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相談 2

「あのさ、ちょっと相談があんだけど……」

「あ、うん。大丈夫よ、どうかしたの?」


 あのロヴとの言い争いから三日後。フォルツの様子をうかがうために街中への用事をつくり、菓子屋へと足を運ぶと、その目当ての少年の方からレティシアへと声をかけてきた。


 結局、グレンへ少年についての相談は出来ていない。

 あの日から彼がサイガスト公爵家へ顔を出して来ないというのも理由の一つだが、一番の理由としては、ロヴに対して吐き出してしまった言葉の意味の大きさに、レティシア自身が自己嫌悪に陥ってしまった為、何もやる気が出なかったからだ。

 それでもようやく重い腰を上げ様子を見に来たところでのフォルツからの相談に、慌てて身を乗り出して聞き入った。


「実は、売るものは何もないって言ったんだけど、少しは残ってんだ。でも本当に俺、もう売るつもりないからさ」

「ああ、それはそうよね。じゃあ、その残りをどうにかしたいって相談なの?」


 敢えて、魔陣牒という言葉は避ける。

 菓子屋の裏戸の辺りで話しているが、こんな路地の片隅でも昼日中からでは魔陣牒を売る、売らないなどという言葉は目立ちすぎるのだ。


「うん。それで、残りをあんたに渡したいんだ」

「あーっと、それはちょっと難しいわね。……ねえ、この間私の隣にいた男の人を覚えている?あの人じゃダメかしら?」

「うっ、取締りのヤツだろ?何回か見たことあるけど……怖ぇーんだよ、あいつ」


 フォルツは眉間に皺を寄せてぶるぶるっと体を震わせた。

 グレンは非常に綺麗な顔立ちをしているだけに、怒ったら怖いというのは同意するが、やはりこういった場合は専門家に頼むのが一番だと思うのだ。


「グレ……トールダイス様は怖くないわよ。君のことも心配していたし、きっと悪いようにはしないと思うの」


 レティシアがそう言うと、うーんと考えるそぶりはするものの、あまりいい顔はしない。


「俺が斬られた時にも真っ先にかばってくれたのは覚えてるけど……やっぱ、あいつら役人と顔は合わせたくない。特にあいつは嫌だ。それくらいだったら、そのままほったらかして出てった方がマシだ」

「え?フォルツくん、ここで働いていくんじゃないの?」

「うん。ここら辺はさあ、売ってた時の客も結構いるからさ、俺がちょろちょろしてたらあれだろ?お互い具合悪いじゃん」

「そう……ここを離れるのね」


 せっかく違法売買を止めたと少年が、ここから離れて行くということに、少し寂しい気もしたが、その方が彼の今後にとってもいいのかもしれないとレティシアは思った。

 この少年を見ていると、領地で仲の良かった友人たちを思い出すのだ。彼らのように魔陣牒が足りなくたって、持ち前のバイタリティーでなんでも成し遂げて行けるようになって欲しい。

 新しい環境で一からやり直したいというのなら黙って応援してあげたいという気持ちになるのだった。


「ならいいわ。預かるといのは無理だけど、置いてある場所を教えてくれれば、フォルツくんが旅立った後で、処分をトールダイス様にお願いするわ。それまでは誰にも言わない。それでどうかしら?」


 ほんの少しだけ考え、フォルツは頬を指で掻きながら頷いた。


「仕方がねえか。これ以上お姉さんに迷惑かけるわけにもいかねえし。じゃあ後は頼む」

「了解。ねえ、お姉さんでもいいんだけど、レティシアよ。この間教えたでしょ、そう呼んでちょうだい」

「えっ!?だって、さあ……あんた、お嬢様じゃん」

「あら、今、君と話をしている私は、ただの侍女レティシアよ、ね」

「…………うん。レ、レティシア?」


 フォルツに名前を呼んでもらい、ニッコリと笑顔を見せるレティシア。

 そんな彼女を見て、ぽっ、と顔を赤らめたフォルツは、照れ隠しに思い切り壁のレンガを蹴飛ばして、大きく体をのけ反り叫ぶことになった。


 レティシアはフォルツと話を詰め、彼がここを離れる予定の前々日、つまり黒の日にフォルツの家の隠し場所を案内してもらうことを約束した。

 彼の住む辺りは、王都の街中でもあまり治安のいいところとは言えない。だからこそレティシアの様にいいところの侍女のような恰好をした女性が真っ昼間から歩くには目立ってしまうのだ。

 そうかといって、夜に出歩くことは難しいし余計に危ない。そもそも夜はレティシアにはロヴの屋敷での掃除の契約があるのだから無理だ。


 ならば、一日中暗闇に紛れてしまう黒の日の昼間に動いてしまったほうがいいだろうということになった。


「グレン様には、フォルツが旅立ってしまってから言えばいいわよね」


 一人ごちるレティシアは、この時はまだ呑気に構えていたのだ。

 疑似魔陣牒の不法売買がどれだけ危険な事なのか、そしてそれを巡って使用した人たちがどれだけ人生を狂わせられることとなるのかを。


 そうしてそのグレンへの報告を後に回してしまうという決断を、大いに後悔することとなったのだ。


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