第2章:戦争
家族と楽しく過ごしていたおっさん!
だけど祖国では戦争が始まっちゃって!?
大丈夫!?頑張って☆おっさん☆
「第三次世界大戦」
その始まりは何だったのだろうか。
とある不安定な国家か?
介入した他国か? それとも…
答えの見つからない私をおいてけぼりにして、
国は戦争への本格介入へ進んで行った。
「…」
国より届いた一通の手紙、
何度も読み返したそれは働き盛りの私への
戦争への召集令状であり、数グラムの薄い紙が今は数百キロの金属の塊の様に感じられる。
いつも嫌な事から目を背けていたが、今はもう
現実がのしかかっている。
「……」
妻と娘の事を考えると心臓を鷲掴みにされた様な感覚が身体を震わせた。
頬をぴしゃりと叩き手紙を握りしめ立ち上がる
「私は…」
いつも使っていた駅は満員だ、
そこには軍服に身を包んだ人と
出発を祝福する人々の姿が占めている。
誰もが知らない人の為にまで祝っている。
別の国に来たような感覚に包まれながら、
べそをかく葵の肩を叩いた。
「葵、パパは必ず帰ってくる、
ちょっとの間バイバイするだけなんだ」
「ちょっとって…どれくらい?」
何度も聞いた言葉だ
暗い感情を押さえ込み笑顔を作る。
「ちょっと、だよ。
それと葵がいい子にしてたらもっと早く帰れるかもしれないからね。」
「うん…うん! すぐ帰ってきてね!」
涙を拭い、世界一素敵な笑顔を見せてくれた、
頭をぐしゃぐしゃに撫でながら言う
「葵は良い子だ…とっても…とってもな…」
そう言いながら涙が溢れて来てしまう
「パパ?」
「なんでもないさ、葵の成長が嬉しいんだ。」
時間は常に待ってはくれない、
駅に響くは発車の音。
葵から手を離し、妻に体を向けた、
「すまないが…葵を頼む。」
妻は静かに頷いた。
同じ様に軍服に身を包む人々と共に
車内に入っていった。
「パパ!」
妻に抱き抱えられた娘の声がが騒々しい駅に響いた。
「いってらっしゃい!!!」
「いってきます!」
煩い音に負けるものかと叫ぶ。
いつもの挨拶、いつも、が壊れた世界でも
最初くらいはいつもでありたい。
発車したリニアモーターカーが速度を上げ始め
家族が小さくなって行く。
その姿が見えなくなる頃、
遠い駅から自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。
それからの事は淡々と進んで行った、
国の西部最大の軍事基地に配属され
多少の訓練を受けた後、前線へと送り込まれる
そこで戦争の実感は否が応でも知らされるのだった。
銃弾と爆弾が飛び交い、
更に戦車に航空機が動き回り戦場を掻き乱す。
共に戦っていた仲間達が数秒の間に
物言わぬ置物へと変わって行く、
1日を生き残ってもすぐさま次の戦場で
またもや死と隣り合わせに生き抜いていく。
ある時は機関銃で敵を牽制し、
ある時は野戦砲で要所を破壊し、
またある時は…
「オーライ!オーライ!」
物資を輸送してきたトラックの列が
多少整備された前線の基地へとやって来た。
「二四部隊直ちに集合!
荷降ろしを手伝え!」
上官の怒号と共にそれぞれが荷を降ろし始める
トラックの荷台から3m近い箱が降ろされる。
その箱を開けると中から大きなロボットが顔を覗かせた。
「これは…新しい有人機ですか?」
誰かが上官へと質問した。
それに対して上官はにやりと笑う。
「いや、これはだな…
最新型の無人戦闘ロボだ」
「無人?」
あまり聞かない単語にうっかりと
軽い言葉を漏らしてしまう。
だが、上官は気にもとめずに言う。
「そうだ、遂に国は人が操縦する必要が無い無人機の製造に成功したんだ、
まだ最新型で数が限られているが…
ここに数台配備される事が決まったのだ!」
上官が嬉しそうに叫んだ。
「遂に無人が…」「強いのか?」「数台か…」
それぞれが感想を言い合って、
ロボットへの期待と不安を表している。
それを聞き上官が言った。
「性能は…次の戦闘で確かめようじゃないか、うっかり敵と間違われない様にするんだな」
ガハハと笑う上官に
部隊の顔が引き攣る。
(無人機…まさかそこまでのAIを…)
二足歩行で悪路を動き、
武装は今は何も持っていないが様々な物を持て、それに加えて敵味方を区別する
ちょっとだけ不安だが…
テクノロジーを信じるとしよう。
「そう言えばこのロボットに名前はあるんですか?」
誰かが言った言葉に上官が説明書を見た。
「コイツは… イザナミと言うらしい。」
「コイツは…すげえぞっ!」
絶えず響く銃声に負けぬ声で誰かが叫ぶ。
小規模な遭遇戦、しかしその戦闘は一方的だ、
乱戦の中一際目立つ存在、
数台の機械が敵の人間を易々と屠り
装甲車や有人ロボを粉砕していく。
機械とは思えぬ軽やかな動きで戦場を支配するのだった。
「イザナミに続けぇっ!」
「勝てるっ勝てるぞっっ!」
その姿に照らされ更に士気が上がってゆく。
その勢いに堪らず敵は撤退を始めるも
無慈悲な殺人鬼から逃れる術は無い。
しかし…
「敵のドローンだ!?」
援護に向かう敵の新手、それは
無人攻撃ドローン、一体一体は小型だがその数により少数の兵なら相手にもならない。
「ま、まずい…」
誰かが呟く、部隊は損傷は少ないものの
激しい戦闘により兵がバラけている。
こんな状況で襲われたら…
だが、それを許さない モノ がここにある
『code19…対空戦闘準備完了…
直ちに迎撃を開始します…』
鉄の雨が空に昇った
人間の物より正確なソレは無慈悲に
ドローンに直撃していく
空には木も岩も盾も要塞も無く、
ものの数分で電子機器はゴミへと変わる。
「すげぇ……」
バラバラになったドローンを浴びながら
誰かがぽつりと呟いた
「これが…イザナミ…」
浩二の目の前に佇む大きな機械を見上げ、感嘆の声を漏らす。
「これさえあれば…国は…いや家族は…!」
しかし、強力な武器が加わったと言え、
戦争は終わる気配を見せなかった。
広々とした戦場には大量とは言えぬイザナミは
個々の戦地に配備される数は当然少ない。
更に敵も対イザナミの策を練り、武器を開発する。そしてそれに対抗するためのイザナミの強化のいたちごっこが続いていく始末。
浩二は戦い続けた。
理由は当然分かりきっている
家族の為だ。
連絡は取れず、現状を知る事は出来ないが
それでも無事を信じ、武器を取る。
1年…2年……そして3年
数年で終わると見られた大戦は悪化の道を辿る
「必ず…必ずだ、必ず帰るんだ…」
いつだったか家族で撮った写真を眺め呟いた。
写真に写る3人は未来を知らず
ただ笑顔を浮かべあっている。
写真を内ポケットに仕舞って立ち上がる。
「さて、今日も生き残るぞ…」
大戦が始まって9年が経とうとしていた。
旅が始まらない詐欺