とっさに叫んでいた。


 竜にはその力を象徴する角がある。

 つい先日だって、双葉の夫である璃緋斗の美しい二本の角を見たばかりだ。

 大河が竜種だというのなら彼にもそれがあっていいはずだ。


 だが大河の頭を見ても角の気配はない。どこにも。


「――俺は『ツノナシ』だからな」

「え?」


 聞きなれない単語に、六華は首をかしげる。


「ツノナシ。俺のような出来損ないのことを、そう呼ぶんだ。まぁ大したことじゃない。昔から俺みたいな存在はいたそうだから」


 大河はなぜか泣きそうな顔で笑って、なんでもないといわんばかりに六華を見つめた。


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