6話 コンビニ
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ぼんやりと目を開ける。俺は病室のベッドの上だった。隣を見ると人工ユメ機が置いてある。一見いつも通りの病室だが、いつもとはわずかに違う点がある。花瓶に生けてある花は青色だし、カーテンは閉まっているし、棚の色は少し暗い。これはユメだ。
そう思うと急に元の世界の記憶が戻ってくる。学校を休んだこと、人工ユメ機を使ってユメの中に入ったこと、別室で父さんや森山さんが俺の視界をモニタリングしていること。
自分がユメの中にいることに気づくのは難しいらしい。現実との微妙な差異、そこからユメを認識できるのが得意なことが目覚ま師になる条件の一つだ。俺が初めてユメに入った時のことはもう覚えていないが、父さんによると初めから俺はユメを認識するのが得意だったらしい。
さて、あの白い少女の元へ向かうか。
少女はユメの中で高校に通っているらしい。人工ユメ機は人為的にユメの中に入ること以外にも、患者のユメの中での居場所を探すこと、ユメの中にいる本物の人間の頭の上にチェックマークを表示させること、ユメに入る人間の容姿や患者との人間関係の設定を少しいじることなどができる。俺は今少女の恋人で、同じ高校に通うクラスメイトだ。
通学路は頭に入れてきた。ここから電車で二時間ほど。元の世界でいつもの学校に登校する少し前の時間だったから、ぎりぎり間に合うくらいだろう。
起きたばかりで気だるげな体に鞭打って、病院を出る。
こっちの天気もくもりだ。青い空が見えないことに不満を感じながら、乗り換えを重ね、乗り慣れない電車に乗りこむ。 同じ車両の中で頭の上に印のついた元の世界の住人、目覚ま師の世界ではネームドと呼ぶ、もニ、三人発見する。確か元の世界の人口におけるユメ患者率は一パーセント弱だ。仮にユメの世界にの人口が元の世界と同じとするならば、百人に一人くらいの確立でネームドがいることになる。
ではそれ以外の九十九人はいったい何なのだろう、暇すぎてそんな疑問が頭に浮かぶ。
目的の駅に到着する。通勤快速というものに乗れて思ったより早く着いた。電車が混んでいたわけだ。
そうだ、飯を買うのを忘れていた。人工ユメ機で発生させた制服のポケットに、財布が入っていた、千円だ。
偶然にもユメに入る前と同じ金額だった。普段はなり替わった人間と同じ額になるのだが。
今日中に仕事を済ませる自信はある。少し贅沢しよう。ユメの世界で美味しいものを食べるのに幸福を感じるなんて、自分で自分に呆れるが、味はきちんとするから仕方がない。
最寄り駅は郊外の少し大きめの駅で、駅前にそこそこの大きさのコンビニがあった。大手チェーン店の聞き慣れたメロディーと共に入店する。脳内で会議が行われた結果、牛カルビ弁当にすることが決まり、意気揚々と弁当コーナーに直行すると、そこには、可愛らしく首をかしげる少女の姿があった。
この前見たときから変わっているのは、立っていること、髪を結んでいないことだ。お尻ほどまである長い髪がまとまらずふんわりとしているのは、少女の謎めいた雰囲気を
少女はこちらを向くと、少し目を丸める。
「あなたは……」
「秀人だよ。忘れたのか?」
「秀人……」
俺の名前を口にする。それは仕事の最初のルーティンだ。人工ユメ機の設定と記憶の食い違いによる違和感。それは名前を伝えて普段から話したことがあるように振る舞うと大抵解消されるのだ。
少女は納得していない、とでもいうように口をとがらせる。
「――そういうことにしておく」
「なんだよそれ」
「面白そうだから」
おかしなやつだ。珍しい返しのパターン。
「――こんなことでなにしてるんだ?」
「パンを選んでいた。ソーセージパンとコロッケパン、それにチョコクリームパン」
見た目から食べ物で悩むような快活そうなイメージを持っていなかったから少し意外だ。
「ご飯で悩んだりするんだな」
「知らなかったの?」
つい口を滑らしてしまった。
「いや、確かにいつもご飯でよく悩んでいたよ。ちょっと言ってみただけだ」
「ふーん」
会話に一呼吸はさまってきまずくなった。少し話をそらしてみる。
「それでどれにするんだ?」
「それが決められない」
「――そっか」
しばらく見ていたが、いつまでたっても相変わらず可愛らしく悩んでいる。
キャラがつかめない。でも相手がどんな女の子でもとりあえず男気を見せるべきだ。
「決められないのか?」
「うん」
「金はあるか?」
「パン一つ分だけ」
機械みたいに作業的に、それでいて一番自然な間をおいて。わざとらしくため息をついて。財布の中身をチラ見する。千円。コンビニならそこそこの弁当が買える値段だが、今日はあきらめる。
「わかった、俺が全部買ってやるよ」
「――いいの?」
わざと開けている俺の財布を少女はチラッと見て。
「でも秀人のお金が――、それに三つもなんて食べられないし……」
「お金は気にすんな。俺も昼飯きめてなくてな、残りは俺が食べるから、好きなパン好きなだけ食っていいぞ」
少女は迷っているようだった。
「遠慮しなくていいから」
少女はしばらく悩む、そして小さくこくりと頷いて、そのまま下を向いた。
「ありがと」
「どういたしまして」
うなずいた後顔をあげた少女の顔は、ちょっと照れ臭そうに横を向いて、でも少し微笑んでいて、なんだか――
ほんのちょっとだけかわいかった。
レジは空いていて、すぐに会計へと進んだ。
「合計で八百五十円になります」
店員に軽く会釈してコンビニを出る。いつもの動作で完全に無意識になっていたが、
「そういえば時間――」
少女のその声で一瞬で我に返る。時計を確認する。
「もうギリギリじゃないか! パンに時間をかけ過ぎた!」
「――ごめん」
「別にいいさ。気づかなかった俺も悪い」
学校までは歩いて十五分だったか。
「ってことで、走るぞ」
「うん!」
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