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精霊はかってにむさんした

本来の予定はこの話まで一日に投稿。……もう二日ですね。

「了解なのです!」コトはそう答えたきり本当に昇天してしまった。休憩が終わり、いつものルーチンに戻っても姿を現さない。突風がいつ吹き荒れるか分からないと警戒し、結局杞憂となってしまっていた。


「やっと終わったのですよ」

 にゅっと地面から現れたのは仕事が終わってからであった。

「今日の担当は……」

「俺たちですね」

 淡々と僕に近づく長を、数人の同僚が制止する。先日仕事を押し付けて外で遊んでいた連中だが何を考えているのだろうか。

「君たちは昨日の担当だった筈だ」

「いつもあいつには助けられているんで」

「だからといって業務の変更は禁止――」

「昨日、私たちは彼に押し付けていたので問題ないと思います」

「……分かった。それなら今日の分を頼む」

 彼らは屈託のない笑顔で応対する。その綺麗な笑顔が余計に怪しいものとなっていることに誰も気付いてない。 

 折れない集団を前に、長は溜息を吐いた。これ以上不毛な争いを続ける必要性がないと判断したらしい。

「どうですか。これがわたしの力なのです」

 唖然としている周囲の上空を、コトは独り楽しそうに滑空していた。



「どうして貴方は何も言ってくれないのです」

 帰宅して早々、背後から言いがかりをぶつけられた。例え幻影だとしても感謝の意は示している。他に重要なことはないと思う。

「大体のことなら叶えられるのですよ」

 コトの言葉を鵜呑みにすれば、確かに可能なのだろう。

「大して仲良くない同僚と形式的に金をどぶに捨てることも、ボロボロに不相応に貢ぐことも無くなるのですよ!」

 背後から僕をすり抜けて前方に出現する。飲み会で失った金を取り戻すべく食費を削ったことは記憶に新しい。

「天からの恵みも、ハーレムだって可能になるのですよ」

 顔をずいっと近づける。感傷的になってしまった上ずった声が頭に響く。

「戦争を無くすことも可能だろうな」

「……さすがにそれは願いの範疇を超えているのです。冷戦を止めた所で別の場所で勃発するだけなので」

 瞳の焦点を僕に集中させ、ぱたぱたと羽が不規則に揺れた。苦笑いが声色に混ざっている

「そんな例外的なことはともかく、時間がないのですから何かないのですか?」

 答えはもう既に決まっている。 何やら焦ってわたわたしているが結論は揺らがなかった。

「適当に言うだけでもいいのですよ。………………」

 何やらぼそぼそ吐き捨てているが何を言っているのか分からない。

 嘘を吐くやつを嫌悪していたのは誰だ。醜態をさらす真似の代わりに叶う願い等ありはしないと耳元から囁く悪魔がいる。コトなら任せても問題ないから全てを託せと黒い表情で目論む堕天使がいる。仁義と欲望が天秤にかけられていた。


「そうだな。『…………』でいいか?」

 僕は脳内を振り回す天秤に金槌を振り下ろす。すっきりとしたたった一つの解答だった。

「貴方ならそう言うと思っていましたよ。根っからの大馬鹿野郎なのですから」

 本心から呆れているのだろうにコトは桜の様な笑顔を振りまく。

「コトに言われるのは癇に障る」

 消えゆく足元を見つめ、目を泳がせた挙句の果てに回している。こいつに大馬鹿扱いされるのは相当侮辱行為ではないだろうか。

「貴方なら天啓や運命なんて物騒なものも跳ね返していそうなのです」

「出来ていないからこうして生きているのだが」

 運命を捻じ曲げる様な妄想が出来るなら今頃不自由していないであろう。雑用を押し付けられることもないし、幻影と一日を過ごすこともない。数多の善人と出会い、幾多の話をし、無数のレパートリーを得てを繰り返す。理想的で平凡な人生を送ることだって夢ではない。


「なんでわたしが貴方の前に現れることになったのか。覚えていますか?」

 羽毛がちらちらと落ち、光の粒子と化し消滅する。時刻は午後十一時五十五分。最悪な日は終わろうとしていた。

「僕がコトの唯一の日を侮辱したからじゃなかったのか?」

 恐らく目の前の幻影は五分後には消えてしまうのだろう。動かないのではなく動けない。両足を失ったコトはただ僕を見ていた。

「……その条件なら大なり小なりたくさんいるのですよ。冗談で浮気相手に告白し傷つけた方も、セクハラと勘違いされ逮捕された下種もいました。だけどわたしはあなたの前にいるのですよ」

 自業自得の奴も混ざっていたがコトは真剣なのだろう。

「最初は凄く冷たくて心配になりましたよ」

 過去を想起し、思い出し笑いをしているコト。

「力を見せても驚かないなんて初めてでしたから。その時から最後の願いも分かっていたのかもしれないのです」

 霧散した左腕を気に留めることなく、人差し指は空を舞う。

 指は線を描き、線は形となり創造する。小さく質素な箱が無から現れた。

「こんなことをしても驚かないのですか」

 目の前に人外がいるのにその程度で驚かない。淡く輝く箱がコトの右手に収まる。

「これが最後のお礼なのです」

「それじゃ達者でな……!」

 考えるよりも先に言葉が出た。

 コトはえいやと勢いよく飛び掛かってきた。上半身しかない状態でも動けるのかよ。体が揺れ反射的に飛び退く。


「やっぱり大馬鹿さんなのです」

 逃げたお陰で見られた最後のコトは、してやったりという無邪気なものであった。 

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