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精霊さんはひそかにみまもる

 四月一日、それがわたしの唯一であって全てだった。一日に生まれ二日を迎えることはない。わたしはそう思っていた。

 四月二日の朝、わたしは白の空間で目覚めた。きらきらと光り続ける空が周囲を照らす。過剰に溢れた光は生物を殺し不毛な大地を創りだしていた。 

「最後に言ってくれた冗談があれとか酷過ぎるのですよ」

 『最後に正直な話がしたい』という小さな願い。だらけた雰囲気を身に纏ったあなたが真剣に言った願望。わたしはにやにやが止まらず、羽をつまんでは離してを繰り返していた。

「あなたはどこまで真実に気づいていたのです?」

 不愛想だけどどこか見過ごせない。ここではない世界にいるあなたに問いかける。答えのないむなしい質問が消え去る。


 最初は一年ぶりの外出に楽しんだ。外に出れただけでも嬉しかった。むやみやたらに動き回って反応を期待したのに、薄くてどうしようか悩んだ。だから敢えて変な行動をし続けていた。

「『コト』なんて適当につけた名前を、まさかあなたが呼んでくれるとは微塵も思っていなかったのですが」

 独り寂しく笑う。わたしのあだ名の一つである『綿貫の精霊』だからコットン。数年前のわたしに出会った方と冗談めかしく考えたあだ名。結局他の方は精霊だのアンタだのと言ってくれなかった幻の仮名。あの方は今無事に就職できたのだろうか。アフターケアが有ればいいのに、と何度天に願ったことだろうか。


 この世界にはわたししかいなかった。他の精霊がいるのかも分からない。何故か孤独な空間にぽつりとトランプという名の遊具が置かれていた。傷がつかないことをいいことにずっとずっと遊んでいた。

「どうしてわたしは世界に嫌われたのですかね」

 憑依先の方とトランプがしたいと言ったこともあった。だけど触れない。結局相手に迷惑をかけるだけだった。だからいつの日かひたすらカードを当てる訓練をしていた。だのに本番ではいつも外し、毎回うじうじしていた気がする。


 鏡の向こうにはあなたの世界が見えた。いつものように残業に追われるあなたをわたしは鳥瞰する。「結局こうなるんだよな」と、溜息交じりで言っている。

「表情が柔らかかったことに気付いているのですかね」

 三十一日のあなたは物凄く怖い顔をしていたのです。嘘を嫌い、真実に固執する。正しいのかもしれなのだけど破滅に向かう姿勢にわたしは心を痛めた。

 無知な(・・・)あなたを見て胸がずきずきとしたのだ。


 わたしが後押しすることもなかったのかもしれない。あなたは信用され、感謝されていた。

 わたしの応対もいらなかったのかもしれない。あなたはあなたに嘘を吐いていた。


 でもわたしはあなたの前に現れた。空想に虚栄で嘘を塗り付ける。わたしにはそんな物騒な力もなければ、あなた一人すら変化させることもできない。ちっぽけな子供の手では何もかもさらさらと零れ落ちていく。彼らが手を挙げなければ、わたしはたった一つの信念すら折れていたかもしれない。


「『根っからの大馬鹿野郎なのですから』我ながら理想通りな言の葉(・・・)なのですかね」

 この時は心の底から安心したものだ。しこりが消え去って、高揚感が舞い落ちる。どうせ嘘なのですから、もしかしてこんな小言まで聞こえていたのかもしれない。それでもあの願望は心躍るものがあった。


「まあ結果オーライなのです」

 わたしの力の結晶。四月一日にしか使い物にならない、今はなんの意味もない言の葉を放り投げる。透明な水晶は、こつんと鏡に当たり地に落ちた。

 わたしは舞う粉を横目に鏡を見続けた。

 鏡に映るわたしは、くすりとほほ笑んでいた。 

「cottonだからコトとは……。いくらなんでも安直な名前じゃないですか?」

「安直だからいいじゃないか。……無駄に凝っている名前よりそういう方が気にもされないから」

 変な読み方を付けられた君の表情は、見るに堪えない無様なものだった。緊張を解そうとしていたのに失敗したあの時のわたしはどうしていたのだろうか。どれだけ印象的でも数年で忘れる鳥頭が恨めしかった。


追記)ここまで読んでいただけた方に対して、なんてお礼を申せばよいのかわかりませんが一先ず。ご清聴ありがとうございました。

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