7話 走りと歩き
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ということで俺たちは学校に向かい走っている。
人はどんな時素顔を見せるのか? 俺はユメを見ている色んな人と触れ合う中でよく考える。
人によりいろいろ意見が出るところだと思う。俺の意見では、時間に間に合わなそうなとき、急いで走っている時だと思う。
焦っていてまず余裕がない、これで話しているそいつの本性が出やすい。そして走って息が上がって疲れているので、隙を見せやすい。精神的にも身体的にも乱れているので、その人の内面が出るというわけだ。
隣を見ると、少女は顔を紅潮させふらふらで全身が揺れている。口をぱくぱく開けて苦しそうだ。少女の体を見るに、細い華奢な体で、まだ背も小さい。とても運動が得意そうにはみえない。インドア派なのだろうか。
「大丈夫か? 少し休むか?」
少女は大きく肩を上下させながら首を振る。
「ーーまだ走れる。私が選ぶのに時間がかかったせいで遅れてるから……」
「そうか――あんま無理すんなよ」
しばらく走る。少女の顔はさらにきつくなって、今にも倒れそうになっていた。必死に走るのは、もともと遅刻をしたくないタイプなのだろうか。それとも、俺に気を使ってくれているのだろうか。なんにしても、俺にとっては初めての学校になるので、目立たないためにもなるべく遅刻しないようにしたい。だから急いでくれるのは助かるのだが。
「止まろう」
俺は足を止める。
「えっ」
少女もふらふらになっていた走りを止める。相当疲れたようで肩で息をして手を膝にあてうつ向いている。
しばらくして落ち着くと、顔を少し上げてこちらに疑問の表情を向けてきた。
「遅刻しちゃうよ?」
「まっいいだろ、遅刻くらい」
「でもーー私のせいでーー」
やはり自分のせいで遅れたことに負い目を感じているのだろうか。
「気にしない気にしない。俺も時間見てなかったし、何買うか決めてなかったから一人でも迷ってたよ」
立ち止まったのは駅から続いていた二車線の道路の歩道。疲れている少女の背中をそっと押し植込みの近くに導く。そういえばユメの世界では現実世界と違い、都市開発によって緑がなくなってはいない。
「ちょっと待っててくれ」
何かないかと辺りを見回すと、ちょうど近くにある小道に自販機があるのを見つけた。近づいて何が売っているか見る。大人気の炭酸飲料や、普通のお茶に水、ぶどうジュースやオレンジジュース、そして目に入ったのがアイスココア。なんとなく少女の性格的に炭酸は飲まなそうに思え、ジュースの好みもまだ知らない。ココアなら甘いもの嫌いでなければ大抵は外さないはずだ。そんなことを考えてボタンを押す。
少女の元に戻り、買ったココアを手渡す。
「これーー」
「汗かいただろ。飲み物でも飲んで休もう」
「--ありがとう」
少女は笑顔を見せ、静かに缶に口をつけ飲んだ。
「嫌いじゃなさそうで良かった」
「ココアは大好き」
「はは。尚更よかった」
走って生気を失っていたのもだいぶ良くなってきた。もうだいぶ落ち着いてきたらしい。
「秀人のは……?」
「あぁ、昼ご飯で金なくなっちゃてな。一本分の金しか残ってなくって」
「えっ、そうなの……」
言わなければよかった。また負い目を感じさせてしまうかもしれないととっさに後悔した。
「じゃあ、残り、飲む?」
「えっ、ま、まじか」
こういうのには慣れているが、今日はなんかすごい恥ずかしい。
「たくさん飲んでもらいたいから遠慮しとく」
「そう、ならーー」
少女はてとてとと自販機の方に歩いていく。戻ってくると、
「はい、私からもあげる」
同じアイスココアを手渡してくれた。
「いいのか?」
「うん。おごってもらってお昼ご飯代が余ったから。ーーこれで一緒に飲めるね」
少女は微笑んだ。
ちょっと顔が熱く感じるのは、走ったせいか、さっきのを引きづっているからだろうか。
なんにしても、
「ありがとうな」
初日から遅刻は面倒だが、こういうのも悪くないなと思った。
俺たちは時間を気にせずゆっくりとココアを堪能し、歩いて学校に向かった。
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