5話 依頼
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あれから一週間がたった。年度の終わりが近づいてきた季節、春の温かさがより一層増して、なんだか気分が明るくなる。俺は春が好きだ。
白い少女が病院にやっていたのはそんな春のあるくもりの日の朝だった。
少女は大きな外車に乗ってやってきた。
ボヂィーガードだろうか、中からぞろぞろと黒服を着た屈強な男たちが出てくる。思っていた以上に資産家のようだ。一人だけ普通の男性が最後に出てきた。ボディーガードに指示して、少女を車から運び出す。少女は車いすに乗っていた。
一目見た瞬間、世界が止まった。
白かった。おそらくは寝たきりで外に出ていないからだろう細い体に真っ白い肌、それは不健康そうな印象は全くなく、透き通るようにきれいだ。立てば膝くらいまでありそうな真っ白い髪は、車いすに絡まないように結ばれてポニーテールになっている。決して快活なタイプには見えないだけに、髪型とのギャップを感じた。普段はどのような髪型だったのか、なぜか気になった。白いワンピースを着て座りながらすやすやと眠っている様子は、おとぎ話に出てくる少女のようで、それが愛らしくも不思議な雰囲気を醸し出している。
可愛かった。日本人とアメリカ人のハーフと聞いていた通り、外国の血が入っていることがすぐにわかる顔立ちは素朴だが整っていてとても可愛い。なぜか顔はしっかり見てはいけないような気がして、少女を見るのはそこでやめた。
代表の男が話しかけてくる。
「こちらが西沢総合病院でよろしいですか」
偉い学者さんの娘が来るということでこちらは病院の上層部総出でVIP待遇で迎える。
「はい。私が院長の西沢秀久です。こちらが息子で今回担当する――」
「西沢秀人です。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。僕はこの娘の父親の、森山健次だ。君が、か。凄腕の目覚ま師というのは」
困って黙っていると、わざとらしく声を上げて森山さんは笑った。
「そうだね。反応に困るよね。自分ではいそうですかとも言えないだろうし」
「まだベテランというわけではないですが、息子は目覚ま師としてまだ失敗したことはありません。期待していただいて構いません」
父さんが助け船を出してくれた。
「そうなんですか。若いのにすごいね君は。高校生なんだよね。娘と同じくらいだ」
同じ歳? 中学生くらいに見えたから驚きだ。
「驚くのも無理ないよ。娘は眠りについた三年前から成長していない。それでも栄養も取らず生きているんだから、ユメっていう病気は不思議だよ」
顔に出てしまっていたか。
「すみません」
「いいよいいよ」
手をひらひらさせて笑う。そして急に神妙な顔になって、こう言った。
「だけどさ……お願いあがあるんだけど、聞いてもらっていいかな?」
「はい、なんでしょう」
「娘と仲良くして欲しいな」
どういうことだ。
「仲良く……ですか?」
森山さんはゆっくりと頷く。
「そうだ。まぁ気にしなくてもいい。君ならきっとやってくれると信じてるよ。僕は人を見るのが得意でね」
どこか遠いところを見るように、しんみり、つぶやいた。
「あっそうだ、アメリカから飛行機で渡ってすぐに来たんだ。さすがに疲れたちょっと休憩させてもらいたいんだけど。休むところってありますかね」
「部屋を用意しています。部下が案内します」
森山さんは病院の人に連れられて奥へと消えていった。
俺も学校に行こう、そう思って退散しようとすると、父さんに呼び止められた。
「もう寝始めてから長いからな。一刻一秒も早くというわけではないが、それでもなるべく早くして欲しいというのが患者さん側からの要望だ。最優先で頼む」
「わかりました。学校から帰ってきたらすぐに取り掛かります」
「そのことだが、学校は行かなくていい。休んでも良い許可を先生からもらっている」
「本当ですか!?」
「勝手に話を進めて悪かった。だが学力的には問題はないだろう?」
父さんはこっちを見ない。
「はい……ですが……」
「問題あるか?」
父さんは俺に常に仕事より勉強を優先するように言っていたし、実際そのように取り計らっていた。その父さんが学校を休めと言っている。つまり今回は例外、イレギュラーだ。今回の裏には何かがあるのだろう。父さんがそこまでする何かが。父さんが期待するのならば……
「もちろんありません」
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