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想い 2

「過去からでは……難しい。せめて、未来側からピンポイントで引っ張れるならば、おそらく……」


 向こうからという言葉に絶望を感じた。

 一部始終を見ていたフォルツは、あれだけグレンのことを怖がっていたから、彼に話をしに行くという選択肢はないだろう。

 そもそもどこに飛んでいるかなどわかるはずもない。

 ましてやあの日はちょうど黒の日だった。きっとレティシアは原因のわからない行方不明ということになってしまう可能性が大だ。


 泣いてはダメだと思うものの、込みあげる思いに頬が濡れる。

 これは、あまりの自分の考えなさが引き起こしてしまった罰だと思ってしまう。


 あの日、出かける前にでも、一言グレンに伝えればよかった。

 もっと前にも、関係ないで済まさずに素直にロヴに相談すればよかった。

 そう考えれば考えるほど、レティシアには全てが後悔することばかりだ。


「あのね、私ね、ミラベルお嬢様が『魔王』を呼びだすって言い出した時、止めようとしたのよ。でも、本気では止めなかった」


 流れる涙が口に伝うが気にせずに続ける。


「もし本当に魔王がいるのなら、お父様の事故を無かったことにして欲しいってお願いしたかったのよ、バカでしょ?本当に、バカだわ……そんなの、無理なのに。無理だってわかってたの」


「バカじゃない」


「それでもせめて、ドートー川の氾濫が二度とおこらないようにならしてくれるんじゃないかって、そこまで考えてたわ。だから罰が当たったの。なのに、ロヴは……グレンも、そんな私に優しかった。こんな、バカでズルい私に、優しかったの……」


 会いたい……そうもう一度呟くと、レティシアの体が温かいものに包まれた。


「バカでもズルくもない。それくらい誰でも考える。俺だって……」


 若きグレン・ロヴが震える彼女の体をぎゅっと抱きしめながら、想いを噛みしめる。

 そうして、徐々に落ち着いてきたレティシアに向かい話しかけた。


「なんとか向こう側へレティシアのことを伝えられないか考えてみよう。きっと、何かあるはずだ」


 ほんの少し悲し気に、それでも彼女のことを真剣に思いグレン・ロヴが声をかけると、レティシアもようやく涙を拭きながら、「うん」と答えることができた。


 気分を変えるためにも少し休憩をしようと、グレン・ロヴがお茶を出してくれた。

 温かいそれを二人で飲みほすと、だんだんと心が落ち着いてくるのがわかる。


「でも、伝えるってどうすればいいのかしら?」


 小さく呟いたレティシアの声を、彼はきっちりと拾いとった。


「おそらく、未来の俺はレティシアが消えたことは気が付いている。ただ、どこにいるかがわからないだけだ」

「……そうなの?」


 レティシアはグレン・ロヴのその言葉に驚いた。

 いくら自分のこととはいえ未来のことだ。しかも今まで彼女とは会ったこともない存在だというのに、そこまで断定できるものなのかと首を捻ると、薄っすらと頬を染めながら言葉を続けた。


「毎日通ってんだろ。来なきゃ気が付くに決まってるだろう」

「ああ、そうよね。魔陣牒で強制的に飛ばされるんだもの、勝手に休むわけにもいかないし」


 そこを指摘され、どれだけ頭が回っていないのかと反省する。


「どこにもいないとわかれば、そのマーキ、んっん、いや、魔法陣の魔力を真っ先に追うとは思うんだが、ここまで届かないか、もしくは俺がいるせいで感知できないのかもしれない」

「魔力が大きい方が上っていうこと?」

「いや、全く同じ魔力だからな、区別がつかないって言った方が確かかも」

「ええと、うん。ちょっとわからないわ。ごめんなさい」


 どうも魔力の話になるとちんぷんかんぷんなところがあるレティシアが素直にわからないと言うと、グレン・ロヴは頬をゆるめ笑う。


「薄々わかってはいたが、本当に、魔力が全くないんだな。しかも魔力慣れもしてなきゃセンスもない」

「今時魔力がない人の方が多いわよ」


 確かに魔力の欠片も持ってはいないが、センスがないとまで言われると、なんとなくムッとして反論した。

 しかしそれを聞いてまた笑われる。


「普通の人間だと魔力がなくても、ここの屋敷は気味が悪いらしいぞ。マイクが、ああ古い友人なんだが、でかい魔力のかかった魔法書や魔法陣がありすぎてあちこちざわざわするんだと。下手に魔力があるヤツならひっくり返ってるくらいだな」


「ええー?何も感じないわよ」

「だから、鈍感だっていうことさ」


 鈍感と言われ、少しショックを受ける。

 だが、そのお陰で別段問題なくここにいられるのだからありがたいとも思わなければならないかもしれない。そこまで考えて、ふと気が付いた。


「じゃあブランは?全然気にしてないわよ。すごく普通」

「……ブラン?」

「まだ知り合ってないのかな?魔獣よ。魔獣のブラン」

「はっ!?何で魔獣?まさか?」


 あまりのグレン・ロヴの驚き様に、体をのけ反る。

 ごく当たり前に屋敷に居ついている上に彼女に懐きまくっているせいで、魔獣がとても珍しいものだということを忘れかけていたレティシアだ。


「えーっと……やっぱり普通じゃなかったのね」

「伝説級だよ、そりゃ」


 そんな言葉を伝説の魔王が口にしても、彼女にしたらどっちもどっちだと思った。


「あいつらは、次元の狭間に住み着くから、姿を現すことすら珍しいんだが……ブラン?」


 魔獣について少し教えた方がいいかと、グレン・ロヴが本を一冊取りに本棚まで行ったところでぴたりとその動きが止まった。

 そうしてぐるんと勢いよく振り向いた。


「レティシア、お前ヤツの名前を知っているのか!?」


「え、え、ええ。ブランよね。いつでも呼んでいいって言われたもの」


「それだ、レティシア!戻れるかもしれないぞ、向こうの世界へ!」


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