オチのない恋愛
高校3年の時、自習時間に先生がDVDを流した。
それは年の差のある男女が徐々に惹かれ合っていく様子を描いた映画だった。
「う~~~~~~~。切ない!切なすぎる!!」
私は見終わった後、すっきりしない気持ちを持て余して、つい喚いてしまった。
「なんで!なんで、男のほうは追いかけないかなぁ!?
あそこで、もう一押しすればハッピーエンドになるかもしれないのにさぁっ。
彼女も、なんで逃げちゃうのかなぁぁぁぁ」
その時、隣の席にいた彼が苦笑して言った。
「まぁ、上手くいかない、もどかしさのある話だったよな。
お前、ハッピーエンドしか認めなそうだよな」
「いや、そーゆーわけじゃないよ?すっきりしないのが嫌なのっ!
好きなら好きで、追いかければいいと思うし、別れるならハッキリ別れればいいと思うわけ。
オチのない話は消化不良みたいで気持ち悪いのっ」
彼はくくくと笑い
「そうだよな。すっきりしたほうが気持ちがいいよな」
と言ったあと、ふと遠い目をし
「でもさ。オチのある恋愛なんて…実際はないだろ…」
とつぶやいた。
普段見ない大人びた顔をした隣人はどんな恋愛をしたんだろうと今でもふと思う時がある。
***
私も25歳になって、あの時の映画のヒロインと同じ年齢になってみたら、ヒロインの気持ちもわかるようになったと思う。
いくら惹かれたといっても高校生と本気で付き合うとかって、やっぱり社会的なこととか、年の差とか、いや、その前に犯罪?とか細かいことを考えてしまう自分がいる。
やっぱり高校生の時の私は青い部分というか、好きなら問題なく突っ走る熱意というか、そーゆー勢いがあったんだなぁ。
恥ずかしくも、羨ましく思う気持ちになるのは、年をとって落ち着いたというより日々の生活に囚われて枯れてしまったということか。
高校の同窓会で遠目に、あの隣の席の彼を見つけ懐古する。
「なぁに黄昏てんの!!久しぶり!彼氏できた?」
久しぶりに会う友人に苦く笑って首を振る。
「じゃあさ、同窓会合コン!参加しない!?今度セッティングするからさー」
と絡む友人に頷いたのは、また高校生の頃の気持ちを思い出したかったからかもしれない。
***
「あんたたちって高校の時もそんな仲良かったっけ?」
「いや、席が隣だった時に少し話したくらい」
同窓会合コンでは彼もいた。
久しぶりに話してみたら、思ったよりも話が弾んで話し込んでしまった。
合コンがお開きになっても、まだ話足りない気がして二人で飲みなおす。
その日は連絡先を交換して、その後も週末2人で食事をしたり飲みに行ったり。
これって、付き合う…というより友人関係だな。
色めいた誘いがまったくないのが多少口惜しい感じもしないわけじゃないが、学生の頃のノリで話せるのに社会人の適切な距離感が心地よくて、この関係に不満はない。
今日もお互い仕事が早く終わりそうとのことなので、じゃあ一緒に夜ご飯を食べて帰るかーみたいになって、街をぶらつく。
ふと、小さな映画館に見覚えのあるタイトルが貼り出されているのに気付いた。
彼も気付き「これ、高校の自習時間にみたよな」と言い、「久しぶりに観ようぜ」と映画館に入っていった。
いつになく強引だな。と思いつつ、否はないので一緒に入った。
「やっぱり、ナイ…」
私の低い呟きに怪訝な顔で振り向く。
「わかるよ!わかるんだよ!?
でも、でも好きならさぁ、どーにかしないかなぁっ。
無理なら無理で、ちゃんとスッキリ終わりにしようよ」
彼は苦笑して
「傷つきたくない。とか、綺麗な思い出のままにしておきたい。とか、そういう風には思わないのか?」
と、さぐるように言った。
私は少し考えたけれども、やっぱり気持ちは変わらなくて
「中途半端のほうが気持ち悪い。
自分にとって大切な人や大事な気持ちなら、きちんと向き合って後悔ないようにしたい。」
と、キッパリ言う。
彼は嬉しそうに笑った。
「お前なら、大人になってもそう言うと思った」
「だから、俺。お前のこと好きになったんだな」
「よし、遅くなったけどメシ食べに行くか。」
とさっさと歩いて行く彼を慌てて追いかける。
なに?
今、なんて言った?
彼は速足で歩きながら、
「お前となら、必ずオチのある恋愛が出来るんだろ?」
と言った。
私は、少し考えて
「現実にはオチのある恋愛なんてないよ。
ずっとcontinueがいい。嫌なことも、いいことも、ちゃんと話し合って続けられる恋愛がしたい」
と言ったら、彼は立ち止まって
「それって、もっといいな」
と笑った。
「俺と、ずっとcontinueな恋愛する気ない?」
少し緊張したような声に年甲斐もなくときめき、顔が赤くなる。
そっと、手をのばしスーツの裾を指先で掴む。
「いいね」
ちょっと、突っ張った返事に彼は少し笑い、そのまま私の手を握り歩きだした。
「とりあえず、メシ行こう。
それから話もいっぱいしよう。」
そうだね。
それでずっと、つづくが続けばいい。
こんなオチのない恋愛だったらいいと思った。