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出逢い side夜白

「あの……姫百合(ひめゆり)さん?」

「…………」


昼休みの教室。普段は真っ先に昼御飯を食べている時間に、一人黙々と菓子パンを食べる少女に声をかける。

「えと、その………」

「………………。何ですか?」

沈黙の後、菓子パンを机に置いた姫百合さんが、警戒したようにこちらを見ながら尋ねてくる。

「もし良ければ、一緒にお昼食べない?」

「……………。どうしてですか?」

「どうしてって…………」

返答に困っていると、姫百合さんが無表情のままオレの顔を見つめていることに気付く。正直可愛い。

「疚しい意味は無いんだけどさ。その、………話してみたかったからかな」

言いながらも、目先の彼女と自分の発言に恥ずかしさを感じる。

周りからみれば、好きになった相手に話しかけてるみたいな構図になってるのかな?

「………。私を笑いに来たわけじゃないんですね」

「そんなことしないよ。ただ、話したかっただけで」

段々沈黙する時間が減って、会話のリズムが早くなる。そして、今度はほとんど間を開けずに

「いいですよ」

そう、姫百合さんが答えた。小さく微笑みながら。今まで見たなかで一番の笑顔で。

「じゃあ行こう」

「えっ………!?」

姫百合さんの手をとり歩き出す。少し驚いているのは、歩くことと手を繋いだことのどちらにたいしてだろうか。

「あ、あの……」

教室の入口あたりまで来たときに声をかけられた。

「どうしたの?」

振り返ると、顔を赤くした姫百合さんが何かを誤魔化すように「パン、取ってきます」と言って、席まで急いで戻る。戻ってから、パンを取るまでに結構静止状態が長かったのはよくわからない。

「じゃあ、今度こそ」

そして、こちらに帰ってきたので歩き始めようとすると……

「待って、下さい……」

また、呼び止められた。

「どうかした?」

後ろを向き問いかけるとーー

「…そ、その………手を」

恥ずかしそうに答えた。そして、少しずつ手を差しのばされる。

当然、俺はその手を握る。手を引いて、歩き続ける。

姫百合さんが何か言っているみたいだけど、よく聞き取れない。

「アイツ、ホントに最低」

「可哀想に、手が汚れちゃう」

だが、教室からする声は完璧に聞こえた。


◆◇◆◇


姫百合さんと移動を始め、数分後。学校の屋上に二人きりの現在。落下防止のフェンスに背を預け、並んで座っている。

「よかった。誰もいなくて」

「あ、あの……」

「どうかした?」

隣に座る姫百合さんを見ると、妙にモジモジしていた。

「え、えと……その、あの」

よく考えたら教室を出た辺りからこんな感じだった気がする。どうかしたんだろうか?

「ら、蘭月(らんげつ)…君?で………い、いいのかな?」

「それでいいよ。えっと、蘭月夜白(やしろ)です。よろしくね」

「ひ、姫百合、燐火(りんか)……です」

姫百合さんの顔がすごく赤い。自己紹介とか恥ずかしいのかな?

「姫百合さん」

「は、はいっ!?」

「とりあえず、食べ始める?」

持ってきた弁当箱を出しながら言う。

「そ、そうですね」

弁当箱を開けてから、姫百合さんが菓子パンしか持っていないことに気付いた。彼女の目の前まで弁当箱を出す。

「食べる?」

そう聞くと、パンを食べ終えた姫百合さんが「いいんですか?」と聞いてきたので逆に質問する。

「何か欲しいものある?」


「えっと……じゃあ卵焼きを」

「わかった。――――はい、口開けて」

弁当箱の中から卵焼きを箸ですくい、姫百合さんの口元に差し出す。

「……え、ええっ!?………そそそ、それって………」

「はい」

「あの、えと……………あ、あむ」

姫百合さんが卵焼きを口へ入れる。その姿が子供っぽくて可愛い。普段見る姿とは違う。実際の彼女は明るい子なんだと思う。

「美味しい、です………」

「そっか、よかった」

「これ、作ったのは……」

「ああ、妹だよ。結構できる奴でさ、兄として誇らしいんだ」

「そう、ですか……」

今一瞬、姫百合さんがどこか残念そうな顔をした気がする。

「そう、だ……」

突然、彼女が制服のポケットからメモ帳とペンを取り出して何かを書き始めた。

「蘭月君。これ受け取って、ください」

そう言って、そのメモ帳から一枚取り外し、折り畳んで差しだしてきた。

「これは?」

受け取ってから聞いてみるとーー

「声をかけてくれたお礼です。えと…家帰ってから見て欲しい、です」

そう返される。どうして帰ってからなんだろうか。本人がそうして欲しいならそうするけど。

お礼か……

「それくらい当たり前だよ」

そんなことは、して当然だ。痛みも苦しみもわかるから。

「俺さ、中学の頃にいじめられてたんだ」

「えっ!?………どうして、ですか」

「親の都合で今の家に引っ越してから、色々あったんだ」

「色々ですか。……大変、ですよね」

「まぁ、終わった話だけどね。大変では、あったな」

どうやら察してくれたみたいだ。できれば、あまり話したくないことだから助かるな。

「色々あって、それが原因でいじめにあった。毎日苦しいと感じてた」

「でも、今は……」

「今は大丈夫。アイツのおかげで」

「アイツ?………」

姫百合さんが不思議そうに言う。これから先は全部話すか。どうせ隠すことじゃないし。

「いじめにあってる俺に唯一話して、優しくしてくれる人ができたんだ」

「優しくしてくれる人、ですか」

「そう。だからかな、アイツの真似事みたいに君に話しかけた」

所詮真似事に過ぎないことはわかってる。それでも、同じ苦しみを背負う人は見捨てられないから続ける。

「ありがとうございます。蘭月君」

姫百合さんが微笑む。その笑顔には影一つ感じない。

「やっぱり、可愛いや。姫百合さんは」

今日一日で何度こう感じたのだろうか。まさか本人目の前で声に出してしまうとはな……

「可愛………は、ふぁい!?」

「突然ごめんね。つい口に出ちゃって、疚しさないのは本当だから」

「私、可愛い………」

姫百合さんが、すごく不思議そうに、形を確認するように自分の顔をぺたぺたと触る。

「……ん?」

突然、足に振動が伝わる。ズボンのポケットから揺れの正体である携帯電話を取り出すと画面には、例のアイツの名前が出ていた。

「姫百合さん、ちょっと待ってて」

「あ、はい」

タップして通話を開始し、耳に当てる。

「もしもし、何の用だ?」

『ちょっと来て貰えるか?急ぎの用がある。大切な用が』

「悪いが、俺も大事な食事の最中だ」

「大事な、食事か……」

姫百合さんの嬉しそうな声が聞こえた気がする。

『どうせ一人だろ。来いよ』

「一人じゃねぇよ。……はぁ」

全く、失礼かつ面倒な奴だな。でも仕方がない、恩人ではあるしな。

「わかった。どこに行けばいいんだ?」

『校門前』

「やっぱり来てるのか。直ぐ行く」

タップして通話終了。携帯電話をポケットに戻してから

「ごめん姫百合さん」

謝る。自分から連れ出しておいて何をやっているのだろうか。後でしっかり埋め合わせしないと。

「ちょっと行ってくる。全部食べちゃっていいよ」

「あ、うん。……気をつけてくださいね」

「行くと言っても、学校の前までだけどね。埋め合わせはまた」

そして、返答を聞く前に校舎に入って校門を目指し歩みだす。

屋上を出て直ぐの階段。オレ以外にも誰かがいる。

「あ、蘭月君」

「どこか行くの?」

「え、あ、うん」

その誰かに突然そんなことを聞かれて、戸惑いながら答える。相手は多分クラスメイトのはずだが、それ以上に印象に残っていた声だった。

だが、今は約束を最優先にしていこう。


◆◇◆◇


しばらく経って、さっきの階段。今度は誰一人いない。

「まだ、待っててくれてるのかな」

昼休みの時間は殆どなくなってきている。いなかったとしても、仕方がないことではある。

階段を登りきり、直ぐそこにある扉を開ける。すると、人のいない屋上が見えた。

「あれ?なんでこのまま」

誰もいないことは特におかしくないのだが、存在する物は変だ。

「殆ど減ってない」

置かれてある弁当箱は、別れたときと比べて何も変わっていないに近い。そして、その傍にはペンが一本落ちていた。

「なんでこんなところに、落ちてるんだ」

いないことだけ考えれば教室に戻ったで終わるが、何か引っ掛かる。

「あの声………まさか!!」

その時、何故か声を思い出した。ある声を。

「それしか無いな」

素早く片付けた弁当箱とペンを手に取り走り出す。自分の考えを信じて。

信じたくない現実を信じて。

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