1:変化を求めるラノベ主人公
僕は神谷 虎牛、ラノベ主人公(自称)だ。
小学生の頃に両親を事故で亡くし、親戚に引き取られ、生きてきた。
妹が一人いて、別の親戚に引き取られていた。
妹は今何をしているのだろう。離れ離れになってから一切連絡が取れない。
そんな、普通のラノベ主人公みたいな生活の僕には、多くの悩みがあり、その中で一番大きな悩みは、学校のことでもなく、妹のことでもなく・・・。
「彼女が出来ないこと。」
だった。
ラノベ主人公といえば、鈍感で、愛されていることに気付かないで、生活している・・・と言うのがイメージだった。
僕は鈍感じゃないから、愛されていることに気づけてるから、視線を感じるから。すぐに彼女だって出来る。
そんなふうに考えていた。
だけど・・・
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「神谷くん、おはよう。」
「ん?ああ・・・夢か」
彼女は花園 夢、決して、寝ている時に見る夢ではない。高校生になって初めて告白した相手でもあり、まだ返事を聞いていない女子のうちの一人だ。
「それで?今日こそは一年前の返事を聞かせてほしいんだけど・・・。」
「・・・。」
そう、彼女はこの話を持ち出すとすぐに黙り込んでしまう。もう一年も経つのに僕にはその理由はまだわからない・・・。
「また、今日も会ったな、神谷、夢。」
「ん?あ、今度は与一か。」
こいつは村上 与一なんだかんだで付き合いの長い友人だ。
「やっぱり、いつもこの三人だねー。」
「だな。」
なんて答えたけど、内心では僕の主人公補正がなせる技なんて思っていた。
「なぁ与一くん、こいつまた自分自身の考えに浸ってない?」
「・・・そうだな、そしてこの性格を早くなんとかしてやらんとな。」
どうやら知らないうちに、考えが顔に出ていたらしい。野良猫も引いてしまうほどに、気持ち悪い笑みを浮かべてしまっていた。
「二人とも酷いな・・・人がいる前で、こんな性格がどうとか・・・。」
「はいはい、すいませんでしたー。」
と棒読みで言われた。
「ま、いいや。それと美紅は元気か?与一。」
「おかげさまでね。」
「良かった良かった。」
「心配するくらいなら、あいつの気持ちにも気づいてやってくれよ・・・。」
と、神谷が聞こえない程度の声で与一は呟いた。
「え?与一、今なんて言った?もう一回言ってくれ。」
「なんでもないですよー。な?夢。」
「そうそう、自分で気づかなきゃ意味がないもんねー。」
「なんだよそれー。気になるじゃんか。」
と言いながら逃げていく二人とそれを追いかける神谷の普段の登校中の日常があった。
「やっぱりなんでこんなにラノベ主人公なのに彼女だけ出来ないんだろう・・・。」
そんないつもの日常の後に、終止符が打たれることはなく、今日も何事もなく、”日常”が始まっていく。
「あ、神谷くん、おはよぉー。」
彼女は、北川 恋華、一番古い幼馴染だ。僕が絶対に告白をするなら最後にしようとまで考えている同級生だ。
彼女の特徴は真面目で、おっとりしていて・・・とにかく小さい。
性格と背のせいでちょっとした小動物にも思えてしまうような子だ。
「おう、おはよ。」
そんな風に返しながらいつも通り、窓際の一番後ろの席へ行く。
やっぱり、ラノベ主人公といえばこの席だよな。
「今日は彼女出来たのか?虎牛よぉ。」
彼は上村 一与高校入った時に知り合った、少し不良じみた見た目の友人だ。しかし不良じみているのは見た目だけで性格は優しく、気が弱く、リーダーシップのあるよくわからないやつだ。
この男は僕にはよくわからない。始業式早々話しかけてきたと思ったら、普通にクラスに馴染んでいる。しかも授業中に受けているのか受けていないのか、よくわからない態度の割に勉強が出来るというのがまずは不思議だ。
俺なんて勉強してもしても全然伸びないってのに・・・。気に入らない・・・。
しかし、まぁそんな事を言っている余裕もなく、今日はそのテスト返却の日なのだ。
テストをして1週間、結構手応えはあった。きっと高得点を叩き出せるだろう。いや、今回こそ叩き出し、赤点回避してやる。(フラグ1本目)
と、考えているうちに、予鈴が鳴り、授業が始まった。
目の前に広がる狭い机と、赤いインクのペン・・・これからテスト直しの時間だ。
そして、順々に名前が呼ばれ、自分の名前が近付くにつれて、緊張が増していく。
そして、遂にその瞬間が来た。
「神谷。」
少し老け気味の50過ぎの先生が低い声で、呼ぶ。
どんな思いで、呼んだかは読み取れなかったが、きっと、感激の思いで、呼んだのだろう。感激を通り越して、なにも考えなかったかもしれない。まぁどっちにしろ、高得点を叩き出すだろう。(フラグ2本目)
そして・・・
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「神谷くん、前あんなに自信満々に私たちに、今回は全教科お前らより上だからな~。なんて言ってたのに、このボロボロっぷり、やっぱ期待を裏切らないね。」
いつも通り、小馬鹿にして嘲笑っている夢
夢だ・・・これは悪い夢だ・・・。
「まぁまぁ神谷ドンマイ・・・次、頑張ろう。」
いつも、馬鹿にしかしない、一与がこんなことを言ってくる、やっぱりこれは悪い夢だ。悪い夢はお呼びではないので、帰っていただきたい。
「神谷?今度また勉強会しようか。」
と、怖い顔で詰め寄ってくる村上。
どいつもこいつも馬鹿にしやがって、これは俺の夢の中だぞ?なんで俺ばっかり・・・。まさか夢じゃないんじゃ。
「神谷くん、もしかしてこれ、夢だと思ってる?」
と、恋華が俺に止めを刺してきた。
「く・・そ・・・手応えは、手応えはあったのに・・・なんで全部一桁・・・。」
「え?これで手応えあったの?世界史なんてここ見てよ。
『ベルサイユ条約とは、1945年(昭和20年)7月26日にアメリカ合衆国大統領、イギリス首相、中華民国主席の名において大日本帝国(日本)に対して発された、「全日本軍の無条件降伏」等を求めた全13か条から成る宣言である。』って書いてあるけど、これはポツダム宣言だよ?神谷くん。」
「それが一番自信あったんだ・・・。」
「神谷くん、これ言葉は間違ってないよ?これが『ポツダム宣言を説明しなさい』って問題なら、満点回答だったのにね・・・?」
「他のも一字一句間違えてはいないが、問題と関係ない内容を全部書いてやがる。逆になんでこんなに覚えてて、肝心なところ間違えるかなぁ。」
「・・・。」
こんなのはただの公開処刑だ。(ちなみにここまでの会話は、休み時間ではなく、テストを渡された瞬間に始まった会話なので、ほかの生徒は、この会話を聞いている。)
「またまた赤点パラダイスだな神谷。神谷と上村は今日、放課後残って補修な?」
「え~?ってか上村も補修?珍しいな。」
そう、こいつはいつも、平気で全教科満点をとっていた人間だ。なのに今日に限って全然だめだたらしい。
弘報にも筆の誤り、河童の川流れ、というように『上村にも赤点落ち』があるんだな。やっぱ天才なんかじゃなく、ただの努力家か
「ちょっと補修ってのを受けてみたくなってな。なにしろ一回も受けたことがなくて、普通に勉強せずにやっても赤点取れないから、だったらなにも書かずに提出すれば、赤点になるよなって思って。」
前言撤回。なにが補修受けたことがないから受けてみたかっただ。こちらとて、毎回毎回補修&再試でストレス溜まる一方なのに、こんな再試を受けたがるんだ、こいつは・・・。
「まぁ上村はいいとして、神谷、お前は今日はテスト満点になるまで帰らせないでな?覚悟しろよ?」
うえっ・・・まじか。もうこうなったら前回と同じあの手口で。
「うっ・・・先生・・・お腹痛いんで早退してもいいですか?」
「だめだ。どうせ毎度のことながら仮病だろ?前回、腹痛で早退許可だしたが、あのあと街で遊んでいるお前を見かけたって生徒が多かったからな。」
冷たっ、少しぐらい見逃してくれてもいいのに・・・。もうこうなったら。
「せんせー。今、神谷は、どうやって補修中に抜け出そうか考えてまーす。」
「エスパーかよお前はっ・・・あっ。」
やってしまった・・・。俺の不注意で先生に作戦がバレてしまった。
「大丈夫、大丈夫。今日はずっとついているから。神谷、今回は逃げるなよ?」
「暇人かっ。」
と、先生に叫んでみるが、鋭い眼光により、萎縮してしまう。うぅ···情けない。
今回は帰れそうにもないな。隠れみの術を前回試したが、一瞬でバレたから、使えないし。ずっと横に付いているって言ってるから人形と取り替えるのも無理だし、この先生年の割に、学校中の誰よりも早いし。これは積んだかな?仕方ない。今回は百歩譲って受けてやるとするか。どうせラノベ主人公の僕には留年なんて縁のないことだろうけどな。
「悔しいけど俺、馬鹿なのよね…。」
と、某ロボットアニメのネタを使ってみるが誰も反応せず、少し恥ずかしい思いとともに、後先が少し思いやられる自分に、肩を落とした。
プロローグの次は一話。
4,000文字程度の短い話ですが投稿しました。
誤字脱字、文字変換ミス等、指摘していただけると幸いです。
予定ではほのぼのとした高校生活を描くストーリーです。